嘘つきは恋人の始まり

JUN

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ナンパ

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 待ち合わせの場所に先に戻ったのは、霙だった。
(そう言えば、猫の血がついて、上着だめになったのね。似合ってたのに)
 そんな事を考えて、残念に思う。
 と、複数の足音が近付き、声がかけられた。
「ねえ、彼女。1人?」
 見るからに頭もモラルも軽そうな高校生か大学生くらいの男が3人霙を見ていた。
 こういうタイプは、霙の苦手とするところだ。
「いえ。連れがいますので」
「女の子?」
「いえ」
「じゃあ、いいじゃん。放っておいて、一緒に遊ばねえ?」
 霙には理解不能の文脈だった。
「いいえ。私は」
 言って、よそを向く。
 が、その先に回り込んで、しつこく誘う。
「固い事言わないで」
「固いとか固くないとかじゃなく――」
「いいから来いって」
「やめてください!」
 霙の腕を掴もうとするので避けようとすると、別の男の手がそこにある。
 と、その手を誰かが掴んだ。
「俺の連れに、何か?」
「真秀!」
 ホッとしたような声を霙が上げ、男達は真秀を見た。
 堂々としていて、妙に威厳があり、顔面偏差値はどう見ても真秀が高く、どこか不機嫌そうにしている。
 それで男達は気圧されたようになり、もごもごと言葉にならない何かを言いながら退散して行った。
「悪い。遅くなった」
「ううん。行こう」
 霙が振り返ると、男達は、少し離れたところで足を止め、こちらを見ている。
 真秀は霙の肩を軽く抱き、離れて行った。

 男達は、軽い舌打ちでそれを見送り、自分達のリーダーの所へ戻った。
 リーダー、それと男が6人とケバい女が1人。それが彼らの人数だ。それに今日はリーダーの友人という市議会議員の息子が合流していて、ケバい女1人しかいないので、そこにいた霙に目を付けて「連れて来い」と命令されたのだ。
「すいません。連れの男が」
 言い訳するのに、リーダーが遮るように頭をはたく。
「見てたよ!くそ」
 女が、ケタケタと笑う。
「イケメンだったし?こいつらじゃ負けるでしょ」
 それに、男達が全員ムッとした。
「腹が立つなぁ」
「いい事思い付いた。今日の試し撃ち、あのイケメンをターゲットにしてやろうぜ。その後、女はみんなで楽しめばいい」
 男達は目を輝かせるようにして、相談を始めた。

 真秀は離れた所まで来ると肩から腕を外し、霙に言った。
「事情は分かるし、同感だけど、流石に女の子が一晩家出はやめた方がいいよ。送るから」
 霙は口を尖らせて真秀を見た。
「真秀はどうするの」
「俺は……」
 明日は外せない用がある。
「帰らない訳には行かないな。明日、大事な用があるから」
 揃って小さく笑った。
「家出の終わりはこんなものか」
「しょぼいものね」
 溜め息が出た。
 どこか、離れがたい。
「ねえ、アドレス交換しない?」
「そうだな。許婚がどうなったかも気になるしな」
「そうよ」
 交換しようとスマホを出し、お互いにはっとした。
(ヤバい。本名だ)
 どちらもそっとスマホをロックする。
 どうやって切り抜けるか忙しく考えていると、背後で若い女の悲鳴がした。
 振り返り、それを見た。先程の男達が、若い女の子を羽交い絞めにして、大きいナイフを首筋にあてがっていた。
「やめろ!」
「うるさい!」
 すぐ横に、黒いバンが停まり、ドアが開く。
「お前ら、乗れ!この女がどうなってもいいのか!」
 見ず知らずの女性だが、それで知らん顔もできない。
「卑怯者!」
 霙が吐き捨てる。
「助けて!お願い!」
 女が言い、真秀は嘆息して霙に小声で言った。
「どうにかして雪は助ける。隙があれば、逃げろ」
 霙は小声で返す。
「雪……ああ、はい。
 でも、私だって負ける気はないわよ」
「わかった」
 2人は言われたとおりにバンに乗り込んだ。
 その後から、女も押し込められる。
 こうして、どこに行くのかわからないまま、ドライブに出発したのだった。


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