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報道と規制
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最後の大型のトカゲのようなものを切り、敵性生物はいなくなった。
「うむ。片付いたであるな」
辺りをざっと見廻して確認するが、最後だったらしい。
改めて、それを見た。
金属塊がぶつかって溶けたようなものの上が異世界生物の出て来るポイントになるらしい。ここに固定されたのは、いつどこに現れるかわからないよりはいい。
トンネルの出口を柵で塞いで、ここを常に見張り、出てきたらすぐに対処というやり方をとっており、街中に異世界生物が行けないようにとしていた。
そしてここは危険でもあるので、特殊次元庁の許可なくして立ち入りを禁じている。
「でもこれ、爆弾のなれの果てなんでしょ」
パセは、耳をピクピクさせねがらそれのそばにしゃがみ込んだ。
「爆薬はどこに行ったのかな」
篁文もそれが不思議だ。爆弾だけどこか次元の海に漂い出ているのだろうか。
それが漂着してしまった次元では、ある日突然、爆薬だけが現れて大爆発という事になるのだろうか?たまった物じゃない。
「いつかひょっこりとそれが現れない事を、せいぜい祈ろう」
それで篁文達は、そこから引き上げた。
柵で封鎖されたトンネル日本側出口を、彼らは暗がりに身を潜めて見ていた。
あの向こう側は、一度は特殊次元庁の公開した映像でサラッと紹介されたが、その向こうにあるラクシーや、特殊な機材でつながっているコベニクスやデルザやメルベレに関しては、公開されていない。
彼らはジャーナリストとして、それをカメラに収めて来ようと目論んでいた。
「大丈夫ですか」
静かなトンネルの中を見ながら、カメラ担当が言う。
「次元震とやらが来たら、急いで向こう側にでも走り込めばいい。まさか、パスポートが無いからって危険のただ中に追い返しもしないだろう」
記者の方がそう言って唇を引き上げる。
2人は、確信犯だった。
「初のアクシルの潜入ルポだ。これで俺達も、一気にトップだ。行くぜ」
「ああ」
2人は唇を舐め、静かに柵に忍び寄ると、辺りにパトロールの警官がいないのを確認し、警報装置の導線をニッパーで切ると、素早く柵の向こうへと滑り込んで行った。
2人は、足音と声を忍ばせながら、奥へと進んで行った。
1本道なので迷う事もない。
「あれだ」
次元の交差ポイントが見えて来た。
クラスメイトに丁寧に物理問題の解説をしている篁文を、紗希は廊下から見ていた。
「何よ。これまでは殺し屋だとかなんだとか言ってたくせに」
篁文が戻ってきて以来、篁文に向ける目が変わった。そして恐れていた通り、女子が狙い始めた。きっかけは学校の外の女子が校門で「ファンです」と言って来たことで、それに焦りを感じた女子が、声をかけ始めたのだ。
紗希にしてみれば、たまったものではない。
「紗希、本当の所、どうなってるの。向こうでちょっとは距離が縮まったの」
友人が訊いて来る。
「……ちょっとは、縮まったと思ったんだけど……」
「まあ、綾瀬君からしたら妹みたいなものなのかもね」
「妹ぉ?」
「姉ではないでしょ」
紗希も、嫌々ながらも認めざるを得ない。
「言葉も通じないところで、通じるのは相手だけ。またとないチャンスだったのに何してたの」
「向こうでは、びびって近付かないなんて人はいなかったのよ。
まあ、篁文が鈍いんで助かったけど」
今も、距離を詰めて接触しながら質問する女子に、篁文は容赦なく「公式を暗記しろ」「図形を書いてみろ」と真面目に対応している。
これではいけないと思ったのか、さり気なく胸を腕に押し付けて無視されていた女子が、篁文に笑いかける。
「ありがとう。とても分かり易かったわ。
ねえ。放課後、カラオケにでも行かない?いつも綾瀬君はどんなことをしてるの?」
「買い物と家事とバイトとトレーニングだ。折角だが、カラオケは遠慮する」
男子が食いつく。
「バイトって、アレですよね。特殊次元庁の」
相変わらず、敬語が多い。
「ああ。そっちの訓練と待機と、出れば本番だな」
「カッコいいですよね」
篁文は少し目を伏せた。
「そうか……」
女子が、グイグイと寄せて行く。
「綾瀬君、じゃあ、休みの日にでもどう?」
紗希がたまらず飛び出し、篁文の腕をとった。
「篁文!忘れてないわよね。約束」
「……ああ」
心なしか、篁文の顔色が青くなる。
約束の話を聞いている紗希の友人は、少し気の毒になっていた。大抵のスイーツバイキングは、女だらけだ。加えて、紗希が行こうと思っているのは、物凄くメルヘンな店だ。
「約束は、守る。覚悟はできている」
「うふふふふ」
その時、呼び出しを示す電話の呼び出し音が篁文と紗希のポケットからした。
「はい、綾瀬です」
『次元震だよ。運の悪い事に、忍び込んだ人がいる』
セレエの声が飛び出して来る。
「わかった。急いで向かう」
篁文と紗希は、急いでトンネルに向かった。
「うむ。片付いたであるな」
辺りをざっと見廻して確認するが、最後だったらしい。
改めて、それを見た。
金属塊がぶつかって溶けたようなものの上が異世界生物の出て来るポイントになるらしい。ここに固定されたのは、いつどこに現れるかわからないよりはいい。
トンネルの出口を柵で塞いで、ここを常に見張り、出てきたらすぐに対処というやり方をとっており、街中に異世界生物が行けないようにとしていた。
そしてここは危険でもあるので、特殊次元庁の許可なくして立ち入りを禁じている。
「でもこれ、爆弾のなれの果てなんでしょ」
パセは、耳をピクピクさせねがらそれのそばにしゃがみ込んだ。
「爆薬はどこに行ったのかな」
篁文もそれが不思議だ。爆弾だけどこか次元の海に漂い出ているのだろうか。
それが漂着してしまった次元では、ある日突然、爆薬だけが現れて大爆発という事になるのだろうか?たまった物じゃない。
「いつかひょっこりとそれが現れない事を、せいぜい祈ろう」
それで篁文達は、そこから引き上げた。
柵で封鎖されたトンネル日本側出口を、彼らは暗がりに身を潜めて見ていた。
あの向こう側は、一度は特殊次元庁の公開した映像でサラッと紹介されたが、その向こうにあるラクシーや、特殊な機材でつながっているコベニクスやデルザやメルベレに関しては、公開されていない。
彼らはジャーナリストとして、それをカメラに収めて来ようと目論んでいた。
「大丈夫ですか」
静かなトンネルの中を見ながら、カメラ担当が言う。
「次元震とやらが来たら、急いで向こう側にでも走り込めばいい。まさか、パスポートが無いからって危険のただ中に追い返しもしないだろう」
記者の方がそう言って唇を引き上げる。
2人は、確信犯だった。
「初のアクシルの潜入ルポだ。これで俺達も、一気にトップだ。行くぜ」
「ああ」
2人は唇を舐め、静かに柵に忍び寄ると、辺りにパトロールの警官がいないのを確認し、警報装置の導線をニッパーで切ると、素早く柵の向こうへと滑り込んで行った。
2人は、足音と声を忍ばせながら、奥へと進んで行った。
1本道なので迷う事もない。
「あれだ」
次元の交差ポイントが見えて来た。
クラスメイトに丁寧に物理問題の解説をしている篁文を、紗希は廊下から見ていた。
「何よ。これまでは殺し屋だとかなんだとか言ってたくせに」
篁文が戻ってきて以来、篁文に向ける目が変わった。そして恐れていた通り、女子が狙い始めた。きっかけは学校の外の女子が校門で「ファンです」と言って来たことで、それに焦りを感じた女子が、声をかけ始めたのだ。
紗希にしてみれば、たまったものではない。
「紗希、本当の所、どうなってるの。向こうでちょっとは距離が縮まったの」
友人が訊いて来る。
「……ちょっとは、縮まったと思ったんだけど……」
「まあ、綾瀬君からしたら妹みたいなものなのかもね」
「妹ぉ?」
「姉ではないでしょ」
紗希も、嫌々ながらも認めざるを得ない。
「言葉も通じないところで、通じるのは相手だけ。またとないチャンスだったのに何してたの」
「向こうでは、びびって近付かないなんて人はいなかったのよ。
まあ、篁文が鈍いんで助かったけど」
今も、距離を詰めて接触しながら質問する女子に、篁文は容赦なく「公式を暗記しろ」「図形を書いてみろ」と真面目に対応している。
これではいけないと思ったのか、さり気なく胸を腕に押し付けて無視されていた女子が、篁文に笑いかける。
「ありがとう。とても分かり易かったわ。
ねえ。放課後、カラオケにでも行かない?いつも綾瀬君はどんなことをしてるの?」
「買い物と家事とバイトとトレーニングだ。折角だが、カラオケは遠慮する」
男子が食いつく。
「バイトって、アレですよね。特殊次元庁の」
相変わらず、敬語が多い。
「ああ。そっちの訓練と待機と、出れば本番だな」
「カッコいいですよね」
篁文は少し目を伏せた。
「そうか……」
女子が、グイグイと寄せて行く。
「綾瀬君、じゃあ、休みの日にでもどう?」
紗希がたまらず飛び出し、篁文の腕をとった。
「篁文!忘れてないわよね。約束」
「……ああ」
心なしか、篁文の顔色が青くなる。
約束の話を聞いている紗希の友人は、少し気の毒になっていた。大抵のスイーツバイキングは、女だらけだ。加えて、紗希が行こうと思っているのは、物凄くメルヘンな店だ。
「約束は、守る。覚悟はできている」
「うふふふふ」
その時、呼び出しを示す電話の呼び出し音が篁文と紗希のポケットからした。
「はい、綾瀬です」
『次元震だよ。運の悪い事に、忍び込んだ人がいる』
セレエの声が飛び出して来る。
「わかった。急いで向かう」
篁文と紗希は、急いでトンネルに向かった。
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