同居人

JUN

文字の大きさ
上 下
16 / 20

ドライブ

しおりを挟む
 廊下に出ると、マンションの敷地の端に、霊田さん改め早瀬さんと犬がこちらを見上げて立っているのが見えた。
 榊原さんが乗ってきたという車で行くことになっており、近くのコインパーキングへ向かう。
 それを、近づけない早瀬さんが恨めしそうな目を向けながら、一定の距離を置いて着いてくる。
 車はもしかしたら外車なんじゃないかと思ったが、一応国産だった。ただし高級車には違いなく、エンジンは静かでシートの座り心地はいい。営業車はもちろん、実家の父親の車とは訳が違う。
「じゃあ出発しますよ」
 榊原さんは後部座席に並んだ俺と嶋田さんにそう言って、静かに、滑らかに車を発進させた。

 道路はほどほどに混んでいた。平日の方が混むのだ。
 しかし交差点にさしかかった時、横から車が突っ込んできた。
「わっ!」
 俺は事故を覚悟したが、榊原さんはそれを華麗に避け、事故を回避した。
「危ないなあ」
「信号無視でしたね」
 俺と嶋田さんが言うのに、榊原さんがポツリと言う。
「早瀬さんの妨害が始まったようですね」
 それで、車内に緊張感が満ちた。
「シートベルトをしておいてください」
 榊原さんが言うのに、俺と嶋田さんは急いでそれに従った。

 前を走るトラックの荷物が崩れて積み荷が散乱する。
 横を走るバイクが突然スリップして倒れたのは二回。
 横道から自転車が飛び出して来たのは四回。
 玉突き事故に巻き込まれそうになる。
 横合いから追突されそうになったのは三回。
 事故ってこんなにあるんだな、と改めて考えていたら、フロントガラスにカラスが突っ込んできたし、緊急工事や事故がやたらとあって回り道ばかり指示されている。
「妨害って、凄いんやなあ」
 思わず感心してしまう。
「まあ、向こうも必死だね。成仏させられるんだから」
「確かにそうですねえ」
 俺たちは三人とも、呆れるやら感心するやらだった。
 普通に行けば車で一時間もかかるかどうかという距離だそうだが、既に、二時間半は走っている。
「あの山の中腹にあるんですよ」
 やっと榊原さんがそう言ったので安心した直後、落石で危うく岩が車に直撃するところだった。

 疲れ果て、神経をすり減らし、どうにかこうにかそこに着いた時には、三人とも心から安堵していた。
「伯父さん」
 榊原さんがそう声をかけながら玄関のガラス戸を開けると、お香の上品ないい香りの中、上品そうな壮年の男性がそこに立っていた。車の音が聞こえたのだろうか。
「いらっしゃい。
 まあ、挨拶は後で。とにかく先に、それを出しなさい」
 言われて、榊原さんが写真立てとキーホルダーを出して男性に渡した。
 部屋で見た時より、写真は黄ばみ、キーホルダーからは何か粘液がしたたっているように見えた。
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

人形撃

雪水
ホラー
人形って怖いよね。 珈琲の匂いのする思い出が最近行き詰まり気味なので息抜きで書きます

殺したはずの彼女

神崎文尾
ホラー
 異様な美少女、平岡真奈美。黒瀬柚希はその美少女を殺した。だというのに、翌日もその翌日も彼女は学校に来て、けらけらと笑っていた。  故意ではなかったものの間違いなく自分が殺してしまったという罪悪感と、加害者としての意識にさいなまれながら、被害者である真奈美がすぐそばで笑っている異常事態に心身を病み始める柚希だったが、ある日からその周辺で異様な事態が起こり始める。田舎町を舞台に繰り広げられるホラーストーリーの最後はいったいどうなるのか。神崎文尾の新境地、ここに完成。

11:11:11 世界の真ん中で……

白い黒猫
ホラー
それは何でもない日常の延長の筈だった。 いつものように朝起きて、いつものように会社にいって、何事もなく一日を終え明日を迎える筈が……。 七月十一日という日に閉じ込められた二人の男と一人の女。 サトウヒロシはこの事態の打開を図り足掻くが、世界はどんどん嫌な方向へと狂っていく。サトウヒロシはこの異常な状況から無事抜け出せるのか?

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

【連作ホラー】幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー

至堂文斗
ホラー
――其れは、人類の進化のため。 歴史の裏で暗躍する組織が、再び降霊術の物語を呼び覚ます。 魂魄の操作。悍ましき禁忌の実験は、崇高な目的の下に数多の犠牲を生み出し。 決して止まることなく、次なる生贄を求め続ける。 さあ、再び【魂魄】の物語を始めましょう。 たった一つの、望まれた終焉に向けて。 来場者の皆様、長らくお待たせいたしました。 これより幻影三部作、開幕いたします――。 【幻影綺館】 「ねえ、”まぼろしさん”って知ってる?」 鈴音町の外れに佇む、黒影館。そこに幽霊が出るという噂を聞きつけた鈴音学園ミステリ研究部の部長、安藤蘭は、メンバーを募り探検に向かおうと企画する。 その企画に巻き込まれる形で、彼女を含め七人が館に集まった。 疑いつつも、心のどこかで”まぼろしさん”の存在を願うメンバーに、悲劇は降りかからんとしていた――。 【幻影鏡界】 「――一角荘へ行ってみますか?」 黒影館で起きた凄惨な事件は、桜井令士や生き残った者たちに、大きな傷を残した。そしてレイジには、大切な目的も生まれた。 そんな事件より数週間後、束の間の平穏が終わりを告げる。鈴音学園の廊下にある掲示板に貼り出されていたポスター。 それは、かつてGHOSTによって悲劇がもたらされた因縁の地、鏡ヶ原への招待状だった。 【幻影回忌】 「私は、今度こそ創造主になってみせよう」 黒影館と鏡ヶ原、二つの場所で繰り広げられた凄惨な事件。 その黒幕である****は、恐ろしい計画を実行に移そうとしていた。 ゴーレム計画と名付けられたそれは、世界のルールをも蹂躙するものに相違なかった。 事件の生き残りである桜井令士と蒼木時雨は、***の父親に連れられ、***の過去を知らされる。 そして、悲劇の連鎖を断つために、最後の戦いに挑む決意を固めるのだった。

平成最後の夏

神崎文尾
ホラー
なんで、なんで、あの子がここにいるの。 だって、あの子はあのときに。 死んだはずなのに。 平和な村は平成最後の夏に幽霊騒ぎに巻き込まれる。 神崎文尾が送るラストサマーホラー。ここに開幕。

【完結】黒い金魚鉢

雪則
ホラー
暇つぶしにどうぞ。 これは僕が常日頃に空想する世界を作品にしてみました。 あらゆる可能性が広がる世界。 「有り得ない」なんてことはないはずです。 短編なのでサクッと読めると思います。 もしこの作品をよんで感じたことなどあれば感想レビューいただければ幸いです。

処理中です...