10 / 20
疑惑
しおりを挟む
唯一霊田さんが俺に貼り付かないのが、風呂とトイレと就寝中だ。流石に風呂とトイレはやめてくれと頼まないといけないのかと思っていたが、霊田さんも嫌なのか単に興味がないのか流石に俺に遠慮したのか、最初から着いてこなかった。
風呂でのんびりと湯船に浸かりながら、俺はリラックスしているのを自覚した。
風呂だからというのもあるだろうが、ひとりになれて、安堵しているのだ。
別に霊田さんはうるさくもないし、視線が気になるという事も無い。これまで気にならなかった。
だが、榊原さんの言葉が妙に気になった。
そして、考えてしまう。勝手に体に入って自由にできるのなら、いつかその状態が長く続くことがあるんじゃないか。霊田さんが俺をじいっと見ているのは、そのために俺を観察しているんじゃないか。
俺、乗っ取られてしまうんじゃ……。
湯に浸かっているというのに、急に寒気がした。
「アカン、アカン。疑うたらアカンやん。失礼や。霊田さんは寂しかってんから。霊田さんは親切な同居人やん」
自分にそう言い、俺は勢いよく湯船から立ち上がった。
風呂を出ると、霊田さんと犬が黙ったまま見つめ合っていた。あれで話をしているんだろうか。
そう考えた時、霊田さんと犬が同時にこちらへとグリンと首を回して俺を見て、俺はどきっとし、後ろめたさと何か心がざわつくのを感じた。
「もう寝よかな。なんや疲れたわ。明日はやっと休みやで」
俺は言いながら布団を敷き、
「ほな、お休み」
と布団に入った。
翌日、俺はいつ起きたのか記憶がなかった。気がつくとリビングで座り込んでおり、そして犬がそばに居た。
「うわあっ、何で!?」
窓の外が薄暗く、時計を見たら、夕方だった。
「もしかして、疲れてずっと寝とった?」
霊田さんに訊くと、霊田さんは頷いた。
「何やだるかったからなあ。一日寝てもうたわ」
掃除とかしようと思っていたのに。まあ仕方が無いし、疲れていたのだから、どうせしなかった気もする。
「飯かあ。あんまり腹も減ってへんしなあ。軽くビールでも飲もか」
俺は冷凍食品の買い置きとビールで夕食代わりにしようと立ち上がり、そう言えば給料を下ろしに行かないといけなかったんじゃないかと財布を開いた。
記憶より、少ない。
でも、記憶違いだろうか。
「明日は下ろしに行っとかんとなあ」
言いながら財布をしまった。
なぜか口の中にケチャップの味がするのを感じながら。
月曜日、俺は伝票の整理をしていた。もうすぐ締めで、出していない伝票がないかチェックしなければならない。 同僚たちも同じで、互いに無口になって処理をする。
ようやく終わり、首筋を軽くもみながらコーヒーでもと廊下に出た。
同僚と一緒になって、紙コップを手に廊下のイスに座る。
「交通費とか伝票とか面倒くさいよなあ。まあ、溜めるからって言われりゃその通りなんだけどさ」
「そうですよねえ」
互いに苦笑する。
「あ、そう言えば影谷。あのきれいな人、誰だよ」
俺はキョトンとした。
「ん?」
「ほら、昨日会っただろ。新宿で。その時お前の連れか何かだった人だよ。追いかけてたから、そうなんだろ?」
俺は横目で霊田さんを見たら、霊田さんは黙ってじっと俺を見返していた。
風呂でのんびりと湯船に浸かりながら、俺はリラックスしているのを自覚した。
風呂だからというのもあるだろうが、ひとりになれて、安堵しているのだ。
別に霊田さんはうるさくもないし、視線が気になるという事も無い。これまで気にならなかった。
だが、榊原さんの言葉が妙に気になった。
そして、考えてしまう。勝手に体に入って自由にできるのなら、いつかその状態が長く続くことがあるんじゃないか。霊田さんが俺をじいっと見ているのは、そのために俺を観察しているんじゃないか。
俺、乗っ取られてしまうんじゃ……。
湯に浸かっているというのに、急に寒気がした。
「アカン、アカン。疑うたらアカンやん。失礼や。霊田さんは寂しかってんから。霊田さんは親切な同居人やん」
自分にそう言い、俺は勢いよく湯船から立ち上がった。
風呂を出ると、霊田さんと犬が黙ったまま見つめ合っていた。あれで話をしているんだろうか。
そう考えた時、霊田さんと犬が同時にこちらへとグリンと首を回して俺を見て、俺はどきっとし、後ろめたさと何か心がざわつくのを感じた。
「もう寝よかな。なんや疲れたわ。明日はやっと休みやで」
俺は言いながら布団を敷き、
「ほな、お休み」
と布団に入った。
翌日、俺はいつ起きたのか記憶がなかった。気がつくとリビングで座り込んでおり、そして犬がそばに居た。
「うわあっ、何で!?」
窓の外が薄暗く、時計を見たら、夕方だった。
「もしかして、疲れてずっと寝とった?」
霊田さんに訊くと、霊田さんは頷いた。
「何やだるかったからなあ。一日寝てもうたわ」
掃除とかしようと思っていたのに。まあ仕方が無いし、疲れていたのだから、どうせしなかった気もする。
「飯かあ。あんまり腹も減ってへんしなあ。軽くビールでも飲もか」
俺は冷凍食品の買い置きとビールで夕食代わりにしようと立ち上がり、そう言えば給料を下ろしに行かないといけなかったんじゃないかと財布を開いた。
記憶より、少ない。
でも、記憶違いだろうか。
「明日は下ろしに行っとかんとなあ」
言いながら財布をしまった。
なぜか口の中にケチャップの味がするのを感じながら。
月曜日、俺は伝票の整理をしていた。もうすぐ締めで、出していない伝票がないかチェックしなければならない。 同僚たちも同じで、互いに無口になって処理をする。
ようやく終わり、首筋を軽くもみながらコーヒーでもと廊下に出た。
同僚と一緒になって、紙コップを手に廊下のイスに座る。
「交通費とか伝票とか面倒くさいよなあ。まあ、溜めるからって言われりゃその通りなんだけどさ」
「そうですよねえ」
互いに苦笑する。
「あ、そう言えば影谷。あのきれいな人、誰だよ」
俺はキョトンとした。
「ん?」
「ほら、昨日会っただろ。新宿で。その時お前の連れか何かだった人だよ。追いかけてたから、そうなんだろ?」
俺は横目で霊田さんを見たら、霊田さんは黙ってじっと俺を見返していた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
社宅
ジョン・グレイディー
ホラー
寂れた社宅
3連列の棟に形成された大規模な敷地
両脇の2連の棟は廃墟となり、窓ガラスには板が打ち付けられ、黒いビニールシートで覆われている。
ある家族がこの社宅の5号棟に引っ越して来た。
初めての経験
初めての恐怖
どこまでも続く憎しみ
怨霊に満ちた呪縛
ほぼ実話に基づく心霊現象を描くホラー小説
あのクローゼットはどこに繋がっていたのか?
あろえみかん
ホラー
あらすじ:昼下がりのマンション管理会社に同じ空き部屋起因の騒音と水漏れに関して電話が入る。駅近の人気物件で1年も空き部屋、同日に2件の連絡。気持ち悪さを覚えた安倍は現地へと向かった。同日に他県で発見された白骨体、騒音、水漏れ、空き部屋。そして木の葉の香りがじっとりとクローゼット裏から溢れ出す。
*表紙はCanvaにて作成しました。
出雲の駄菓子屋日誌
にぎた
ホラー
舞台は観光地としてと有名な熱海。
主人公の菅野真太郎がいる「出雲の駄菓子屋」は、お菓子の他にも、古く珍しい骨董品も取り扱っていた。
中には、いわくつきの物まで。
年に一度、夏に行われる供養式。「今年の供養式は穏便にいかない気がする」という言葉の通り、数奇な運命の糸を辿った乱入者たちによって、会場は大混乱へ陥り、そして謎の白い光に飲み込まれてしまう。
目を開けると、そこは熱海の街にそっくりな異界――まさに「死の世界」であった。
11:11:11 世界の真ん中で……
白い黒猫
ホラー
それは何でもない日常の延長の筈だった。
いつものように朝起きて、いつものように会社にいって、何事もなく一日を終え明日を迎える筈が……。
七月十一日という日に閉じ込められた二人の男と一人の女。
サトウヒロシはこの事態の打開を図り足掻くが、世界はどんどん嫌な方向へと狂っていく。サトウヒロシはこの異常な状況から無事抜け出せるのか?
殺したはずの彼女
神崎文尾
ホラー
異様な美少女、平岡真奈美。黒瀬柚希はその美少女を殺した。だというのに、翌日もその翌日も彼女は学校に来て、けらけらと笑っていた。
故意ではなかったものの間違いなく自分が殺してしまったという罪悪感と、加害者としての意識にさいなまれながら、被害者である真奈美がすぐそばで笑っている異常事態に心身を病み始める柚希だったが、ある日からその周辺で異様な事態が起こり始める。田舎町を舞台に繰り広げられるホラーストーリーの最後はいったいどうなるのか。神崎文尾の新境地、ここに完成。
【連作ホラー】幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー
至堂文斗
ホラー
――其れは、人類の進化のため。
歴史の裏で暗躍する組織が、再び降霊術の物語を呼び覚ます。
魂魄の操作。悍ましき禁忌の実験は、崇高な目的の下に数多の犠牲を生み出し。
決して止まることなく、次なる生贄を求め続ける。
さあ、再び【魂魄】の物語を始めましょう。
たった一つの、望まれた終焉に向けて。
来場者の皆様、長らくお待たせいたしました。
これより幻影三部作、開幕いたします――。
【幻影綺館】
「ねえ、”まぼろしさん”って知ってる?」
鈴音町の外れに佇む、黒影館。そこに幽霊が出るという噂を聞きつけた鈴音学園ミステリ研究部の部長、安藤蘭は、メンバーを募り探検に向かおうと企画する。
その企画に巻き込まれる形で、彼女を含め七人が館に集まった。
疑いつつも、心のどこかで”まぼろしさん”の存在を願うメンバーに、悲劇は降りかからんとしていた――。
【幻影鏡界】
「――一角荘へ行ってみますか?」
黒影館で起きた凄惨な事件は、桜井令士や生き残った者たちに、大きな傷を残した。そしてレイジには、大切な目的も生まれた。
そんな事件より数週間後、束の間の平穏が終わりを告げる。鈴音学園の廊下にある掲示板に貼り出されていたポスター。
それは、かつてGHOSTによって悲劇がもたらされた因縁の地、鏡ヶ原への招待状だった。
【幻影回忌】
「私は、今度こそ創造主になってみせよう」
黒影館と鏡ヶ原、二つの場所で繰り広げられた凄惨な事件。
その黒幕である****は、恐ろしい計画を実行に移そうとしていた。
ゴーレム計画と名付けられたそれは、世界のルールをも蹂躙するものに相違なかった。
事件の生き残りである桜井令士と蒼木時雨は、***の父親に連れられ、***の過去を知らされる。
そして、悲劇の連鎖を断つために、最後の戦いに挑む決意を固めるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる