あなたナニサマ!?聖女サマ!

JUN

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旅立ちの日

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 卒業式とあって、校内の空気はいつもとは違った。これからのことを考えて明るい顔をしている者もいれば、これまでの事を振り返ってしんみりとしている者もいる。
 しかしユリウスの顔は、どんよりとしていた。
「どうした、ユリウス?就職先が何か言って来たのか?」
 セルジュがユリウスの顔を覗き込んだ。
 しかし、近くにいたクラスメイトが口を出す。
「ああ。お前は今日でヒースウッド家を出て平民になるんだろ。そりゃあ、元気もなくなるよな」
「時限貴族、最後の日かあ。ご愁傷様」
 笑ってそう言う彼らの背後から、皇太子の元婚約者だった令嬢とその取り巻きが現れる。
「あら。ユリウス様は魔道具職人になるのでしょう?我が公爵家が贔屓にさせていただくわ」
「わたくしもですわ。数々のカデンの素晴らしさ!お抱えにさせていただきたいほどですもの」
「いっそ、うちに婿養子に入ってはいかがかしら。お父様もあのウォシュレットというものに泣く程感激していらしたもの。反対しないわ」
 皇太子の元婚約者である公爵令嬢がブツブツ言い出した。
 彼女らは聖女への不満を言いに来てケーキを食べてから仲良くなり、泡立て器の制作依頼を受け、ほかの物も作って売って以来、すっかりとお馴染みさんになっていたのである。
 ユリウスをあざ笑っていた生徒は、公爵令嬢以下ハイクラスな家の御令嬢の登場に、慌ててその場を逃げ出した。
「ありがとう」
 ユリウスは言って、彼女達は笑ってほかの生徒に挨拶しに行った。
「挨拶しないといけない人が多くて大変そうだなあ。
 ああ、セルジュ。今度は殿下や兄から作れと言われたものが、武具でね。流石に、僕の手に余るというかね。ははは。3日以内に作らないと国外追放だって。今日が期限だったんだけど、ちょっとね、無理だよ」
 ユリウスは力なく笑い、セルジュは唖然とした。
「ユリウス、それはおかしすぎるよ。
 なあ、ユリウス。いっそ本当にアラデルに来ないか?どうせ家を出る事になってたんだろ?追放は、却って幸いだったんじゃないかな」
 ユリウスは考えた。
「それもそうか。身軽なもんだしな。錬金術師と魔道具技師の免許は取ったんだし、どこででも働けるんだよな」
 セルジュも頷く。
「セルジュの家って、アラデルのどの辺だっけ?」
「えっと、首都だ。うちの家に来るといいよ。両親も妹もユリウスの事は気に入ってるし、大丈夫だから」
「それは悪いよ。でも、初日はお願いしようかな。住居とか工房とか探さないといけないから」
 セルジュはにこにことして、ユリウスの手を取った。
「気にするなって。僕達、友達じゃないか。いや、厚かましくも僕は親友だと思ってたんだ」
 セルジュがはにかんで言うと、ユリウスも照れながら応えた。
「いや、それは僕も同じだよ。セルジュみたいに、何でもできるのに偉そうにしないで、努力を続けて、親切ないいやつ、いないよ。僕はセルジュという親友ができてうれしい。ありがとう」
「僕こそ、ここに留学して来て良かった。ありがとう、そんな事を言ってくれてとても嬉しい」
 にこにこしながら手を取り合う2人を、クラスメイトが遠巻きに見ていた。

 そして堂々とユリウスは
「できませんでした」
と聖女や皇太子や家族を前にして言い、国外追放を皇太子からその場で言い渡された。

 セルジュは、寮を出て、その建物を見上げた。
(知識はそれなりに吸収できたし、ユリウスという親友までできた。留学してきた甲斐があったな。
 ただ、黙っている事が心苦しいなあ。嘘はついてはいないんだけど。まあ、安全の為にも、仕方がなかったんだけど)
 セルジュは、その秘密をユリウスに告げるのが怖かった。それで言わないでいたら、今度は今更どう言えばいいのかと言い出しにくくなり、ズルズルと言えないで来ていた。
(どのタイミングで、どうやって打ち明けよう。僕がアラデルの皇太子だって)
 セルジュは少し悩んだが、
「まあ、何とかなるさ」
と棚上げにした。
 そして、ユリウスと待ち合わせた停車場で会い、実家から差し回されて来た馬車へとユリウスを引っ張り込んだ。


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