沖田ファミリー

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貴史が遠足に行きました(4)画伯誕生。か?

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 事故と突然の逮捕劇に大きな騒ぎとなったが、貴史たちはそそくさと公園に戻った。
 戻るとお昼の時間で、集合場所へ行ってお弁当を食べる。
「どこで書いてたのかしら。先生、探したのにわからなかったわ」
 一応教師が見回りをしていたのだが、見つからなかったようだ。
「それはその……」
「秘密よ、先生。絵を楽しみにしていて」
「え、えへへ。うん」
 担任の田端は怪しみながらも、
「入っちゃいけないところは入っちゃだめよ」
と言うのにとどめ、
「あんまり回ってないところ……あ、テニスコートはまさか誰も行ってないと思って行ってないわ」
とつぶやき、ふと、隊長たちに目をとめた。
「どうしたのかしら、その犬とか」
 どう考えても、朝には居なかった。
「家が近いから、来ちゃったみたいね」
 亜弓が言うと、隊長も舌を出してハッハッと言う。
「まあ、仕方が無いわね。もう次はダメよ」
「はあい」
「オカマイナクー」

 その日、現場にいた警察官から尚史に連絡が行き、あっさりと貴史たちのことはバレた。
 一応、黙って抜け出したことは叱られたが、よくやったと褒められた。
 そして、あのおじさんは無事に宝石を売って会社を建て直すことができそうだと、お菓子をお礼に持ってきてくれた。
 そして、問題の写生だ。
 貴史たちは画用紙をほぼ灰色に塗りたくって提出した。
 教師陣が誰も来てそうにないところである駐車場の、石を題材にしたと言ってある。
 それを遊びに来た春彦に見せて遠足の話をすると、春彦は爆笑した。尚史は苦笑している。
「お前は、大物になりそうだな」
「そうかなあ」
「おう」
「ありがとう、春ちゃん。
 それでね、お弁当が凄く美味しかったんだよ。春ちゃんもきっとびっくりしたよ。お菓子も皆で食べたんだあ。
 あ、そうだ。お菓子食べよう。おじさんがくれんだよ」
 貴史はうきうきとお菓子を出してくる。
「隊長、ジミーくん、モモちゃん、ハリーじい、ハムさん。おやつにしよう」
 それで彼らも集まってくる。
 犬用のクッキーと果物などを準備し、揃っておやつだ。
「まあ、何事もなく無事で、犯人も捕まえられたし、よかったな」
 春彦はそう言って尚史の肩をばんばんと叩く。
「まったく。たかが遠足と思っていたのに、知らないうちに大冒険してたんだからな」
「くそ度胸はお前譲り、天然なら恵美ちゃん譲りだな」
「ひとごとだと思いやがって、春彦は」
 春彦と尚史は言い合っていたが、貴史の書いた「石の絵」を見ると、笑いが出てくるのだった。
「どっちでもいいや、もう」
 ペットたちと並んでお菓子を食べる貴史の無事な成長を、ただただ祈った。





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