沖田ファミリー

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貴史が遠足に行きました(2)おじさんの話は長い

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 泣いていた男だったが、亜弓が慰め、育民が力づけ、貴史が訳を訊いて、ようやくその理由を訊きだした。
「親から遺された宝石を売って倒産しかかった会社の運転資金にと思ったのに、だまされて、宝石をとられてしまったんだ。だから、死亡保険金でどうにかするしかないんだよ」
 男はそう言ってうなだれ、力なく笑った。
 正直貴史たちにはよくわからない部分もあったが、「悪いやつが宝石をだまし取ったらしい」ということは理解した。
「警察に言えばいいよ」
 貴史は当然の事として言うが、男は苦笑を浮かべて首を振り、
「時間がね、間に合わないんだよ。今日中に、金を振り込むかあの宝石を渡すかしないと……」
と言って、顔をくしゃりと歪めてまた泣き出す。
「何かよくわかんないけど、悪いやつにとられて時間もないんだな」
 育民が端的にまとめた。
「ねえ。その宝石、いつどこでとられたの」
 亜弓が言うと、男は涙を拭き、はなをすすり上げて答える。
「二十分ほど前、ここで」
 貴史たちは周りを見回した。
 木が生えているだけで何もない。ついでに、同じ公園でもこのエリアは人が少ない。何となく宝石を出すのにふさわしい場所には、子供にも考えられなかった。
「人目のないところの方がいいだろうって言われたんだ。人目に触れると、誰かに狙われるかもしれないだろうと言われたら、そんな気がして。ここで宝石を渡して、本物と確認できたら受領書を渡すという事で。
 確認のために宝石を向こうに同行してきた鑑定士に渡したら、二人で逃げたんだよ。
 慌てて向こうの会社に電話したら、あの秘書は三日前に辞めたって。だから、これは向こうの会社にはなんの関係もない事で、知ったことじゃないって言うんだよ」
 子供相手に男はぐちを言い続けた。
 まだぐちぐちと言っていたが、それを無視して貴史たちは相談し始めた。
「その泥棒を探せばいいんじゃないか」
「どうやって探すのよ、いっくん」
「それはだな……たっくん、どうしよう」
「ここでとられたんだよね。隊長ならにおいを追えないかな」
 それに育民も亜弓も手を打った。
「ナイスだぜ!
 でも、どうやって呼びに行くんだ。電話もねえし」
「あのおじさんが持ってるんじゃない」
 亜弓はグチを言い続ける男の前に仁王立ちになった。
「ちょっといいかしら。電話を掛けたいの。持ってるでしょ」
 男は一瞬目を見開いて亜弓をボケッと見ていたが、慌ててポケットからスマホを取り出した。
「はい、たっくん」
「ありがとう。おじさん、借りますね」
 貴史は自宅に電話をかけ、待った。
 呼び出し音が続き、留守番電話に変わる。当然だ。家にいるのはペットだけなのだから。
 それに構わず、貴史はしゃべり出した。
「ジミーくん、聞いてるかな。お願いがあるんだけど」
 男は薄笑いを浮かべて、空を見上げながら死ぬ前に思い出を語り始めていた。
「思い起こせば、私はつくづく運のない人間だった。
 あれは私が生後二十日の頃だった」
 死ぬ前の回想を始めた男だったが、子供心にも、長くなりそうだと思ったのだった。


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