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9章 聖域外からのピクニック

第77話 ピクニックの終わり

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 ――その後、ユウキとヴァスリオの声かけでピクニックはお開きになった。
 片付けも終わり、見晴らしのよいピクニック会場で、もふもふ家族院の子どもたちは冒険者一行を見送ることになった。

「パティお姉ちゃん、またね」
「ええ。ヒナタちゃんも元気でね。アオイちゃん、また機会があったら今度は一緒にお料理しましょう」
「はいー。必ずー」

 聖女パトリシアにヒナタとアオイが抱きついている。

 隣では男たちが爽やかに挨拶を交わしていた。

「ベリウスのおっちゃん、絶対また会おうぜ。約束だぞ!」
「冒険のお話、すごく楽しかったです。また聞かせてください」
「がっはっは! もちろんだとも。ワシも小さい頃のヴァンたちを見ているようで楽しかったぞ、坊主たち!」

 レンもソラもキラキラした目で屈強な戦士を見上げている。ヴァスリオたちの元教官というだけあって、子どもの扱いには慣れているのかもしれない。

 別の場所では、モジモジした空気が流れていた。眼鏡少女ミオと賢者クラウディアである。

「……」
「……」
「……その。元気、でね」
「……ミオも、ね。それとあの話、考えとくから」
「……ん。本、楽しみにしてる」
「……」
「……」
「――んああああっ! ふたりともモジモジがきっつーい!! ウチだっているのにぃーっ!!」

 隣で爆発したのが研究者気質のサキ。クラウディアの博識ぶりに興味津々だった彼女だが、途中から邪険にされがちだったらしい。
 それは別れ際のこのときも同様だった。

「ちょっと、うるさいわよサキ。お別れの挨拶中なんだから、少し静かにしててちょうだい」
「ほら、パティなら構ってくれるから。私、子どもの相手が苦手なの知ってるでしょ?」
「なんかウチだけ扱いが雑!??」

 半泣きになるサキを、たまらずユウキは慰める。

 ――そして、見送りの時間がやってきた。

「ヴァスリオさん、皆さん。お元気で」
「君たちも。有意義な時間が過ごせて嬉しいよ」

 少年院長とリーダー勇者が握手する。
 そのとき、彼らの元にどこからか声が降ってきた。

『もふもふ家族院の子どもたち。ご苦労様でした』
「この声……天使様!?」

 辺りを見回すが姿は見えない。
 どうやらユウキだけでなく、この場にいる全員に声が届くようにしているらしい。子どもたちも、冒険者たちもあちこちに視線を巡らせている。

『不測の遭遇となったこと、無用な不安を抱かせてしまったこと、この場でお詫びします。その上で、良き出逢いの場、交流の場となったことを私は嬉しく思います。この思い出、大切になさい』

 まず家族院の子どもたちに声をかけてから、天使マリアは勇者パーティに告げた。

『此度の件、私はあなたたちを見ておりました。子どもたちへ良き影響を与えてくれたことを感謝します』
「ありがとうございます、天使様。これもひとえに、子どもたちが皆純粋で、とても良い子だったからこそです」
『そうでしょう、そうでしょう。なかなか見所がありますねあなたたち』
「はい?」
『なんでもありません』

 咳払いする気配。

『聖域の出口へは私が案内しましょう。安全は保障します』
「感謝します。天使様」
『よろしい。ではユウキ。家族院まで子どもたちの引率、頼みましたよ』

 ユウキはうなずいた。
 もふもふ家族院が手を振る中、勇者パーティたちは丘のふもとへと歩き去って行った。

「またねーっ!!」

 姿が見えなくなるまでの間、子どもたちは何度も声を張り、勇者パーティたちは何度も振り返って応えていた。
 やがて完全に見えなくなると、ふっと気の抜けた空気が流れる。

「じゃあ、帰ろうか」

 ユウキが言うと、皆うなずいた。

 帰り道。子どもたちは勇者パーティの話題で持ちきりになった。それぞれ仲良くなったメンバーのことを興奮気味に話している。
 性格、個性、得意不得意が異なるからか、微妙に話が噛み合わないのもご愛敬。これも家族院らしいとユウキは思った。
 子どもたちの賑やかさに当てられて、ケセランたちも上機嫌だ。コロコロと頭の上で転がる彼らを、ユウキは苦笑しながら撫でていた。

「へっくしょん!」
「へぷちっ!」

 ふと、背後で同時にくしゃみ。
 見ると、レンとヒナタが鼻をすすっていた。
 すぐにアオイがタオルを持ってふたりの元へ駆け寄る。

「あらあらー。まだ乾いてなかったのかしらー?」

 アオイの言葉に首を傾げる。ユウキはミオを見た。彼女は肩をすくめ、事情を話してくれた。

「あのふたり、騒ぎすぎて飲み物を頭からひっかぶったのよ。ちょうどユウキが洗い物に行ってるときね」
「そうだったんだ」

 ミオが「帰ったらさっさとお風呂に入りなさい」と言うと、「あははー。申し訳ない」とヒナタは笑っていた。

 苦笑していたユウキは、ふと、さっきから口を閉ざしている子に気がついた。

「――サキ?」
「……んんんんああああああっ!」

 突然大声を上げたかと思うと、彼女はユウキに飛びついた。

「ユウキ院長君! ウチはもう我慢できんぞ!」
「え?」
「ウチも外に出たい! 出たいったら出たい!」
「ええ……」
「こんなことならこっそりついていけばよかったぁー……あだっ!?」

 ミオに半眼で小突かれ、寝癖少女はしぶしぶ口を閉ざした。
 ユウキは顎に手を当て考える。

「すぐには無理だろうけど、またヴァスリオさんたちに会えるよう天使様にお願いしてみるよ」
「ホント!?」

 タオルで頭を拭きながら、ヒナタがパッと表情を明るくする。他の皆も湧き上がった。ミオでさえ口元を緩めている。

 ユウキは思った。皆にとっても、自分にとっても、彼らとの出逢いは良いことだったなと。
 皆が元気で楽しそうなら、それだけで幸せだ。

「……ということだから、サキ。勝手に聖域の外に出ようとしないように」
「ぶー!」

 頬を膨らませる寝癖少女に、皆の笑い声が重なった。
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