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6章 やんちゃ少年レンといたずらスライム
第43話 家族のための役目
しおりを挟む仲直りもできたし、ハーブも取り戻せた。そのハーブは、今ヒナタがしっかり持っている。
「さて。それじゃあそろそろ帰ろうか」
ユウキは皆に声をかける。
直後、目を丸くした。
さっきまで木の根元に寄りかかっていたやんちゃ少年が、何事もなさそうに立ち上がっていたからだ。
「レン!? もう歩いて大丈夫なのかい!?」
「ん? おお、このくらい大したことねえよ」
「いや、だけど。肩貸すよ。なんならおんぶするのも――」
「やめろって!」
本気で嫌がっている様子のレンに、ユウキは口をつぐむ。チロロを振り返った。大きな身体を持つフェンリルなら、背中に乗っけてもらえそうだと思ったからだ。
『余は構わんが――』
「ひとりで歩けるってーの!」
『とまあ、本人がこのように言っているのだ。自分で歩かせればよかろう』
そう言って、チロロは先に歩き出す。ヒナタも保護者フェンリルの後ろをついていった。
ユウキはレンの足首をじっと見る。ズボンに隠れて腫れは見えなかったが、少なくとも、レース直後よりかはずいぶん良くなっているようだ。これもレンの力なのかなとユウキは思った。
「おいユウキ」
足の様子に注目していたところに、レンから声をかけられる。
彼は言葉を探すためか、人差し指で鼻の頭をかきながら、視線をウロウロさせている。
ユウキは、レンが言いたいことを見つけるまで待った。もとより、相手の話しぶりにイライラするようなせっかちさんではない。
「あの、よ」
「うん」
「今日はその……ありがとな。助かったわ、お前のおかげで」
一度、お礼を口にして楽になったのか、レンの表情が柔らかくなる。
「オレの気持ちくんでくれて、そんでもってきっちり約束守ってくれてよ。なんつーか、すげえよお前。ヒナタが言うとおりに、さ」
「あんまり自分ではすごいと思ってないんだ。僕ひとりの力じゃないから」
「そういや、最後に水面をバーって走ってったあの魔法、あれもなんか秘密があんのか?」
レンがユウキの肩に手を回す。身長差が負担にならないよう、ユウキはこっそり身体をかがめた。
レンが目を輝かせるので、「あれはね」と説明する。善き転生者の話を聞いたやんちゃ少年は、感心したような、羨ましそうな表情をした。
「あーあ、オレにもそういう力があればなあ」
「レンは十分すごいよ。走ってる途中、ずっと思ってたもの。自分だけであれだけの走りができる。すごい」
「へへっ。だろ?」
にかっとする。すっかり調子に乗っていた。
……と思っていると、ふいに真面目な顔になる。
「仲間の……家族のために身体を張るのは大事な役目だって、オレは思ってる。だから今日の勝負も本気で挑んだ。けどよ、ウチの家族院、女が多いだろ? ソラもどっちかっていうとナヨナヨしてるタイプだし、正直言って、ちょっと気まずかったんだ。これまで。あんまりわかってくれてない感じがしてよ」
「レン……」
「だから今日、ユウキがオレと同じ気持ちで勝負してくれたことが嬉しかった」
肩を抱いたまま、空いた手で拳を作る。ユウキは目を丸くした後、自分も握り拳を作った。
コツ、と拳と拳を合わせる。
「改めて、よく来たなユウキ。これからもよろしく頼むぜ、院長先生よ」
「うん。こちらこそ」
肩を叩いて、レンが離れる。
「よーし、ユウキ。お前、今日からオレの二番目の弟分な!」
「え?」
「一番目はソラ。順番は守れよ」
「なんの順番?」
「なんだよ。お前、男のくせにきょうだいの序列もわかんねえのか?」
「僕は一人っ子だったけど……」
微妙な表情になる。
「僕がいた世界だと、あんまり序列とかは気にしないかな。第一、僕たち同い年じゃないか」
「そういうもんか?」
「そういうもんだよ。あと、男だから女だからってのもないかな」
「ふぅーん。じゃあ、あんまり気張る必要もないのかなあ」
腕を組みながらつぶやくレン。口では序列と言っているが、台詞ほど本人は気にしていないのかもしれない。格好よさげだから言ってみた――レンならありそうな動機だった。
――きょうだいには、ちょっと憧れていたけどね。
「……あん? なんか言ったか、ユウキ?」
「ううん。なんでもないよ」
ユウキは笑みを浮かべて誤魔化した。
レンが背伸びをする。
「んじゃ、帰るか」
「アオイがクッキー作って待ってるよ」
「マジか。そりゃ急いで帰らねえと」
「先に食べたけど、すごく美味しかったよ」
「マジか!? めっちゃ急いで帰らねえと!」
「そうだね。サキが全部食べちゃうかもしれないし」
「あいつならやりかねないっ!!」
焦りも露わにするレンに、ユウキは笑った。家族院の皆を守るのが役目と自負していても、アオイのおやつには弱いらしい。
チロロやヒナタを追って駆け出すやんちゃ少年。どうやら足の方は本当になんともないらしい。
安心したユウキも後を追いかけようとして、ふと、後ろを振り返った。
スライム一家が住む池のほとりで、ソラがひとり居残っていた。
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