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5章 箱推し天使様の日常
第28話 鼻から魔力
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部屋の中に戻ったふたり。
結局、天使マリアは拗ねてしまった。
出来上がったばかりのユウキ人形をしっかりと抱きしめ、真っ白な翼で自分の身体をくるりと包む。
ルアーネは言った。
「いい加減機嫌直せよ。顔芸天使って言ったことは悪かった」
「……ふん」
「だが訂正はしない」
「あなたって本当……っ」
マリアが顔を上げる。
だが、親友天使が気遣わしげな笑みを浮かべているのに気づき、ため息をひとつ。起き上がって姿勢を正した。
しばらくふたり、水晶玉から流れるもふもふ家族院の温かな風景に見入る。
「この子たちは、私の生きがいであり、癒やしなのよ」
マリアがつぶやいた。
「もふもふ家族院のためなら、なんだってしたい。彼らのおかげで、私は普段、私でいられるのだから」
「ま、その気持ちはわかる。そうだろうなとも思うよ」
「これはルアーネだから言うけれど」
水晶玉に指先を伸ばす。
「彼らが健やかにいられるよう、時々魔力を注ぎ込んでいるの。もちろん、転生者でない子にとって天使の力は強すぎて毒なのは知っている。だから、ほんの少しだけ、雪のように魔力を降らせる。そうすれば、あの子たちも喜んでくれる」
「天使からの浄財か」
「そうね。似たような風習がユウキの生まれ育った世界にあるみたい。推しに課金……?みたいな、ね」
「じゃあその世界の奴らは、すげぇ満たされた顔をしてるんだろうな。今のお前みたいに」
ルアーネが言うと、天使マリアは微笑んだ。相手の喜びが自分の喜び――素直にそう感じさせる笑みだった。
「マリア、お前がユウキの世界に降りたら、きっとすぐに馴染めるぜ」
「実は結構憧れてる」
天使マリアは立ち上がり、ユウキ人形を棚に置いた。大事そうに一回、二回と優しく撫でる。
「さて、そろそろお仕事に復帰しようかしら。あのクソ上司様のことだから、きっと素直に方針転換してくれるとは思えないから」
「デキる女は大変だねえ」
「その言葉、そっくりそのまま返すわよ。あなただって今日、のんびりしたかったんじゃないの?」
あながち間違いではなかったので、天使ルアーネは頬をかいた。
マリアが資料の束を軽く叩く。
「調べ物、ありがとう。本当に助かったわ。なにか私の方で力になれることがあったら、いつでも言ってね」
「おう」
「でも私の推し活にはこれからも積極的に呼ぶから、参加してね。絶対ね」
「なんでお前からの頼み事の方が圧、強いんだよ」
「だって、私ひとりでこの至高の時間を過ごすのはもったいないもの。いつも大変な親友へおすそわけしないと」
「本当は?」
「ものすごく喋りたいです。お願いだから付き合って。聞いて、あの子たちの素晴らしさ」
「お前、アタシじゃなかったら友達なくすぞ」
「……そんなにひどい?」
「いや。まあお前らしくていいんじゃないの顔芸天使様」
「また言った……」
「これでおあいこだよ」
にこりと笑い合う。
天使マリアが身なりを整えた。拗ねていたせいで少し乱れた髪も梳いて整える。
わずかな時間で、皆の憧れ天使様が復活した。
「それじゃあ、そろそろ行ってくるわ。ルアーネは自由にしてていいから。魔法鍵のかけ方、わかってるわよね」
「おう。くそ面倒くせえがちゃんとしておくよ」
「よし」
マリアが親友の前を横切る。
すっかり仕事モードに入った彼女の顔を見て口元を緩めたルアーネは、ふと、もふもふ家族院の映像に目を向けた。
「お、ユウキ少年と目が合った。こういうこともあるんだなあ」
「どこっ!? ユウキの視線サービス!?」
「おいエリート天使」
一瞬で表情を変えたマリアが戻ってくる。ルアーネが座るクッションソファーにのしかかり、水晶玉の映像を凝視する。
そこには、偶然にもばっちりこちらを向いたユウキ少年がいた。あどけなさと優しさと、少しの大人っぽさを秘めた黒い瞳がふたりの天使を射貫く。
天使マリアの顔がとろけた。
「ああ……、ユウキぃ……」
「アタシの真上で気持ち悪い声を出すな。仕事行け変態天使!」
おそらくユウキ少年は天界からの視線に気づいたわけではないだろう。
だが、少年は明らかにマリアたちに向けて言葉をつぶやいた。
『天使さま。ありがとうございます。僕は今、とても幸せです』
「私も゛おぉおぉ!! あ゛り゛がどう゛ござい゛ま゛ずぅうぅうううう!!」
「ぎゃああっ、鼻から魔力出すなあああっ!」
鼻から魔力――人間でいうところの鼻血である。
結局、天使マリアは拗ねてしまった。
出来上がったばかりのユウキ人形をしっかりと抱きしめ、真っ白な翼で自分の身体をくるりと包む。
ルアーネは言った。
「いい加減機嫌直せよ。顔芸天使って言ったことは悪かった」
「……ふん」
「だが訂正はしない」
「あなたって本当……っ」
マリアが顔を上げる。
だが、親友天使が気遣わしげな笑みを浮かべているのに気づき、ため息をひとつ。起き上がって姿勢を正した。
しばらくふたり、水晶玉から流れるもふもふ家族院の温かな風景に見入る。
「この子たちは、私の生きがいであり、癒やしなのよ」
マリアがつぶやいた。
「もふもふ家族院のためなら、なんだってしたい。彼らのおかげで、私は普段、私でいられるのだから」
「ま、その気持ちはわかる。そうだろうなとも思うよ」
「これはルアーネだから言うけれど」
水晶玉に指先を伸ばす。
「彼らが健やかにいられるよう、時々魔力を注ぎ込んでいるの。もちろん、転生者でない子にとって天使の力は強すぎて毒なのは知っている。だから、ほんの少しだけ、雪のように魔力を降らせる。そうすれば、あの子たちも喜んでくれる」
「天使からの浄財か」
「そうね。似たような風習がユウキの生まれ育った世界にあるみたい。推しに課金……?みたいな、ね」
「じゃあその世界の奴らは、すげぇ満たされた顔をしてるんだろうな。今のお前みたいに」
ルアーネが言うと、天使マリアは微笑んだ。相手の喜びが自分の喜び――素直にそう感じさせる笑みだった。
「マリア、お前がユウキの世界に降りたら、きっとすぐに馴染めるぜ」
「実は結構憧れてる」
天使マリアは立ち上がり、ユウキ人形を棚に置いた。大事そうに一回、二回と優しく撫でる。
「さて、そろそろお仕事に復帰しようかしら。あのクソ上司様のことだから、きっと素直に方針転換してくれるとは思えないから」
「デキる女は大変だねえ」
「その言葉、そっくりそのまま返すわよ。あなただって今日、のんびりしたかったんじゃないの?」
あながち間違いではなかったので、天使ルアーネは頬をかいた。
マリアが資料の束を軽く叩く。
「調べ物、ありがとう。本当に助かったわ。なにか私の方で力になれることがあったら、いつでも言ってね」
「おう」
「でも私の推し活にはこれからも積極的に呼ぶから、参加してね。絶対ね」
「なんでお前からの頼み事の方が圧、強いんだよ」
「だって、私ひとりでこの至高の時間を過ごすのはもったいないもの。いつも大変な親友へおすそわけしないと」
「本当は?」
「ものすごく喋りたいです。お願いだから付き合って。聞いて、あの子たちの素晴らしさ」
「お前、アタシじゃなかったら友達なくすぞ」
「……そんなにひどい?」
「いや。まあお前らしくていいんじゃないの顔芸天使様」
「また言った……」
「これでおあいこだよ」
にこりと笑い合う。
天使マリアが身なりを整えた。拗ねていたせいで少し乱れた髪も梳いて整える。
わずかな時間で、皆の憧れ天使様が復活した。
「それじゃあ、そろそろ行ってくるわ。ルアーネは自由にしてていいから。魔法鍵のかけ方、わかってるわよね」
「おう。くそ面倒くせえがちゃんとしておくよ」
「よし」
マリアが親友の前を横切る。
すっかり仕事モードに入った彼女の顔を見て口元を緩めたルアーネは、ふと、もふもふ家族院の映像に目を向けた。
「お、ユウキ少年と目が合った。こういうこともあるんだなあ」
「どこっ!? ユウキの視線サービス!?」
「おいエリート天使」
一瞬で表情を変えたマリアが戻ってくる。ルアーネが座るクッションソファーにのしかかり、水晶玉の映像を凝視する。
そこには、偶然にもばっちりこちらを向いたユウキ少年がいた。あどけなさと優しさと、少しの大人っぽさを秘めた黒い瞳がふたりの天使を射貫く。
天使マリアの顔がとろけた。
「ああ……、ユウキぃ……」
「アタシの真上で気持ち悪い声を出すな。仕事行け変態天使!」
おそらくユウキ少年は天界からの視線に気づいたわけではないだろう。
だが、少年は明らかにマリアたちに向けて言葉をつぶやいた。
『天使さま。ありがとうございます。僕は今、とても幸せです』
「私も゛おぉおぉ!! あ゛り゛がどう゛ござい゛ま゛ずぅうぅうううう!!」
「ぎゃああっ、鼻から魔力出すなあああっ!」
鼻から魔力――人間でいうところの鼻血である。
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