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4章 みんなの母親アオイはふんわりで怖い

第14話 もふもふたちの歓迎

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 お互い、目をぱちくりさせる。
 毛玉もふもふの目は、黒く細長い宝石のようだった。本当にぬいぐるみそっくり。
 でも、まばたきをしているので、正真正銘、生きているのだ。

 じーっと、お互いを見つめ合う。

 ユウキが顔を近づける。
 もふもふが、ふぁさと数センチ前に出る。
 お互いの鼻先が触れ合いそうになったところで、ユウキは言った。

「こんにちは。今日からここでお世話になるユウキです。よろしくね」

 そして、微笑む。
 するともふもふは、またぱちくりと瞬きをした。そして、やおらぴょんとユウキの頭の上に乗っかってくる。綿毛の帽子を被ったように、軽くてふさふさした感触だった。
 さすが異世界、とユウキは感動する。

「さすがユウキ院長君だね。さっそくケセラン君と仲良くなるとは」
「ケセラン君?」
「この建物に住み着いている、最カワもふもふ生命体のことだ。まだまだいっぱいいるぞー?」

 え?と思った直後、暖炉やソファーの陰から、次々と毛玉もふもふ――ケセランが転がり出てくる。
 彼らは各々好きな場所に落ち着く習性があるのか、ある個体はソファーの上、ある個体はヒナタの肩……など、てんでバラバラな位置に収まっていく。

「みんな可愛くて良い子でしょ? わたしたちの大切な友達であり家族なの」

 肩に収まるケセランに頬ずりしながら、ヒナタが言う。
 ちなみに、サキの周りにはひとつも近づいてこない。なぜだろうとユウキは思った。

「ケセラン君たちは、この聖域が誕生した直後から発生したと思われる生物さ。いまだ詳しい生態は明らかになっていない。ウチとしては一日中でも調べ尽くしたい素材なのだが、家族院の皆から止められているので叶わないのだよ。残念だなあ」

 ――近づかれない理由がわかった気がした。

 嘆くサキに反応してか、ユウキの頭の上のケセランがぷるぷると震えた。やっぱり怖がられている。

「ケセランたちは、僕たちの言葉がわかるのかな」
「完璧ではないが、ぼんやりと理解できる知性はあると思うよ。呼べば来ることもあるし、頼み事をすればそのとおりに動いてくれる――こともある」
「へえ。賢いんだねえ。あ、でも」

 頭の上から胸元へとケセランを抱きながら、ユウキは眉を下げる。

「ケセランたちをどうやって見分けたらいいか、僕はわかんないや。見た目がまったく一緒だし……自信ない」
「ああ、心配しなくてもいいよユウキ君。ここの皆は、どのケセラン君も等しくケセランと呼んでいる」

 あ、そうなの?とユウキはつぶやいた。
 ヒナタを見ると、彼女はちろりと舌を出して苦笑していた。見分けがつかないのは、どうやら家族院の皆も同じらしい。

「まあケセラン君の側からしても、我々は等しく仲間ということだろうね。ウチを除いて! あっはっは」
「サキ……」
「そんな哀しい目をしないでおくれ」

 本人はそう言うが、つらいだろうなあとユウキは思った。一方で、ケセランたちに迫り続ける姿も簡単に想像できるので、ケセランたちにとってみれば怖いのだろうなあ、とも思った。

 ふと、ユウキの胸元に抱かれていたケセランが、その場でぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。
 同じように、周囲のケセランたちも飛び跳ねたりコロコロ転がったりし始める。

「な、なにが」
「しーっ」

 サキとヒナタが揃って指を立てる。
 なにが起こるのか目をしばたたかせていると――。

「あ……」

 不意に、が聞こえてきた。
 被せるように、ささやかな風の音も。

 ユウキは足下を見回す。そこには綺麗に清められたフローリングの床があるだけで、水が浸入した様子はまったくなかった。
 窓が開いた様子もない。

 頭にクエスションマークをいくつも浮かべたユウキは、やがて自分が抱くケセランに目を向けた。

「もしかして」
「そうだ、ユウキ君。ケセラン君はその愛くるしい見た目の他に、素晴らしい特技を持っている。それがこの『音真似』だ!」

 まるで本当に川のほとりへ立っているような、そんな錯覚を抱く。
 目を閉じると、その光景が浮かぶよう。
 澄み切った水。爽やかな風。音だけでも心が洗われるようである。

 ヒナタが言った。

「ケセランたちは嬉しいことや楽しいことがあると、こうして自然の音楽を奏でてくれるんだよ」
「それって」
「うん」

 ヒナタが満面の笑みを見せた。

「ケセランたちも、ユウキのことを大歓迎してるってこと!」

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