上 下
13 / 92
4章 みんなの母親アオイはふんわりで怖い

第13話 綺麗で不思議な室内

しおりを挟む
 もふもふ家族院の玄関扉に手をかける。ゆっくりと開けた。

 途端、ふわりと柔らかい匂いが漂ってくる。

 外観から大きな建物だなと思っていたが、エントランスはユウキが思っていたよりもずっと広々としていた。
 天井は吹き抜けになっているのか高く、二階部分にある丸い窓から外光が温かく差し込んでいる。

 エントランスに隣接してリビングスペースがあり、快適そうなソファや椅子がいくつか並んでいた。病院では見たことがないような、木製の大きな丸テーブルもある。鉢植えの観葉植物が適度に配置され、見ているだけで心が落ち着くようだ。

 その奥にはダイニングエリアだろうか。長テーブルと椅子の向こうに、ちらりとキッチンの様子も見えた。

 エントランスの奥に二階へと上がる階段がある。ユウキのような素人が写真を撮っても、きっと誰もが「素敵」と言ってくれそうなほど、趣のある木製階段だ。映画に出てきそうである。

 おそらく天使様が、家族院の皆のために造ってくれたものだろう。
 今まで映像や本でしか見たことがなかった光景を、ユウキは自分の目で捉えている。
 すごい、本当にすごいや――とユウキは感動に震えながらつぶやいた。

 柔らかな絨毯の上を歩いたとき、かさりと、靴がなにかを踏んだ。
 綺麗に掃き清められてた床に、何枚か紙が落ちていた。文字がびっしり書いてある。

「あー、サキ。また資料を散らかしてる」
「なはははは」

 ヒナタの苦言に、サキが笑って誤魔化す。
 彼女らと一緒に紙を拾って片付ける。ヒナタによると、これはサキが研究用にメモしたものだという。リビングで書き物に集中する寝癖少女は、よくこうして資料をぶちまけては家族に怒られているらしい。

 ふたりの少女のやり取りを微笑みながら聞いていたユウキは、ふと手元の紙に視線を落とした。異世界人であるサキが走り書きした文章。さすがに読めないよな――と思っていると、不思議なことに頭の中で文章がスラスラと翻訳されていく。
 初めて見る文字なのに、『読める』。本当に驚きの感覚だった。
 これは転生者の能力なのだろうか。

「ユウキ? どうしたの。?」
「え?」
「いま、ユウキの目がちょっとだけチカチカしてた」

 言われて目をこする。自分では確認できないが、どうやら文章を読んでいるとき瞳の色に変化が起きたらしい。
 ユウキは何度かまばたきをして、「大丈夫。なんともないよ」と答えた。この世界の文字が読めるのなら、とても素晴らしいことだ。多少、見た目が変わることなど気にする必要はないだろう、とユウキは思った。あっさりと気持ちを切り替える。

 例によってじーっと瞳を観察してくるサキに、拾った紙束を渡す。
 ユウキは家族院の中を見渡した。

「とても綺麗な家だね」
「でしょ? すごく快適なの。皆で一緒に暮らしてるから、お掃除とか家のこととかは分担してやってるんだよ。……サキとかはよくサボりがちだけど」
「なはははははは!」

 また誤魔化す。ユウキも笑った。

 ――僕、家事のことは全然わからないや。ヒナタや皆に教えてもらって、早くできるようになろう。

 三人でリビングへ向かう。
 そのとき、ひとりユウキの足が止まる。

 リビングスペースにはふかふかソファーや椅子、テーブルの他にも、大きな本棚や暖炉がある。
 その、暖炉の上に、なにやら奇妙なものを見つけたのだ。

 丸い。真っ白だ。
 毛玉としか言いようがないほどのもふもふ。ユウキの小さな両手にすっぽりと収まるくらいのサイズ感。

 最初は風変わりな置物かと思った。
 しかし、じっと見つめていると――。

 ころころ……。
 ころころ……。

「わあ……」

 ユウキの目の前で、右へコロコロ、左へコロコロと、ひとりでに動いているのだ。
 吸い寄せられるように暖炉へ近づくユウキ。
 間近でこの不思議な『もふもふ』を観察する。

「わあ……え?」

 もふもふと、
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

俺の相棒は元ワニ、今ドラゴン!?元飼育員の異世界スローライフ

ライカタイガ
ファンタジー
ワニ飼育員として働いていた俺は、ある日突然、異世界に転生することに。驚いたのはそれだけじゃない。俺の相棒である大好きなワニも一緒に転生していた!しかもそのワニ、異世界ではなんと、最強クラスのドラゴンになっていたのだ! 新たな世界でのんびりスローライフを楽しみたい俺と、圧倒的な力を誇るドラゴンに生まれ変わった相棒。しかし、異世界は一筋縄ではいかない。俺たちのスローライフには次々と騒動が巻き起こる…!? 異世界転生×ドラゴンのファンタジー!元飼育員と元ワニ(現ドラゴン)の絆を描く、まったり異世界ライフをお楽しみください!

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

もふもふ精霊騎士団のトリマーになりました

深凪雪花
ファンタジー
 トリマーとして働く貧乏伯爵令嬢レジーナは、ある日仕事をクビになる。意気消沈して帰宅すると、しかし精霊騎士である兄のクリフから精霊騎士団の専属トリマーにならないかという誘いの手紙が届いていて、引き受けることに。  レジーナが配属されたのは、八つある隊のうちの八虹隊という五人が所属する隊。しかし、八虹隊というのは実はまだ精霊と契約を結べずにいる、いわゆる落ちこぼれ精霊騎士が集められた隊で……?  個性豊かな仲間に囲まれながら送る日常のお話。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

私のスキルは相手に贈り物をするスキルです~スキルを使ったらお代吸収によっていきなり最強となりました~

厠之花子
ファンタジー
 少し力を込めただけで全てを破壊する手、増え続けて底が見えない魔素量、無駄に強化された身体は何を受けてもダメージがない。  ・・・・・・唯一の欠点は属性魔法が使えないことくらいだろうか。  力を最小限に抑えながらも、遠くまで見えるようになってしまった瞳と、敏感になった感覚を実感した私は思う。  ──普通の生活がしたい、と。 ◇◇ 『突然だけど、貴方たちは異世界へ飛ばされてもらいまぁす』 『えっ? 何故って? ──バタフライ・エフェクトってやつよ。とにかく存在したら大変な事になるのよぉ』  楽しい高校生活を謳歌していた私──阿瀬(あぜ)梨花(りか)の存在は、この女神とやらの言葉で消え去ることとなった。 いや、その他3名の存在もか。  どうやら、私たちは地球には不必要な存在らしい。  地球とは全く違う環境の為、私を含めた男女4名に与えられたのは特殊能力とも呼ばれる〝固有スキル〟  完全なランダム制の中、私が引いたのは他人限定で欲しいモノの贈り物ができるいう意味不明なスキル『贈物(ギフト)』  それは明らかなハズレ枠らしく、当たり枠を引いた他3名から馬鹿にされてしまう。  しかし、そこで見つけたのは〝(裏)〟という文字──それは女神すらも認知していなかった裏スキルというもの  その裏スキルには、無印の贈物スキルとは違い、対象の欲しいモノ相応の〝お代〟を対象から吸収するという効果が付いていた。  飛ばされた先は魔族同士の紛争中で・・・・・・命の危機かと思いきや、スキルによって10万もの魔族軍が吸収されてしまった。  ──それにより、私は序盤からとんでもない力を手に入れてしまう  それでも何やかんやでスキルを役立てたり、異世界生活を楽しんだりする。  ──これは、スキルの効果により無駄に強くなってしまった異世界転移者の物語 ◇◇  2作目  1話につき1500~2000程度を目安にして書いています。  エブリスタ様で不完全燃焼だった小説をリメイクしたものです。  前作『魔族転生』と同様、拙い文章であり表現に乏しい点や矛盾点、誤字脱字等々あるとは思いますが、読んで頂けると幸いです。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...