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1章 ユウキ少年、転生してもふもふ家族院の院長先生になる
第4話 ミックス転生
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ユウキは自分の胸に手を置いた。自然と、天使マリアと手を重ねる形になる。
「ミックス転生……他の人の魂が、僕の中に。あの、魂さん……こんにちは?」
『んん゛、ん゛ッん゛ッ!』
「天使さま?」
『ごめんなさい。なかなかクる光景だったので……』
小首を傾げる。天使は慎重に慎重に、ユウキの胸元から手を離した。
ユウキは何度か自分の胸に向けて声を掛けていたが、反応がなく眉を下げた。哀しそうな表情をする。
「返事がない……天使さま。もしかして他の人たち、消えてしまったのですか?」
『いえ、確かにあなたの中に今も生きていますよ。ただ、まだ転生したばかりでうまく馴染んでいないのかもしれません』
ユウキ、と天使マリアが呼ぶ。
『私はむしろ、あなたの身体の方が心配です。どこか不調なところはありませんか? 痛いとか、苦しいとか、つらいとか』
「大丈夫です。なんともないです。すごく気持ちいいくらい。それに」
ユウキの表情が、不意に大人びたものになる。
「僕にとっては、生きているだけでじゅうぶん幸せ」
『ユウキ……』
天使マリアは、そっとユウキの身体を抱きしめた。柔らかな、良い匂いに包まれる。
本当に久しぶりに、ユウキは誰かの体温を感じることができた。泣きそうになるのを、ぐっとこらえる。
どのくらいそうしていただろうか。
一向に離れない天使に、ユウキは戸惑いながら声をかける。
「天使さま。天使さま? あの、そろそろ……?」
もぞもぞ動きながら天使マリアの横顔を見る。
実に幸せそうな表情のまま、目を閉じて固まっていた。ユウキは自らの経験から、それが気絶状態なのだと知る。
慌てて彼女の頬を叩き、何度も呼びかける。間もなく天使の意識が引き戻された。
「僕、天使さまの方が心配になってきました」
『本当に申し訳ない』
美しい翼を小さく畳みながら、天使マリアが頭を下げる。天使が昇天など本末転倒……などとぶつぶつつぶやく声が聞こえる。
天使って面白い人なんだなあとユウキは思った。混じり気なしの純粋な感想だった。
顔を上げた天使マリアは、努めて真面目な表情を作る。
『とにかく、今のあなたが無事ならば、まずミックス転生は成功したと言ってよいでしょう。あなたの心の中に眠る転生者たちは、皆、住む世界や時代は違えど、善き心を持ち、他者に恥じない生を全うした人物ばかりだと聞いています。話では絶世の美男美女揃いとか。ユウキに害をなすことはないでしょう』
「でも、その人たちは自由に動けないんですよね。それはちょっと、嫌だな……」
『ユウキは本当に優しい子。元はといえば私のクソじょ――管理神が悪いのですから、あなたが気に病むことはないのですよ』
天使マリアは人差し指を立てた。
『それでも気になるなら、こう考えましょう。善き転生者の魂は、いずれユウキの身体に馴染み、生前の力を発揮するときが来るでしょう。そのとき、ユウキがその力を善きことに使っていけば、それは彼らが善き行いをしたのと同じことになります。動けない彼らの代わりに、ユウキ、あなたが彼らの素晴らしさを証明するのです』
ユウキは考えた。天使マリアの言っていることは、彼にとってすぐには理解できない理屈である。
ただ、ユウキなりに噛み砕いて出した結論は、彼の『やりたいこと』そのままであった。
「天使さま。それは、僕が頑張れば誰かの役に立てるってこと、ですか?」
『ええ。そうですね。それどころか、英雄や賢者の類にさえ――』
「やります!!」
人生で一番機敏な動きで手を挙げたユウキ。
「僕、ずっとずっと考えていたんです。誰かの役に立ちたいって。ずっと病気で、色んな人に迷惑ばかりかけてきたから、生まれ変わったら、誰かの役に立とうって! それが叶うなら、僕、頑張ります!」
天使マリアはニコニコしたままつぶやいた。
『……イイ』
「天使さま?」
『良い心がけですよ、ユウキ。あなたの中の魂も、あなたと一緒になれて喜んでいることでしょう。焦ることはありません。あなたが正しいと思う行いをしていれば、いずれ彼らもあなたに語りかけ、お礼を言う日が来るかもしれませんね』
ユウキは目を輝かせた。両手を胸に当て、目を閉じ、思いを込めて口にする。
「僕、頑張ります。みんな、よろしくね」
純粋そのものの少年に、天使は口元を押さえて『……ん゛ッフぅ』とつぶやいた。
「ミックス転生……他の人の魂が、僕の中に。あの、魂さん……こんにちは?」
『んん゛、ん゛ッん゛ッ!』
「天使さま?」
『ごめんなさい。なかなかクる光景だったので……』
小首を傾げる。天使は慎重に慎重に、ユウキの胸元から手を離した。
ユウキは何度か自分の胸に向けて声を掛けていたが、反応がなく眉を下げた。哀しそうな表情をする。
「返事がない……天使さま。もしかして他の人たち、消えてしまったのですか?」
『いえ、確かにあなたの中に今も生きていますよ。ただ、まだ転生したばかりでうまく馴染んでいないのかもしれません』
ユウキ、と天使マリアが呼ぶ。
『私はむしろ、あなたの身体の方が心配です。どこか不調なところはありませんか? 痛いとか、苦しいとか、つらいとか』
「大丈夫です。なんともないです。すごく気持ちいいくらい。それに」
ユウキの表情が、不意に大人びたものになる。
「僕にとっては、生きているだけでじゅうぶん幸せ」
『ユウキ……』
天使マリアは、そっとユウキの身体を抱きしめた。柔らかな、良い匂いに包まれる。
本当に久しぶりに、ユウキは誰かの体温を感じることができた。泣きそうになるのを、ぐっとこらえる。
どのくらいそうしていただろうか。
一向に離れない天使に、ユウキは戸惑いながら声をかける。
「天使さま。天使さま? あの、そろそろ……?」
もぞもぞ動きながら天使マリアの横顔を見る。
実に幸せそうな表情のまま、目を閉じて固まっていた。ユウキは自らの経験から、それが気絶状態なのだと知る。
慌てて彼女の頬を叩き、何度も呼びかける。間もなく天使の意識が引き戻された。
「僕、天使さまの方が心配になってきました」
『本当に申し訳ない』
美しい翼を小さく畳みながら、天使マリアが頭を下げる。天使が昇天など本末転倒……などとぶつぶつつぶやく声が聞こえる。
天使って面白い人なんだなあとユウキは思った。混じり気なしの純粋な感想だった。
顔を上げた天使マリアは、努めて真面目な表情を作る。
『とにかく、今のあなたが無事ならば、まずミックス転生は成功したと言ってよいでしょう。あなたの心の中に眠る転生者たちは、皆、住む世界や時代は違えど、善き心を持ち、他者に恥じない生を全うした人物ばかりだと聞いています。話では絶世の美男美女揃いとか。ユウキに害をなすことはないでしょう』
「でも、その人たちは自由に動けないんですよね。それはちょっと、嫌だな……」
『ユウキは本当に優しい子。元はといえば私のクソじょ――管理神が悪いのですから、あなたが気に病むことはないのですよ』
天使マリアは人差し指を立てた。
『それでも気になるなら、こう考えましょう。善き転生者の魂は、いずれユウキの身体に馴染み、生前の力を発揮するときが来るでしょう。そのとき、ユウキがその力を善きことに使っていけば、それは彼らが善き行いをしたのと同じことになります。動けない彼らの代わりに、ユウキ、あなたが彼らの素晴らしさを証明するのです』
ユウキは考えた。天使マリアの言っていることは、彼にとってすぐには理解できない理屈である。
ただ、ユウキなりに噛み砕いて出した結論は、彼の『やりたいこと』そのままであった。
「天使さま。それは、僕が頑張れば誰かの役に立てるってこと、ですか?」
『ええ。そうですね。それどころか、英雄や賢者の類にさえ――』
「やります!!」
人生で一番機敏な動きで手を挙げたユウキ。
「僕、ずっとずっと考えていたんです。誰かの役に立ちたいって。ずっと病気で、色んな人に迷惑ばかりかけてきたから、生まれ変わったら、誰かの役に立とうって! それが叶うなら、僕、頑張ります!」
天使マリアはニコニコしたままつぶやいた。
『……イイ』
「天使さま?」
『良い心がけですよ、ユウキ。あなたの中の魂も、あなたと一緒になれて喜んでいることでしょう。焦ることはありません。あなたが正しいと思う行いをしていれば、いずれ彼らもあなたに語りかけ、お礼を言う日が来るかもしれませんね』
ユウキは目を輝かせた。両手を胸に当て、目を閉じ、思いを込めて口にする。
「僕、頑張ります。みんな、よろしくね」
純粋そのものの少年に、天使は口元を押さえて『……ん゛ッフぅ』とつぶやいた。
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