28 / 87
聖地からの使い
28 ホワイティ商会(1)
しおりを挟む
入学式から3週間、名目上同期生となっているお子様たちとは、朝食と夕食時間以外は別行動をとっている。
例の黒い石の研究や諸々が忙しく、本教会も全力で協力してくれるけど、私の身分は秘密だから妨害や嫌がらせもあり前途多難だ。
……私の占い通り、10月だというのに既に雪が積もっているから、急いで燃料問題をなんとかしたいのに、平民である私は再々絡まれる。
「お前、なんで授業に出てこないんだ? 自分だけサボって恥ずかしくないのか!」
リーダーになりたがっているミレル帝国のトコバ王子が、今日も朝から文句を言いにやってきた。
「私には必要ないからだと先生が仰ってたでしょう?」
「頭が悪すぎて授業についてこれないってことか。フン、所詮は平民」
全く同じ会話が既に3日も続き、流石の私もイラッとする。
「それじゃあ、貴方も私が出ている講義に参加してみれば? ついでに皆さんもどうぞ。ですが子供みたいにはしゃいだり、大声を出すのは止めてくださいね」
別の講義に参加していると、先生が何度説明しても納得しない4人に、私は何時もの如く上から目線で提案する。
食堂内に控えていたスピカが、直ぐに動いてロマーノ学園長52歳に了解を取りにいってくれる。
「生意気な! お前が私の国の者なら、鞭打ちの刑だぞ!」
今度はギョデクのハレール王子が、腕を振り上げて私に近付こうとしたので、護衛のアステカが行く手を塞ぎ、ハレール王子の護衛を睨み付けた。
お子様たちの護衛には、私が教会の保護対象者だと伝えてある。だから、もしも私に危害を加えたら、教会騎士は剣を抜いて対抗すると分かっている。
「ハレール王子おやめください! この方は教会の騎士が守っているのです」
「だから何だと言うんだ! 護衛のくせにでしゃばるな!」
……この護衛は失格ね。主を守る気がないわ。
「学びが足らないようですわね。教会騎士が護衛につくのは、教会が守るべき重要人物と認めた者だけですわ。もしも上げた手を斬られても、ギョデク王は文句も言えないのよ!」
立ち上がって無知なる者に教えるのは、マセール王国のサーシャ嬢だ。
最近、彼女とは少しだけ会話をすることがある。
同じマセール王国のガイン君も、ビビリながら会話に加わってくる。
目的は私の正体を確かめることみたいだけど、うちの騎士が怖くて核心には触れてこない。
朝食後、私は子供たちを連れ、同じ敷地内にある【聖マーヤ原初能力研究所】に行く。
憧れの研究所に来れて、お子様たちのテンションは爆上がりだ。
自分に与えられた研究室は見せられないので、【原初能力 創造】の次世代技術研究室にお邪魔する。
「あぁー、マシロさま! 今日こそは天体望遠鏡のレベルアップのヒントを教えてください」
ここの責任者が私に走り寄り、他の研究員も私の前で手を合わせて拝む。
彼等は私が天体望遠鏡の製作者だと知ると、何故か信者のように崇め始めた。
うちの物つくりオタクの創造部門3人は、昔この研究室によく出入りしていたらしい。
「天体望遠鏡のレベルアップは、本体を含む全体の大きさを変えないとダメね。でも、ピント調節を工夫し、レンズの数を増やせば既存のモノでも倍率を上げられると思うわよ」
「オオォーッ!」と、歓声というか雄たけびを上げた研究員7人は、直ぐに図面を取り出し議論を開始する。
こうなったら何も目に入らなくなるから、私は次の研究室に向かう。
何が何だか分からないお子様たちは、ポカンとしたまま私の後ろに続く。
次の研究室は【原初能力 空間】の、次世代能力研究室だ。
まあ、いろいろあったのよ。本当にいろいろね・・・
セイント・ロードスが、私専用の研究室を用意してくれたんだけど、こんな子供が伝統と格式高い【原初能力研究所】に、なんで居るんだって騒動になっちゃったわけよ。
それはもう、原初能力研究所所長のネスラー66歳とか、各研究室の教授とか主任研究員が、目くじらを立てて教会本部に抗議するほどに。
私と初めて会った【原初能力持ち】たちは、私の濃紫の髪を見て【空間】持ちだろうと推察するけど、瞳がアメジストじゃないと分かると、途端にバカにした表情をする。
……ブラックオパールの瞳なんて、誰も見たことがないから能力が分からないんだよね。
……しかも瞳と髪の色が違う能力持ちは、能力が低いと思われてるし。
困ったセイント・ロードスは、これまで誰も使えなかった新しい能力を発現させた私を、講師兼研究者として招いたのだと説明してしまった。
まあいいんだよ・・・馬鹿にされ邪険にされるより講師の方がマシだから。
できれば事前に相談して欲しかったけど、これも私の努めだと思い我慢よ。
セイント・ロードスによると、所長のネスラーは自分が【動力】と【空間小】という2つの能力を持つ【ソードメイル】であることが自慢で、多くの研究者を見下し身分差別も平気で行うので、本教会で問題になっていたらしい。
だから突然やってきた平民の子供など、彼には認められる訳がなかった。
……だからって研究所の全員を集め、私の能力が研究に値するかどうかを公開検証するなんて、必要ないと思うんだよね。
……完全に虐めだよね。12歳のか弱い美少女を演習場の中央に立たせて、私が申告した【空間】能力について、他の教授に検証させるなんて。
だから、検証するなら同じ【空間】能力持ちのネスラー所長に、私と同じことができるかどうかを試して欲しいと、全研究員、全教授、全主任研究員の前でお願いという名の喧嘩を売ったわ。
例の黒い石の研究や諸々が忙しく、本教会も全力で協力してくれるけど、私の身分は秘密だから妨害や嫌がらせもあり前途多難だ。
……私の占い通り、10月だというのに既に雪が積もっているから、急いで燃料問題をなんとかしたいのに、平民である私は再々絡まれる。
「お前、なんで授業に出てこないんだ? 自分だけサボって恥ずかしくないのか!」
リーダーになりたがっているミレル帝国のトコバ王子が、今日も朝から文句を言いにやってきた。
「私には必要ないからだと先生が仰ってたでしょう?」
「頭が悪すぎて授業についてこれないってことか。フン、所詮は平民」
全く同じ会話が既に3日も続き、流石の私もイラッとする。
「それじゃあ、貴方も私が出ている講義に参加してみれば? ついでに皆さんもどうぞ。ですが子供みたいにはしゃいだり、大声を出すのは止めてくださいね」
別の講義に参加していると、先生が何度説明しても納得しない4人に、私は何時もの如く上から目線で提案する。
食堂内に控えていたスピカが、直ぐに動いてロマーノ学園長52歳に了解を取りにいってくれる。
「生意気な! お前が私の国の者なら、鞭打ちの刑だぞ!」
今度はギョデクのハレール王子が、腕を振り上げて私に近付こうとしたので、護衛のアステカが行く手を塞ぎ、ハレール王子の護衛を睨み付けた。
お子様たちの護衛には、私が教会の保護対象者だと伝えてある。だから、もしも私に危害を加えたら、教会騎士は剣を抜いて対抗すると分かっている。
「ハレール王子おやめください! この方は教会の騎士が守っているのです」
「だから何だと言うんだ! 護衛のくせにでしゃばるな!」
……この護衛は失格ね。主を守る気がないわ。
「学びが足らないようですわね。教会騎士が護衛につくのは、教会が守るべき重要人物と認めた者だけですわ。もしも上げた手を斬られても、ギョデク王は文句も言えないのよ!」
立ち上がって無知なる者に教えるのは、マセール王国のサーシャ嬢だ。
最近、彼女とは少しだけ会話をすることがある。
同じマセール王国のガイン君も、ビビリながら会話に加わってくる。
目的は私の正体を確かめることみたいだけど、うちの騎士が怖くて核心には触れてこない。
朝食後、私は子供たちを連れ、同じ敷地内にある【聖マーヤ原初能力研究所】に行く。
憧れの研究所に来れて、お子様たちのテンションは爆上がりだ。
自分に与えられた研究室は見せられないので、【原初能力 創造】の次世代技術研究室にお邪魔する。
「あぁー、マシロさま! 今日こそは天体望遠鏡のレベルアップのヒントを教えてください」
ここの責任者が私に走り寄り、他の研究員も私の前で手を合わせて拝む。
彼等は私が天体望遠鏡の製作者だと知ると、何故か信者のように崇め始めた。
うちの物つくりオタクの創造部門3人は、昔この研究室によく出入りしていたらしい。
「天体望遠鏡のレベルアップは、本体を含む全体の大きさを変えないとダメね。でも、ピント調節を工夫し、レンズの数を増やせば既存のモノでも倍率を上げられると思うわよ」
「オオォーッ!」と、歓声というか雄たけびを上げた研究員7人は、直ぐに図面を取り出し議論を開始する。
こうなったら何も目に入らなくなるから、私は次の研究室に向かう。
何が何だか分からないお子様たちは、ポカンとしたまま私の後ろに続く。
次の研究室は【原初能力 空間】の、次世代能力研究室だ。
まあ、いろいろあったのよ。本当にいろいろね・・・
セイント・ロードスが、私専用の研究室を用意してくれたんだけど、こんな子供が伝統と格式高い【原初能力研究所】に、なんで居るんだって騒動になっちゃったわけよ。
それはもう、原初能力研究所所長のネスラー66歳とか、各研究室の教授とか主任研究員が、目くじらを立てて教会本部に抗議するほどに。
私と初めて会った【原初能力持ち】たちは、私の濃紫の髪を見て【空間】持ちだろうと推察するけど、瞳がアメジストじゃないと分かると、途端にバカにした表情をする。
……ブラックオパールの瞳なんて、誰も見たことがないから能力が分からないんだよね。
……しかも瞳と髪の色が違う能力持ちは、能力が低いと思われてるし。
困ったセイント・ロードスは、これまで誰も使えなかった新しい能力を発現させた私を、講師兼研究者として招いたのだと説明してしまった。
まあいいんだよ・・・馬鹿にされ邪険にされるより講師の方がマシだから。
できれば事前に相談して欲しかったけど、これも私の努めだと思い我慢よ。
セイント・ロードスによると、所長のネスラーは自分が【動力】と【空間小】という2つの能力を持つ【ソードメイル】であることが自慢で、多くの研究者を見下し身分差別も平気で行うので、本教会で問題になっていたらしい。
だから突然やってきた平民の子供など、彼には認められる訳がなかった。
……だからって研究所の全員を集め、私の能力が研究に値するかどうかを公開検証するなんて、必要ないと思うんだよね。
……完全に虐めだよね。12歳のか弱い美少女を演習場の中央に立たせて、私が申告した【空間】能力について、他の教授に検証させるなんて。
だから、検証するなら同じ【空間】能力持ちのネスラー所長に、私と同じことができるかどうかを試して欲しいと、全研究員、全教授、全主任研究員の前でお願いという名の喧嘩を売ったわ。
7
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【短編】冤罪が判明した令嬢は
砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。
そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。
お飾り王妃の愛と献身
石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。
けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。
ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。
国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
大好きな母と縁を切りました。
むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。
領地争いで父が戦死。
それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。
けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。
毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。
けれどこの婚約はとても酷いものだった。
そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。
そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる