上 下
17 / 87
商団主ましろ

17 ホワイティ商団(1)

しおりを挟む
 今日も少年はやって来た。
 名をパーシルといい、年齢は私より1つ年上の10歳だ。
 最近毎日のように、基本学校の帰りに本店の営業部に来て邪魔をする。
 
 彼の父親は本店長をしているバンガスさんで、エドモンド父様の弟である。
 私にとっては叔父にあたるわけで、目の前の少年は従兄ということになる。

「お前は基本学校に行く必要はないと、僕の父が言っていたが、それは、お前が学ぶ価値もないからってことだろう?」

 ……ああ、面倒くさい。

 まあ、相手は子供だ。
 多少の暴言も、失礼な態度も、ただの世間知らずだと思い相手にしない。
 オリエンテ商会の親族たちは、養女になった私を蹴落とすことに懸命で、中には洒落にならない嫌がらせをしてくる者もいる。
 
 日本で言えば巨大企業みたいなものだから、権力に群がる醜い争いだってある。
 私は後継者になるつもりはないと養父母に告げているが、父様はそれを親族には知らせていない。
 信用できない親族や必要ない者を見極めるため、敢えて放置しているようだ。
 

 営業部長のアレンさんによると、私が養女になる前まで、商会長夫妻が子供に恵まれなかったら、あなたがオリエンテ商会を継ぐのよと、パーシルは母親のマリーアンさんに言われ続けていたらしい。
 すっかり自分が後継者になれると思っていたのに、ぽっと出の私が来たもんだから、母息子して私を敵視しているのだという。

【新型ルーペ】や【アローエクリーム】、【ホワイティ】ブランドの宝飾品等を、私が立案・設計・製作までしていると知る商会の者は、私を後継者として大歓迎している。
 いつかオリエンテ家の血族から婿をとり、私が次期商会長になれば、オリエンテ商会はもっと成長するだろうと期待もされている。

 でも、私が6歳の時に【ソードメイル】と判定されたことや、私の特異な能力は口外禁止になっているので、商会内でも一部の者しか真実を知らない。


「フン、お前は知らないだろが、オリエンテ商会を継ぐ者は、必ず【原初能力】を持っていなければならないんだ。
 父は持ってなかったけど、僕はさ、なんと【原初能力 土】持ちなんだよな。それに、後継者は上位学校を卒業する必要があるんだぞ」

「ああそう。私も持ってるけど、別に自慢する必要もないわ。
 貴方は学校に行くのが仕事だけど、私は今、オリエンテ商会の仕事をしているの。見て分からない? ああ、何をしているのか見ても分からないかぁ」

 つい面倒になって、喧嘩を買っちゃったわよ。は~っ・・・

「なんだと! 年下で養女のくせに生意気な奴だ」と怒鳴って、私の手元を覗き込み、私が確認していた【ホワイティ】ブランドの上半期収支明細書を奪い取った。
 そしてムムムと唸りながら、手に取った書類を破ろうとした。

「止めなさい! その書類を作るためにたくさんの人が苦労を重ねてきたのよ。商売をする気があるなら、もっと視野を広く持ち、謙虚さを身につけなさい!」

 私は大声で叱咤し、声に驚いて固まっている子供から書類を取り戻した。
 事務所内にいた事務員さんや営業さんたちから、パチパチと拍手が起こる。
 皆、知らんふりしていたけど、これまでもお坊ちゃんには辟易していたみたいだから、スッキリしたのかもしれない。

 ……おっと、つい58歳の地球人だった自分が出ちゃったわ。

「おまえー、両親からも怒鳴られたことなんかないのに、養女のくせに、養女のくせに! お母さまに言いつけて、お前を追い出してやるからなー!」

 世間知らずのお坊ちゃまは、捨て台詞を吐いて走り去っていった。
 これほど我が儘で尊大なのに、両親は叱ることもないのかしら? お母さまって、そんなに権力のある人だったっけ?


「アレン部長、わたし、オリエンテ家にとって邪魔かなぁ?
 養女ってだけで、親族の皆さんから見下されたり悪口を言われ、役立たず、生意気、身の程知らずって言われるんだけど・・・
 まさか、血の繋がらない私が、商会を乗っ取るとでも思っているのかなぁ?」

 つい愚痴が出た。
 大人気ないとは分かってるんだけど、こんな少女に対して皆さん結構えぐいのよ。しかも、養父母が居ない時を狙ってのあれこれだもん。

 ……中身がおばさんじゃなかったら、とっくに泣いてるわ。

「お嬢様、そ、そんなことはありません」と、若い営業さんが立ち上がって、何故か涙声で言ってくれる。

「お嬢様のお陰で、今期の売り上げは4割増しですよ。そんな悲しいことを言わないでください」と、事務のベテラン女性も励ましてくれる。

「フフ、2度と事務所に来ないよう、私が手を打ちましょう。いえ、いっそ無能な跡取りは要らないと言ってやりましょう」

 アレン部長はニヤリと笑い、身の程を教えてやるべきですねと物騒なことを言う。事務所内の皆さんも、うんうんと頷き同意している。


「やっぱり私、独立するわ。そうすれば、養女の私が商会を継がないと分かってもらえるでしょう? そうよ、予定より少し早いけど【ホワイティ商団】を立ち上げるわ!」

 私は椅子から立ち上がり、「やったるぜー!」って右手を振り上げ元気に宣言する。
 元々その気だったし、父様には独立する予定だと言ってある。

 まあ、あれよ。私が【マーヤ・リー】だったか【予言者】だったかで、国王から私の好きにさせろと父様は指示を受けているらしい。

 ……もしかして占い師の影響?

 私、教会の聖人になんて興味もないし、窮屈で自由のない生活なんて真っ平ごめんだわ。

 この国の商業法では、10歳から商店や商団の主になれる。
 新しく店を立ち上げる10歳児なんていないけど、この法律は、突然親が亡くなった時の救済を目的に制定されている。

 ……3カ月後には10歳。オリエンテ商会の使える人材と機材を、有料でレンタルさせてもらいながら、商団長デビューよ!   
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編】冤罪が判明した令嬢は

砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。 そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

処理中です...