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番外編

番外編2 新しい商売(1)

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 マサルーノ先輩から魔石の詳しい話を聞いた俺は、記念式典が行われる前に冒険者ギルドに立ち寄った。

「確かに新しい魔石の購入依頼は多くなっています。
 中には転売目的かと疑いたくなるような商人も来ていますし、ギルドを通さず直接冒険者に上級魔獣討伐を依頼しようとする貴族もいます。
 ギルドとしては、個人の依頼は勝手に受けないよう指導しています」

 直ぐに対応してくれたギルマスは、先月辺りから、充填した魔石目的の怪しい客も増えてきたという。
 冒険者ギルドは公正をモットーにしているから、身分やお金でカラ魔石の充填順番の割り込みや横流しはできないと断言しているようだ。

 魔力充填魔術具は、このギルドには2台しかない。
 1回山に登って戻るまで5日は必要だし、充填できるカラ魔石は3個から5個が限界だ。

 王都の本部から魔石の値段を以前より2割上げ、魔石不足に付け込み不当に利益を得ようとする者を排除せよと指示が出ていると付け加えた。


「魔術具が、一般貴族にも普及し始めたことの弊害か・・・」

 頭を抱えたくなる案件に、俺は思わず溜息を吐いた。
 小型通信魔術具には、上級魔獣クラスの魔石が必要だし、5回以上使用すると魔力はカラになる。

 魔獣から採取した状態の魔石は、その大きさや魔獣の強さによって値段が違う。
 新品の魔石を購入するより、魔力がカラになった魔石の充填を冒険者ギルドに頼む方がかなりお得になる。

◎ドラゴンクラスの魔石 金貨30~50枚 カラ魔石の充填 金貨10枚
◎変異種クラスの魔石 金貨10~30枚 カラ魔石の充填 金貨6枚
◎上級種クラスの魔石 金貨5~10枚 カラ魔石の充填 金貨3枚 

 魔獣の氾濫が起こったからこそ、下級貴族でも上級種クラスの魔石が安価で入手できるようになった。
 変異種クラス以上の魔石が必要になるのは、古代魔術具を使用している王宮、国の施設、王立高学院、魔術具研究をする覇王学園くらいだ。

 現在貴族に普及しているのは小型通信魔術具で、貴族や金持ちに普及しているのは温風を作る暖房魔術具だ。
 暖房魔術具は高額だけど、火を使わないから燃料鉱石代や薪代が浮く。

 中級魔獣クラスの魔石なら普通の討伐で手に入るから、Aランク冒険者が危険な山の上部に登ってまで充填することはない。
 

 因みに各家庭に普及している小型魔石ランプなら、クズ魔石と呼ばれているものや、大きな魔石が割れて欠片になったもので10日間は十分使用できる。
 販売価格は、クズ魔石で小銀貨1枚。

 1ヶ月以上使用可能な大型ランプでも、中級魔獣の小サイズ魔石を小金貨1~3枚程度で購入すれば十分だ。

 ……う~ん、これから開発する魔術具は、中級魔獣クラスの魔石でも起動できる生活関連魔術具を主にするしかないか・・・



 魔石のことをあれこれと考えている内に、中央執行棟の落成式が終わっていた。
 落成式の責任者はログドル王子とトーブル先輩だったので、挨拶や進行は得意の丸投げにしておいて良かった。

 落成式が終わると参列者が増えて、同じ場所で【覇王学園】と【勇者学園】の開校記念式典が行われる。
 開校記念式典には、隣国の王族や外務大臣や教育大臣なども参列する。
 今年から正式に、隣国の奨学生の受け入れがスタートするからだ。

 先に【勇者学園】の学園長であるラリエスが、遠い所からどうもありがとう的な挨拶をして、2つの学園を設立する意義や特色を説明した。
 次に、アルファス国王が祝辞を述べ、隣国の代表者も挨拶していく。

 最後に俺が、この1年の成果を笑顔で自慢し、これからは国の垣根を越えて切磋琢磨し、魔術具開発・医薬品開発・基礎工学技術・魔法技術を発展させることの必要性を述べた。

 また、これまで王宮の執務棟をドラゴンから守るために使用していた、防護バリアの古代魔術具の改良版が完成したので、各国の王族や自国の領主たちに、必要なら売ることもできるぞと営業もしておいた。
 1台売れば、郊外に小さな化粧品工場くらい建設できるだろう。


 記念式典後に中央執行棟で行われた懇親会で、レイム公爵夫人、ワイコリーム公爵、マギ公爵、アッサム帝国皇太子が、購入したいと申し出てくれた。
 今後もドラゴンに襲撃される可能性が高い場所だから、危機意識も高い。

 それに国内では、屋敷が倒壊しても直ぐに資材が手に入らないし、職人も不足している。
 毎度お買い上げありがとうございます。

 懇親会も終盤、数人の領主や大臣たちから変異種クラスの魔石が手に入らないだろうかと相談を受けた。
 上級種クラスの魔石を何度も取り替えるより、変異種クラスの魔石の方が長持ちすると分かっているので、カラ魔石を充填するまでの繋ぎにしたいらしい。

 俺のマジックバッグの中には、解体していない魔獣が結構入っているけど、冒険者ギルドは現在、魔石以外の素材の買い取りを歓迎していない。
 昨年の大氾濫で、ギルド内には魔獣の素材が溢れているのだ。

 ……う~ん、カラ魔石なら10個くらいマジックバッグの中にあるけど、俺の全適性魔力で充填すると、料金が新品の魔石より高額になるんだよなぁ・・・

「暫く時間をください。対策を考えてみます」とだけ告げておく。

 王妃様と学院長は、各領地との通信に支障が出るかもしれないと、差し迫った感じで訴え、何とか力を貸して欲しいと俺に変異種のカラ魔石を4個預けた。
 取りあえず預かったカラ魔石を、手持ちのマジックバッグに収納しておく。

 ……世話になっている2人からの頼みだ。何とかしたいとは思うのだが…… 

 ……まあ確かに俺かラリエスが、光のドラゴンで飛んで充填魔術具を使えば、何とかなる問題ではあるが特例は作りたくない。


 俺は最終手段として、王都から【宵闇の狼】の4人を呼び出すことにした。
 リーダーのセイガさんに、一般人の依頼ではなく、王宮と王立高学院のカラ魔石に限り、定期的に魔術具を使って魔力を充填して貰えないかと頼んでみる。

「覇王様、俺はもう45を越えた。同じく40を越えたデルと一緒に、そろそろ冒険者を引退しようと考えている。
 ASランクになったロードとラルフが、宵闇の狼に新しいメンバーを加えて明日到着するから、新しいリーダーのロードに話してくれ」
 
 翌日の夜にデルさんと2人で到着したセイガさんは、申し訳なさそうに俺の頼みを断った。
 これまで王都支部を代表する冒険者として仲間を引っ張ってきたセイガさんは、腕の古傷も痛むしなぁと言いながら右腕を労るように撫でる。

「まあ普通は40歳前には引退するんだが、魔獣の大氾濫や学生への指導やらがあって、リーダーも俺も引退時期を逃した感じだ」

 そう言うデルさんも、出会った頃より疲れが全身に滲んでいる気がする。
 考えてみたら、俺の我が儘で4人をいろいろ巻き込んでしまった。
 お金はたっぷり貯まっているのに、覇王である俺を応援するために現役で頑張ってくれたんだ。

「明日には新しい仲間を連れてロードも到着するから、カラ魔石と魔術具を預かろう」

そう言ってセイガさんは、久し振りに俺の頭を撫でた。
 どうやらロードさんが魔石の充填を引き受けてくれるようだ。

「ありがとうございます。王妃様と学院長の頼みは断れなくて」

無理をさせてきた2人に感謝を込めて頭を下げ、マジックバッグをポケットから取り出し・・・首を捻った。

 ……あれ? 確かこのマジックバッグに入れた気がするが。

 いつもの右内ポケットに入れているマジックバッグから取り出そうとして、カラ魔石が出てこなかった。
 もしかして左の内ポケットか? って考えながら手を入れ取り出すと、禍々しい魔力を放つブラックドラゴン雄の翼で作ったマジックバッグ小が出てきた。

 ……あちゃ~、ここのところ忙しすぎて、こんな物騒なものを内ポケットに入れてたわ。

「なんだその黒くて物騒なものは!」

セイガさんが、顔を引き攣らせて体を後ろにのけぞらせる。
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