上 下
655 / 709
大商人への道

341ー2 改革(3)ー2

しおりを挟む
 午後2時から行われた【危機管理指導講座】を終えた学生と教師は、再び体育館に戻り掲示板に貼り出された決定事項を真剣な表情で確認する。

①全学生と全教師は、今日から2週間【危機管理指導講座】を受講し試験を受ける。その結果で実習先を決定する(教師を含む)。
 講師は王立高学院特別部隊の隊長ノエル、副学院長エリザーテ、覇王軍財務担当ラノーブである。

②卒業試験中(5~7月)は、週5日、午前9時から午後4時までを実習時間とする。
 また実習部署によっては、地方への出張や泊まりの実習あり。

③実習中に優秀と認められた者が希望すれば、覇王奨励金として10日間の実習に対し小金貨1枚を支給する。対象者は10人程度の予定。
 金銭的な事情で学院生活が厳しい者は、商業ギルド・冒険者ギルドに就職を希望し認められれば、各ギルドから奨学金を受けることができる。

④全学部の学生は、実習の無い日に、覇王軍メンバーからC級魔術師程度の指導を無料で受けることができる。

⑤教師は普通の講義を行うことができないので、全員が学生と同様に実習先で学び、次年度の教本を作成すること。
 教本の内容次第で、昇格または準男爵の爵位を与える可能性あり。
 この決定に従えない者は、辞職することを認める。

「良かった。俺、家からの仕送りが止まったんで、休日の食費が無かったんだ。頑張って覇王奨励金を貰いたいよ」

「ああ俺もだ。俺はどうせ家には戻れないから、商業ギルドに就職したい」

 仲の良さそうな経済学部の2人は、旧ワートン領の下級貴族の子息で、混乱しているであろう実家には何も期待できないと言いながらやる気を出す。

「兄さん、俺は勉強が苦手だから、総合学部でも治安維持活動に参加できるかなぁ? 俺は治安部で働きたい」

「お前は魔力量が多いから、覇王軍の人にC級魔術師の講義を受ければ大丈夫なんじゃないか? 俺は役人を目指すことに決めた」

 旧ヘイズ領の下級貴族の兄弟が、前向きに就職を考えている。

「覇王様は、女性にも役人として働くことをお許しになるのね。
 ヘイズ領の時もラレスト王国の時も、女性が役人になるのは良しとされず、いくら勉強をしても意味がなかったけど、これからは全力で勉強するわ」

「ええそうね。副学院長は憧れのエリザーテ様よ。美しいだけではなく聡明でお強くて、男にも容赦ないところが素敵よね。
 私、死ぬ気で頑張って、新しくなった学園都市高学院で働くわ!」

 総合学部と経済学部の女子学生は、日頃から男尊女卑の学院の考え方に不満を募らせていた。
 2人は参加した救済活動で、ノエル様とエリザーテ様が王立高学院特別部隊の指揮を執る姿を見てから、すっかり心酔し崇拝するようになっていた。


「学院の教師である我々に実習を強要するとは、本当に貴族の常識を知らないようだ」

「ええ、逃げた学院長も言っていたではありませんか、覇王は卑しい平民出だと。卑しいからこそ、魔獣と戦うのがお好きなのでしょう」

 旧ヘイズ領と旧ワートン領の伯爵家の三男である2人の教師は貴族主義で、実力主義の覇王や勇者とは価値観が根本的に違っていた。

 だが直ぐに、実力主義の恐ろしさを思い知ることになる。
【危機管理指導講座】の試験結果は、全員の回答用紙が体育館に貼り出され、平均点以下だった2人は、学生に笑われ、実習先は貴族管理部と決まった。

 コルランドル王国でいうところの、国務大臣的なポストである貴族管理部長に就任したのは、ミレーヌ様である。
 それはそれは厳しく正しい貴族の在り方を学ばされ、書類のミスでもあれば残業は当然で、連日女子学生から白い眼を向けられることになるだろう。
 
 5月末には、教師2人が退職し逃げだし、就職する気もなく真面目に実習しない学生8人が退学処分となった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】天候を操れる程度の能力を持った俺は、国を富ませる事が最優先!~何もかもゼロスタートでも挫けずめげず富ませます!!~

udonlevel2
ファンタジー
幼い頃から心臓の悪かった中村キョウスケは、親から「無駄金使い」とののしられながら病院生活を送っていた。 それでも勉強は好きで本を読んだりニュースを見たりするのも好きな勤勉家でもあった。 唯一の弟とはそれなりに仲が良く、色々な遊びを教えてくれた。 だが、二十歳までしか生きられないだろうと言われていたキョウスケだったが、医療の進歩で三十歳まで生きることができ、家での自宅治療に切り替わったその日――階段から降りようとして両親に突き飛ばされ命を落とす。 ――死んだ日は、土砂降りの様な雨だった。 しかし、次に目が覚めた時は褐色の肌に銀の髪をした5歳くらいの少年で。 自分が転生したことを悟り、砂漠の国シュノベザール王国の第一王子だと言う事を知る。 飢えに苦しむ国民、天候に恵まれないシュノベザール王国は常に飢えていた。だが幸いな事に第一王子として生まれたシュライは【天候を操る程度の能力】を持っていた。 その力は凄まじく、シュライは自国を豊かにするために、時に鬼となる事も持さない覚悟で成人と認められる15歳になると、頼れる弟と宰相と共に内政を始める事となる――。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載中です。 無断朗読・無断使用・無断転載禁止。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...