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天の導き

338ー2 激流(16)ー2

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「覇王様、トーマス王子一行はご指示通り、逃げ出した貴族の家に連れて行きました。
 ケガ人の為にハイポーションを売ることも可能だと伝えると、訳が分からないという顔をした後で値段を訊かれましたので、1本金貨80枚だと伝えました」

覇王軍本部に戻ってきたゲイルが、ちょっと疲れた声で報告する。

 続けた報告によると、トーマス王子の妖精から襲撃されたとの知らせを受け、駆け付けてきた側近のカルバンという者が、王子から金をとる気か!と怒鳴り散らし、魔法省の精鋭がケガをしているのだから、魔法省に請求しろと言ったらしい。

「トーマス王子とケガ人を連れ、空いた屋敷まで案内する行為だって、覇王軍本来の任務ではないし、貴族に対し無料で出せるポーションなどないと言ったのですが……」

歯切れ悪く口籠もったヤーロン先輩は、スリスリと左頬を擦って溜息を吐いた。

「まさかカルバンの奴、ヤーロン先輩を殴ったんですか? はあ?」

怒りの形相で立ち上がったエイトは、ヤーロン先輩の頬の手跡を凝視し、拳をプルプルと震わせる。
 そして「カルバンはマギ領の貴族なんです。すみませんでした」と、ヤーロン先輩に詫びた。

「なるほど、トーマス王子の側近や従者は、自分たちの間違いに何も気付いてないようだな。
 トーマス王子を含めた彼等の態度は、覇王軍より自分たちの行いの方が崇高であり、王命を果たすことこそが正義だと思っているんだろう。笑える」

真面目なラリエスが、笑えると言いながらフフフと不敵に笑っている。

 ラリエスが本気で怒ると、心配した契約妖精のトワが現れ、いつもラリエスの頭をまあまあと慰めるように撫で始める。
 すると釣られたように他の妖精たちも姿を現し、『ご主人様を守るぞ!』とか『僕がヤーロンの仇を取る』とか言いながら、円陣を組んで鉄槌を下す相談を始める。

「みんな仲がいいのはいいんだけど、最近ちょっと物騒だよ? 頑張っているご主人様愛が溢れ過ぎても、勝手に動くのは止めてね」

 疲れの滲むのゲイルとヤーロン先輩に、俺は自分で淹れた甘茶を差し出しながら、妖精たちにマジで注意する。

『覇王様ごめんなさい。勝手にシーブルを攻撃して・・・あいつが覇王軍本部をこれから攻撃するって言ったから……』

 しゅんと項垂れて、シーブルをマークしていたシルバードラゴンの守護妖精シルバーが謝る。

「すみません覇王様、俺がシルバーに覇王軍や民に危害を加えたら反撃してもいいと指示を出していたんです」

「いや、今回は結果オーライだエイト。シルバーも手加減したみたいだし、突然魔法攻撃される恐怖や痛みを、身を以て経験させる手間が省けた」

 いや、本当にそうなんだよ。倫理的に考えると、流石の俺も自分の手で魔法攻撃はしたくなかったからさ。
 それにしても、妖精たちの行動や思考が、どんどんうちのエクレアに似てきた気がするんだけど?

 結局ハイポーションは、覇王軍メンバーではなく、うちの賢者妖精ロルフがトーマス王子の所に持っていった。
 いくら常識知らずの側近でも、王宮担当のロルフに文句を言う強者はいないだろう。下手をすると、逆に20分コースの説教を食らうことになる。



 翌朝、俺とラリエスは、役場前に集まってきた住民に向かって、旧ヘイズ領を、覇王・勇者の直轄地とし、3年計画で【学園都市】にしていくと宣言した。

 後から宣言を知ったトーマス王子には、国王宛の通告書手紙と請求書を渡しておいた。
 シーブルを捕らえることはできなかったが、トーマス王子は捕らえたワートン公爵・シーブルの妻・元外務大臣・産業大臣、逃げ出そうとした貴族などを連れ、コルランドル王国に戻っていった。
 
 俺はと言うと、下級ポーションでシーブルのケガを治療し、覇王軍が捕えた貴族の仮面をつけた強盗と一緒に、犯罪者に鉄槌を下す。
 罰として、コーチャー山脈の8合目で解放し、生き残りを懸けた魔獣討伐をさせる。
 今回も、ランドルとエリスは大活躍だった。

 ……生きて戻れる根性と強さがあれば、今度はトーマス王子が捕えるだろう。
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