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天の導き

331ー1 激流(9)ー1

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 移動しながら、賢者妖精ロルフの話をじっくり聞く。
 ケガ人は3人。最も重症なのはボンテンクらしい。
 ブラックドラゴンの巣を叩く予定だったが、覇王軍に対する非道を放置することなどできない。

『トーマス王子が倒壊した王宮の瓦礫撤去を始め、民の為の役場はトーマス王子の指揮下に入り、副役場長を中心に被災者の支援を始めた。
 覇王軍は完全別行動で活動しており、昼前に王立高学院特別部隊が到着したので、全く機能していなかった警備隊に代わり半分が治安維持活動をしておった』

「王立高学院特別部隊は、無事に活動を始めたんだな」

険しい顔をしていたエイトは、王立高学院特別部隊の到着に少しだけ安堵する。

『そうじゃ、役場の者は誰も覇王講座を受講しておらず、救済すると住民に知らせたが、救済方法が分からず大混乱した。
 そこに、救世主の如く王立高学院特別部隊がやって来たので、ノエルさんが指揮を執ることにし、住民から大歓迎され混乱は落ち着いた』

 王立高学院特別部隊の救済活動は順調に始められたが、平民のために設置された救護所に、ケガをした貴族やその家族が乗り込んできた。
 平民など後回しにし、貴族を優先して治療しろ、ポーションをタダで寄越せと命令したらしい。

 当然王立高学院特別部隊は、我々は民を救済するため覇王命令で来ているから、貴族を救済することはないと突っぱねた。
 すると貴族の1人が生意気だと言って、断った薬師部の学生に手を上げた。

 護衛をしていた覇王軍の新人が激怒して、その貴族を落とし穴に落とした。
 それをきっかけに、治療しろと押しかけていた貴族12人と、治療を待っていた住民との間で睨み合いが始まった。
 多くの住民も加勢して、貴族たちはその場から立ち去っていった。


 それから1時間後、治安維持活動を終えた覇王軍メインメンバーが本部テントに戻ってきた。

 ボンテンクは責任者として、貴族を穴に落とした新人から、救護所の報告を受けていた。
 すると突然、本部テントに居た覇王軍メンバー目掛けて、何処からか土魔法と火魔法が放たれ、テントは燃え落ち覇王軍メンバーはケガを負った。

『攻撃を受けたその時、覇王軍本部で昼食をとろうとしていた医療班のトーブルと薬師が、その一部始終を目撃していた。
 攻撃が放たれた方を見ると、貴族らしき派手な服装の男が3人と、少し後方にフードを被った男が2人居て、トーブルは直ぐに氷魔法で反撃した。

 殺すつもりはなかったので、トーブルは拳半分の大きさの氷魔法を放ち、3人の男に見事命中させた。
 そして後方にいた男にも氷はかすり、被っていたフードがめくれたらしい。
 そこに居たのは、間違いなく父親だったと、トーブルはワシにだけ伝えた』

 氷が命中した3人の男は、直ぐ住民たちに取り押さえられ、フードの男2人は人混みの中に消えていった。
 怒りと悲しみを堪えて、自分にだけ犯人を伝えたトーブルの表情が、あまりにも辛そうで可哀想だったと賢者妖精ロルフは付け加えた。

「シーブルはやはり、生きていたんですね」

「ああ、どうやらシーブルは、この私に喧嘩を売ったようだエイト。
 ロルフ、トーマス王子にシーブルは生きていて、まだ王都に居ると教えて捕えさせろ。
 もしも私の方が先に捕えたら、覇王が鉄槌を下すと脅しておけ」

『了解じゃ主』

ロルフはにやりと笑うと、スッと姿を消し瞬間移動した。

 トーブル先輩の契約妖精セルビアとロルフは、長い長い月日を王宮で過ごし、トーブル先輩が父親から虐待され、母親は見て見ぬふりをしていたことをよく知っていた。
 セルビアはきっと、今回のことをとても心配しているだろう。

 地下室に避難していた祖父ワートン公爵は虫の息で、王妃となった母親は、重傷だが意識もあり命に別状はないと、トーマス王子の契約妖精マーブルちゃんから報告を受けている。
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