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天の導き

328ー2 激流(6)ー2

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 ◇◇ シーブル国王 ◇◇

 思わず怒りに支配されそうになったが、ここで見付かる訳にはいかなかったと思い直し、拳を強く握って呼吸を整える。

「私は国王である父の命により、我が国の民を救うためここに来た。
 偽王シーブルは、魔獣やドラゴン対策を怠り、大切な民を危険に曝した。
 また、偽王の手下である役場長は、被災者の救済をするなと職員に命じた。
 信じられない。大切な民を何故助けないのだ!

 魔獣のせいで物流は止まり、ある町では食べる物にも困っているというのに、貴族だけが贅沢をし、貴族の為に食料が取り上げられている。
 偽王シーブルは、旧ヘイズ領と旧ワートン領のために割り振られた復興資金を、民の為に使わず己の欲の為に独立資金とした」

 ……偽王だと! よくもぬけぬけと……許さない。

 父親そっくりな間抜けで気弱なお前などに、偽王呼ばわりされる覚えはないわ!

「もしも良い王になろうとするのなら、独立を認めても良いのではないかと考えたこともある。
 だが現実はどうだ? 民を守ることもなく、ただ搾取している。治安は悪化し兵士や警備隊員は魔獣討伐で死んでいった」

 ……煩い! 独立を認めても良いのではと考えただと! お前ごときが偉そうに、絶対に殺してやる。

「そうだ! シーブル国王は民を守ってくれなかった!」
「貴族は威張るだけで、俺たちを見下している!」
「前のヘイズ領の方がまだましだった」

 トーマスの話を聞いた民の一部が、調子に乗って叫んでいる。
 誰のお陰て暮らしてこれたと思っている愚民め!
 お前たちなど、必ず斬首刑にしてやる!


「私は皇太子として、民を救う義務がある。
 今こそ偽王を倒し、コルランドル王国の民を取り戻さねばならない。
 被災者の皆さん、辛い思いをさせてすまなかった。今日から副役場長が先頭に立ち救済活動を開始する。

 私は偽王と宰相ワートンを捕えて、その罪を問い断罪せねばならない。
 その為には、王宮として使われていた建物の瓦礫撤去をする必要がある。
 被災者の皆さん領都の皆さん、コルランドル王国の民に戻るためにも、どうか手伝って欲しい。もちろん約束通り銀貨1枚の日当は支払う」

 トーマスの奴、王族のくせに民に対し頭を深く下げるとは、お前には貴族としてのプライドはないのか!

 トーマスがゆっくりと頭を上げた瞬間、ワーッと大きな歓声が湧きおこった。
 人々は「コルランドル王国の民に戻るぞ」とか「瓦礫撤去の仕事をします!」と嬉しそうに叫んで役場の方へと移動していく。


 小汚い子供を連れボロボロの服を着た母親が、人並みに押されて私にぶつかった。
「無礼者!」と叱咤したが、人の波は止まることがないので、不敬罪で罰することもできない。

 ……許せない、許さないぞトーマス! 瓦礫が撤去されたら、絶対に殺してやる。

 ……お前ごときに、ラレスト王国は決して渡さん!

 
 怒りのあまり、唇にも掌にも血が滲んでしまった。
 今すぐにでも殺してやりたいが、恐らくトーマスには多くの護衛がついているだろう。
 ここで動くのは得策ではない。

 まだ兵は到着していないし、覇王軍とはどうやら行動を共にしていないようだ。
 殺す隙などいくらでもある。
 少し離れた場所から得意な土魔法を使えば、簡単に殺すことができるだろう。

 ……ふっ、愚者が誰なのか思い知ればいい。


「大丈夫ですか旦那様?」 

「ああ、大事ない。金まで払って瓦礫撤去をしてくれるようだから、好きにさせればいい。
 トーマスは、私もワートンも瓦礫の下に居ると思っている。
 掘っても掘っても私が見つからなかった時の、落胆する顔でも眺めるとしよう」

 そう自分で言った言葉に、つい笑ってしまう。
 残念だったなトーマス。
 お前が捕えるはずの偽王は、瓦礫の下になど居ないぞ。

 ……やはり私は運がいい。覇王軍はタダで魔獣討伐と復興支援までしてくれるんだから。 
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