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天の導き

328ー1 激流(6)ー1

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 ◇◇ シーブル国王 ◇◇

 私は混乱していた。
 何故覇王軍はやって来た?
 何故トーマスが、我が王宮の敷地を占拠している? 何故だ・・・

 答えを出そうとして先ず思い至ったのは、全ての元凶は覇王であり、トーマスはただ従っているというものだった。
 ラレスト王国が魔獣に襲われていると知り、この機会にトーマスを使って国を取り戻そうとしているのだ。

 ……王権になど興味ないと偽っていても、所詮は覇王も国を求めているのだ。

 だが、少し落ち着いて思い浮かんだのは、無能なコルランドル王国の国王が、この機に乗じて国を取り返せとトーマスに命じ、覇王と覇王軍に協力を求めたという筋書きだった。

 だが、あの気弱な王が、そんなことを命じることができるだろうか?
 いや、きっとレイム公爵やサナへ侯爵が、今がチャンスとばかりに戦を仕掛けてくる可能性の方が高いだろう。
 だとするとトーマスは先鋒で、これから本隊が来るのか?

 今戦えば、完全に惨敗してしまう。
 私の国には戦争できる兵士がいない。大臣や高官、役人の多くは瓦礫の下敷きになっている可能性が高く、使える部下もいない。

「どうして、なんでこんなことになっている! 認めない! 私は認めないぞ!」

 誰も居ない部屋で、飲みかけの酒が入っているグラスを壁に投げつける。
 パリンと音がして、壁と絨毯に赤い酒が飛び散った。
 フーッと深く息を吐き、怒りの感情を制御しながら、生き延びる策を練っていく。


 覇王の命令だろうが愚王アルファスの命令だろうが、私の国に勝手に侵入し、王城を占拠している事実は変わらない。
 腸が煮えくり返るが、必ずトーマスを殺し王城を取り返す。

 生き残っている貴族や、王城で働いている者の家族を指揮して、こちらの態勢を整えるのが先決だ。
 宰相さえ生き残っていれば、旧ワートン領の貴族を集結させることも可能だし、一旦、あちらに国の機能を移して戦う準備を整えることもできる。



 翌朝、私は変装し王都の様子を自分の目で確かめることにした。
 もしもコルランドル王国軍が攻めてくるのなら、急いで移動しなければならないが、できれば宰相は助け出したい。
 トーマスの目的が本当に領地奪還なのか、知る必要がある。

 王城とは少し離れている役場前の広場に行けば、必ず何某かの情報を得ることができるだろうと、同じく変装をしている警備隊長と一緒に歩いて進む。
 間もなく役場前広場が見えてくるというところで、警鐘が鳴り始めた。

「これは、魔獣などの危険を知らせる警鐘ではなく、緊急招集の鐘だな」

「はい王・・・はい旦那様」

 私が国王であることがバレないよう、警備隊長には旦那様と呼ぶように命じていたが、いつもの習慣というものは油断ならない。
 まあ警鐘が鳴ったので、我々の話など誰も気にしていない。

 そもそも私は、王宮の外に出て民と話した記憶が殆どないので、身バレする可能性は低いだろう。警備隊長も同じだ。
 それでも空気を読めない貴族が「王様」と呼んでしまうかもしれないので、顔はフードで隠している。


 役場前広場には既に多くの者が集まっており、何事だろうかと騒いでいる。
 民の話を盗み聞くところでは、覇王軍の救援活動についての話か、昨日役場の掲示板に出ていた王宮の瓦礫撤去の仕事斡旋の話しだろうと言っている。

 誰かが前方の演台の上に上がったようだが、私の居る場所からでは顔がはっきりと見えない。
 恐らく役場長だと思うが、いつの間にか煩かった喧騒が前の方から静まっていく。

「コルランドル王国の、旧ヘイズ領・旧ワートン領の皆さん、私はコルランドル王国皇太子のトーマスです」

 ……はあ? 何故お前が私の民の前に立っているんだ!

 信じられない声と話が聞こえてきて、私は我が耳を疑った。

 ……コルランドル王国の……だと! なんという戯言を!

「お待ちください旦那様」

前に出ようとする私の右腕を警備隊長が掴んで、焦った小声で止めようとする。
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