上 下
580 / 709
笑顔と涙

304ー1 魔術具起動(1)ー1

しおりを挟む
 ◇◇ ブラックカード持ち冒険者 ギレムット◇◇

 王都を襲撃したブラックドラゴンは、王城で暴れた後、下級地区に飛来して炎の攻撃を始めた。
 今王都には、覇王も勇者も居ない。
 ブラックドラゴンの同時襲撃を警戒した覇王命令で、覇王軍も留守だった。

『ギレムット、一般軍大臣のハシムが、火災は魔法部の学生が消すから、ブラックドラゴンが町を崩壊させようとしたら、攻撃して欲しいって』

俺の契約妖精カリン君が、高学院の作戦本部から戻ってきて、作戦本部責任者のハシム殿からの指示を伝える。
 覇王様の契約妖精エクレア様から特殊な魔石を頂いたカリンは、王都内であれば何処へでも瞬間移動することができる。

「了解カリン、軍の演習場で待機する。なんとか3人でブラックドラゴンを倒すと伝えてくれ」

『分かった。ケガしないでね。直ぐに戻って来るよ』

カリンはちょっと心配そうな顔で、無茶したらダメだよと付け加えて瞬間移動した。

 

 昨年まで俺たち【ブラックカード三人衆】は、この世に自分たちより強者は居ないと考えていた。
 だから、ギルマスから覇王の指揮下に入ると聞かされた時は、耳を疑い怒りを覚えた。

 ぽっと出のガキが覇王? 俺たちより強いだって? フッ、笑わせる。

 ブラックカード持ちの最強魔法師と呼ばれていた俺は、生意気な身の程知らずに現実を教えてやろうと思い、自称今代の覇王と対戦するため王立高学院に出向いた。
 そして、桁違いの魔力量と古代魔法陣を駆使した魔法攻撃に打ちのめされた。

 そこから俺と、剣聖と呼ばれていた赤のダイキリ、器用になんでもこなす黒のハーキムの人生は激変した。

 俺は覇王の推薦で妖精学講座を受講し、相棒のカリン君と契約した。
 剣士ダイキリは、覇王から古代魔法の一つである【山斬りの一陣】を教わった。
 黒のハーキムは、改良型魔法陣を駆使し、変異種もあっさり倒せるようになった。

 それぞれ成長した俺たちは、高学院の学生と一緒に冒険者の指導をしたり、【覇王探求部会】の調査に同行するようになった。
 魔力量の多い変異種が生息する地域に出掛け、古代魔術具を使って空の魔石に魔力を充填させる作業は、俺たちの重要任務となった。

 変異種を討伐しながら、空になった変異種やドラゴンの魔石に魔力を充填させたことにより、多くの古代魔術具が起動できるようになった。
 昨日から王宮で使われている防護壁を張る古代魔術具は、俺たちが充填した魔石が使用され、見事にブラックドラゴンの炎の攻撃を防いでいる。


 俺たちは、昨日の朝セイロン山から戻ってきて、高学院内の【覇王探求部会】に魔力を充填した魔石を届けていた。
 一週間は休みをもらってのんびりしようと思っていたら、昼前に第一級警戒態勢が発令された。

 冒険者ギルド本部に駆け付けた俺たちは、ワイコリーム領でブラックドラゴンが魔獣の氾濫を起こしたと知った。
 王都に発令された警戒態勢は、覇王様がブラックドラゴンの同時襲撃を懸念されたからだと聞いていたが、夕方頃にはすっかり油断していた。

 だが、ブラックドラゴンは本当に襲撃してきた。
 北地区は魔獣の侵入と火災が発生し、王都全体が大混乱に陥った。

 覇王様も勇者様も覇王軍も、ワイコリーム領やリドミウム領に出動し留守だから、俺たち冒険者がここは踏ん張るしかない。
 なんとか北地区の火は消したが、ブラックドラゴンは王城に留まっている。 


 王都の人々は地下室や避難場所で恐怖の夜を過ごし、俺たちは殆ど眠れないまま朝を迎えた。
 そして夜明けと共に警鐘が鳴らされ、ブラックドラゴンは炎の攻撃を開始し、最低最悪の大惨事が始まった。

 冒険者ギルド本部の三階で、ブラックドラゴンを監視していた俺の元に、契約妖精カリン君が戻ってきて、作戦本部からの指示を伝える。
 最も恐れるべき大火は、魔法部の学生が頑張ってくれるようだ。それならブラックドラゴンは、俺たちが何とかするしかない。

 軍の演習場に到着した俺たちは、まるで遊びを楽しんでいるかの如く飛び回っているブラックドラゴンを睨み付け、どうすべきか作戦を考える。
 こっちに飛んできたら容赦しない。ここなら落下させても大丈夫だ。

 だが、魔獣と違いドラゴンは、あっという間に移動してしまう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

アラフォー料理人が始める異世界スローライフ

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。 わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。 それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。 男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。 いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。

「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。 でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う) はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか? それとも聖女として辛い道を選ぶのか? ※筆者注※ 基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。 (たまにシリアスが入ります) 勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜

高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。 フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。 湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。 夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。

異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です) アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。 高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。 自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。 魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。 この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる! 外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

処理中です...