上 下
577 / 709
絶望と希望

302ー2 本当の脅威(5)ー2

しおりを挟む
『アコル様、ラリエスから報告です。
 リドミウム領の南に向かった亀の変異種は、村を半壊させ、町に突入したところで動きを止めました。
 町に入る手前で、ラリエスたちが何度も炎の攻撃をしたようです。

 でも、死んだわけではないので、移動すべきか迷っています。
 それと、リドミウムの森で動きを止めていた亀の変異種たちが、魔獣を襲い始めました。
 森から魔獣がどんどん逃げ出しています』

状況確認に向かったユテが戻ってきて、リドミウム領の混乱が拡大していると伝えた。

 次から次へと問題が勃発する。
 今回のように広範囲が危機的状況に陥ると、どうしても戦力を分散せざるを得ない。
 そのため、一気に解決するのは難しく、全ての状況を把握するのも困難になる。


「森から溢れた魔獣も何とかしたいけど、それは冒険者や覇王軍第二部隊に任せるしかない。
 で、領都リドミウムの城壁前に現れた亀の変異種はどうなった?」

『はいアコル様、責任者のゲイルによると、砲撃を仕掛けようとすると口から酸を吐くので、土魔法を使って城壁の前で胴体をひっくり返したそうです。
 金属を溶かす古代魔術具を使い、城壁の上から腹側に、ドロドロに溶けた高温の液体を落とし、腹に穴をあけ胴体を焼いて討伐したそうです』

「カルタック教授も容赦ないな。でも、覇王探求部会のメンバーを同行させておいて正解でしたね」

 予想外の討伐方法を聞いたルフナ王子は、感心しながらもえげつない作戦だと言って肩を震わせる。

「その作戦は他の場所では使えないが、裏返しにするのはいい方法かもしれない。
 ユテ、悪いけど、マサルーノ先輩には亀を土魔法でひっくり返して、ラリエスには上空から巨大で鋭利な氷を腹に落とせと伝えてくれる?」

『了解です』
 

 ユテを再びラリエスたちの所へ使いに出し、今度こそカルタック教授から回収してきた魔術具を準備する。
 グレードラゴンの洗脳が解けるかどうか、先ずは上から下に向かって魔術具を起動させよう。

 レイム領に向かっている2頭は、素材を使える状態で回収したい。
 ここまで各地で被害が拡大すると、間違いなくマジックバッグが大量に必要となるだろうから、翼だって無駄にはできない。
 
 古代魔術具でも、防御魔法の魔術具やポーション作りの魔術具は、ドラゴンの魔石でないと長時間の起動が難しい。
 


 間もなくレイム領の上空に差し掛かるという所で、2頭のグレードラゴンに追いついた。
 この2頭も、俺たちが近付いていることに気付けないようだ。

 直ぐにグレードラゴンの上空に移動し、できるだけ距離を縮めて魔術具を起動させる。

 この魔術具は、ブラックドラゴンが洗脳する時に出す、凄く不快な金属音のような鳴き声と違い、やや低いボーボーという音を出すのが特徴だ。
 不快な音ではないものの、自分に向けられると耳鳴りがして、暫く聴力が落ちる。

「よし、実験開始」

 俺の掛け声で、ルフナ王子が魔術具を起動させる。
 時間にして3分、普通に飛行していたグレードラゴンが、突然クルクルと旋回を開始した。
 いつものようにギョェーッと鳴いて、辺りをきょろきょろと見回し始める。

「洗脳が解けたようですアコル様」
「良かった。急いで討伐し他のドラゴンを追うぞ」
「了解です」
 
 上に居るランドルに気付く寸前、俺とルフナ王子はグレードラゴンに向け氷の攻撃を放つ。
 鋭利な氷の塊は翼に穴をあけ、ランドルに気付いたグレードラゴンは懸命に逃げようとする。
 
 徐々に落下していくグレードラゴンを追いながら、素材のことを考え地上に落下する直前にエアーカッターで止めを刺した。

 マジックバッグに素材を回収するため、ランドルの籠から地上に飛び降りた時、王都に使いに出した賢者妖精ロルフが戻ってきた。

『主、先程グレードラゴン3頭が王都に飛来し、2頭が飛び回って建物を壊し始めた。
 1頭は王都の上空を通り過ぎ、元学院長が領主をしているコルラド領に向かうのをワシが確認した。

 サナへ領の冒険者ギルドから入った緊急連絡によると、領都サナへにも3頭のグレードラゴンが飛来し、2頭が領都で暴れているようじゃ。
 1頭は暫くしてマリード領の方に飛び去っていったらしいぞ』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学
ファンタジー
 馬鹿の巻き添えで異世界へ、召喚した神様は予定外だと魔法も授けずにテイマー神に丸投げ。テイマー神もやる気無しで、最低限のことを伝えて地上に降ろされた。  テイマーとしての能力は最低の1だが、頼りは二柱の神の加護だけと思ったら、テイマーの能力にも加護が付いていた。  無責任に放り出された俺は、何時か帰れることを願って生き延びることに専念することに。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生してギルドの社畜になったけど、S級冒険者の女辺境伯にスカウトされたので退職して領地開拓します。今更戻って来いって言われてももう婿です

途上の土
ファンタジー
『ブラック企業の社畜」ならぬ『ブラックギルドのギル畜』 ハルトはふとしたきっかけで前世の記憶を取り戻す。  ギルドにこき使われ、碌に評価もされず、虐げられる毎日に必死に耐えていたが、憧れのS 級冒険者マリアに逆プロポーズされ、ハルトは寿退社(?)することに。  前世の記憶と鑑定チートを頼りにハルトは領地開拓に動き出す。  ハルトはただの官僚としてスカウトされただけと思っていたのに、いきなり両親に紹介されて——  一方、ハルトが抜けて彼の仕事をカバーできる者がおらず冒険者ギルドは大慌て。ハルトを脅して戻って来させようとするが——  ハルトの笑顔が人々を動かし、それが発展に繋がっていく。  色々問題はあるけれど、きっと大丈夫! だって、うちの妻、人類最強ですから! ※中世ヨーロッパの村落、都市、制度等を参考にしておりますが、当然そのまんまではないので、史実とは差異があります。ご了承ください ※カクヨムにも掲載しています。現在【異世界ファンタジー週間18位】

魔眼の守護者 ~用なし令嬢は踊らない~

灯乃
ファンタジー
幼い頃から、スウィングラー辺境伯家の後継者として厳しい教育を受けてきたアレクシア。だがある日、両親の離縁と再婚により、後継者の地位を腹違いの兄に奪われる。彼女は、たったひとりの従者とともに、追い出されるように家を出た。 「……っ、自由だーーーーーーっっ!!」 「そうですね、アレクシアさま。とりあえずあなたは、世間の一般常識を身につけるところからはじめましょうか」 最高の淑女教育と最強の兵士教育を施されたアレクシアと、そんな彼女の従者兼護衛として育てられたウィルフレッド。ふたりにとって、『学校』というのは思いもよらない刺激に満ちた場所のようで……?

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...