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策略と混乱
280ー2 逃げるサナへ侯爵と追うモノたち(1)ー2
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……しまった! 逃げ出したことがもうバレたんだ。
混乱する頭で、どうしようかと思考を巡らせる。
全ての馬車を止める気だ。
いや待て、落ち着け。大丈夫だ。私は馬車に乗っていないし、貴族らしい青い服も着ていない。ちゃんと確認していないが、髪は焦げ茶色だ。
フーツと大きく息を吐きだし、自分はCランク冒険者のサンチェだと己に言い聞かせる。
冒険者証の名前が、可愛い私の妖精と同じサンチェだったことは納得できないが、嫌な気はしない。
門にいた兵士たちが、馬に乗って全員外へ出ていき、堀に架かった橋を渡るのを確認した私は、勇気を出して門の前の列に並んぶ。
私の前に並んでいたのは商人で、半分だけ荷物を積んだ荷馬車を持っていた。
「次の者」
門番が声を掛けると、商人は身分証を見せ、門番は念入りに積み荷をチェックする。
「よし、通っていいぞ」
許可の出た商人は、やれやれと疲れた様子で馬を牽いて門を通過する。
「次の者」と声を掛けられ、とうとう私の番がやってきた。
大丈夫、大丈夫だと言い聞かせながら、私は冒険者証を取り出し門番に渡す。
身分証をランプで照らして確認し、私の顔にもランプを近付けてくる。
……そんなに私の顔を見るな! 私は冒険者だ。
「Cランク冒険者か。ああ、南の村が魔獣に襲われたと言っていたな。冒険者も大変だな。こんな時間から出るのか」
「あ、ああそうだ。できるだけ急いで駆け付けるよう頼まれた」
「よし、通っていいぞ。死ぬなよ」
……あぁ良かった。変装していて助かった。それにしても死ぬなよとは大袈裟な奴だ。
何とか領都ヘイズから脱出できた私は、すぐ前を行く荷馬車の商人に走って追いつき、荷馬車に乗せて欲しいと頼んだ。
領主である私が、平民に頭など下げたくはないが背に腹は代えられない。
「これから次の町までは3時間かかる。どうせ町には入れないから、町の近くまで行って野宿するがいいか? それでいいなら銀貨1枚でいいぜ」
商人としてはまあまあの身形をしている男は、ちょっとぶっきらぼうな感じだが、荷馬車に乗ることを許可してくれた。
このまま徒歩で進むなんて、領主の私には無理だ。
銀貨1枚は高い気もするが、このチャンスを逃すことはできない。
「あ、ああ分かった。銀貨1枚だな」
私は財布から銀貨を取り出し、男に渡すと荷馬車に飛び乗った。
商人は仕事で王都ダージリンに向かうらしく、追加で銀貨3枚払えば王都まで乗せてくれると言う。
……どうするかは明日伝えればいい。とにかく疲れた。
目が覚めると、野宿していた場所からそれほど遠くない場所に町が見えた。大きな町ではないが、食料を買う必要がある。
荷馬車の男は慣れた手つきで焚火を消し、包まっていた毛布をカバンに押し込んでいく。
用意してあった冒険者用のマントは暖かく、疲れのせいか何とか寝ることができた。
背伸びをして体を解し、夜明けの冷たい空気を吸い込むと緊張感が戻って来た。
……次の町も無事に通り過ぎねばならない。
町の入り口に近付くと、門の前には数人の兵士が立っていた。
やはり馬車の出入りは厳しくチェックされており、何台かの馬車が止められていた。
昨夜見掛けた兵士たちは、既にこの町を発ち、次の町や村に向かったようだ。
この町で馬車に乗り替えようと思ったが、荷馬車で移動した方が安全かもしれない。
髪は焦げ茶色にちゃんと染まっていたし、冒険者の中古服なら、誰も侯爵だとは思わないだろう。2日前から髭も剃っていないし。
「よし、次の者。ん、お前は本当に冒険者か?」
私の番が来て、担当する兵士が身分証を確認しながら訝しそうに質問する。
「そう言えば、冒険者にしては、締まりのない体をしているな。得意攻撃は何だ? 早く答えろ!」
槍を持った門番が、私の全身をじろじろ見ながら疑いの目を向け、大声で命令する。
混乱する頭で、どうしようかと思考を巡らせる。
全ての馬車を止める気だ。
いや待て、落ち着け。大丈夫だ。私は馬車に乗っていないし、貴族らしい青い服も着ていない。ちゃんと確認していないが、髪は焦げ茶色だ。
フーツと大きく息を吐きだし、自分はCランク冒険者のサンチェだと己に言い聞かせる。
冒険者証の名前が、可愛い私の妖精と同じサンチェだったことは納得できないが、嫌な気はしない。
門にいた兵士たちが、馬に乗って全員外へ出ていき、堀に架かった橋を渡るのを確認した私は、勇気を出して門の前の列に並んぶ。
私の前に並んでいたのは商人で、半分だけ荷物を積んだ荷馬車を持っていた。
「次の者」
門番が声を掛けると、商人は身分証を見せ、門番は念入りに積み荷をチェックする。
「よし、通っていいぞ」
許可の出た商人は、やれやれと疲れた様子で馬を牽いて門を通過する。
「次の者」と声を掛けられ、とうとう私の番がやってきた。
大丈夫、大丈夫だと言い聞かせながら、私は冒険者証を取り出し門番に渡す。
身分証をランプで照らして確認し、私の顔にもランプを近付けてくる。
……そんなに私の顔を見るな! 私は冒険者だ。
「Cランク冒険者か。ああ、南の村が魔獣に襲われたと言っていたな。冒険者も大変だな。こんな時間から出るのか」
「あ、ああそうだ。できるだけ急いで駆け付けるよう頼まれた」
「よし、通っていいぞ。死ぬなよ」
……あぁ良かった。変装していて助かった。それにしても死ぬなよとは大袈裟な奴だ。
何とか領都ヘイズから脱出できた私は、すぐ前を行く荷馬車の商人に走って追いつき、荷馬車に乗せて欲しいと頼んだ。
領主である私が、平民に頭など下げたくはないが背に腹は代えられない。
「これから次の町までは3時間かかる。どうせ町には入れないから、町の近くまで行って野宿するがいいか? それでいいなら銀貨1枚でいいぜ」
商人としてはまあまあの身形をしている男は、ちょっとぶっきらぼうな感じだが、荷馬車に乗ることを許可してくれた。
このまま徒歩で進むなんて、領主の私には無理だ。
銀貨1枚は高い気もするが、このチャンスを逃すことはできない。
「あ、ああ分かった。銀貨1枚だな」
私は財布から銀貨を取り出し、男に渡すと荷馬車に飛び乗った。
商人は仕事で王都ダージリンに向かうらしく、追加で銀貨3枚払えば王都まで乗せてくれると言う。
……どうするかは明日伝えればいい。とにかく疲れた。
目が覚めると、野宿していた場所からそれほど遠くない場所に町が見えた。大きな町ではないが、食料を買う必要がある。
荷馬車の男は慣れた手つきで焚火を消し、包まっていた毛布をカバンに押し込んでいく。
用意してあった冒険者用のマントは暖かく、疲れのせいか何とか寝ることができた。
背伸びをして体を解し、夜明けの冷たい空気を吸い込むと緊張感が戻って来た。
……次の町も無事に通り過ぎねばならない。
町の入り口に近付くと、門の前には数人の兵士が立っていた。
やはり馬車の出入りは厳しくチェックされており、何台かの馬車が止められていた。
昨夜見掛けた兵士たちは、既にこの町を発ち、次の町や村に向かったようだ。
この町で馬車に乗り替えようと思ったが、荷馬車で移動した方が安全かもしれない。
髪は焦げ茶色にちゃんと染まっていたし、冒険者の中古服なら、誰も侯爵だとは思わないだろう。2日前から髭も剃っていないし。
「よし、次の者。ん、お前は本当に冒険者か?」
私の番が来て、担当する兵士が身分証を確認しながら訝しそうに質問する。
「そう言えば、冒険者にしては、締まりのない体をしているな。得意攻撃は何だ? 早く答えろ!」
槍を持った門番が、私の全身をじろじろ見ながら疑いの目を向け、大声で命令する。
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