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策略と混乱

271ー1 独立国への道(4)ー1

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 ◇◇ ワートン公爵側近 ロイト ◇◇

 私はワートン公爵に仕える側近ロイト。

 我が伯爵家は、代々ワートン公爵家の執事をしている。
 領都ワートンに居た父がドラゴンの襲撃で亡くなり、今は兄が執事を継ぎ、公爵家を忙しく取り仕切っている。

「お嬢さま、いえ、失礼しましたシーブル夫人、必ずトーブル様をヘイズ領へお連れしますので、どうぞご安心ください。
 覇王の家族を攫い、私が抜かりなく手を打っております。

 頑なに固辞されるようでしたら、人質を殺せと指示しております。
 優しいトーブル様は必ずヘイズ領、いえ、父上が治めるラレスト王国に帰られるでしょう」

敬愛するお嬢様を、安心させるように私は笑顔で約束する。
 
 お嬢さまは、父である公爵の命令でシーブル様に嫁がれた。
 王族とはいえ、癖の強いシーブル様や、王妃や側室たちに気を遣う生活は、きっとご苦労も多かっただろう。

 ……今後はラレスト王国の王妃として、胸を張って暮らしていただきたい。


 主ワートン公爵は、ラレスト王国唯一の公爵となり、初代宰相に就任された。
 ワートン公爵家の嫡男は亡くなり、次男三男も大ケガをして療養中だが、孫4人は健在だからワートン公爵家の血が絶えることはない。

 建国に向け全てが順調に進んでいるが、孫のトーブル様を次期国王にするという肝心の目的が、ここにきて頓挫しようとしている。
 トーブル様は、父親であるシーブル様の思い通りに動くことを嫌い、ヘイズ領ラレスト王国には戻らないと、先日行われた王妃主催のパーティーで宣言されたらしい。

 トーブル様は、お父上が独立されることをご存じない。

 無事に独立を宣言するまで、国王や覇王に知られないための措置だ。
 残念なことに、トーブル様は覇王や勇者と仲良くされている。
 だから、王都担当の私とジュールが上手く動かねばならない。


 ジュールは最近頭角を現し、実父である公爵に存在をアピールしているが、ワートン公爵家の中で彼の存在は、使用人と変わらない。
 メイドの産んだ子など、弟ではないとお嬢様も蔑まれている。

 伝統と格式を重んじる家だから、公爵家の四男であることは、これからも公表されないだろう。
 彼は今でも我が伯爵家の養子であり、今後も執事である兄や私の指示に従って働くことを私は望んでいる。

 ……だが、シーブル陛下はジュールを気に入っているようだと、執事である兄が言っていた。

 確かに、このままワートン公爵家の次男三男が再起不能であれば、陛下が従者として採用される可能性もある。
 これまでのように、便利な駒として扱うことができなくなるのは不便だが、ジュールが陛下の側近にでも取り立てられたら、私よりも立場が上になる。

 ……私は宰相の側近で、ジュールは国王の側近。正直、それは考えたくない。

 だが、庶子とは言え、紛れもなくジュールは公爵の息子。
 今後のことを考えたら、不本意ではあるが、ジュール殿と呼び方を変えることも考慮すべきかもしれない。

 まあそれでも、今回の作戦は私の指示に従ってもらう。
 覇王の家族を誘拐し、トーブル様にお帰り願う作戦は私が立てたのだ。
 優しいトーブル様は、覇王の家族を助けるため、ご自分の意思を曲げられるはずだ。

 リスクを考え、ジュールには監禁場所を教えていない。
 だからジュールが捕まって拷問されても、人質が救出されることはない。
 実際に攫ったのは別人であり、無関係だと言い逃れることも可能だ。
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