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決戦開始

266ー2 心理対抗戦(7)ー2

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「まあ、美しいだけではなく、上級貴族部を卒業し、魔法部に編入できる才女なのね。しかも、王立高学院特別部隊の副隊長だなんて、素晴らしいわ。
 エリザーテさん、今夜はトーブルさんと一緒に、日頃の疲れを癒してね。私は貴女を歓迎するわ」

王妃様はエリザーテに優しく話し掛けられ、王族であるトーブルさんに相応しい女性だと認めて、歓迎すると仰った。
 王妃様の今のお言葉で、自称婚約者のことを、国王や王妃様が認めていないことが公になった感じね。

 ……さすが王妃様だわ。このお言葉は効いたわね。

「嫌だわ、パーティー会場にマント着用で来るなんて、貴族の常識も知らないのかしら」

ちょっと大きな声で、私たちを常識知らずとバカにする発言が、ターゲットの居る方向から聞こえました。
 

「覇王軍の冬の正装はマント着用だが、覇王や勇者を貶めるとはいい根性だ。
 確かに、本日のパーティーを、舞踏会だと思っている者には目障りだろう。
 覇王である私が許す。皆、正装であるマントを脱いで寛げ。
 今宵は国のために懸命に働く者を、慰労するためのパーティーだ」

 覇王様の体は薄っすらと七色に輝き、覇王だと名乗られた瞬間、40人以上が腰を抜かしたように床に尻もちをつきました。
 覇王様の【覇気】を経験したことがない者は、何が起こったのか分からず唖然とし、二度以上の経験者は驚愕の表情で体を震わせています。

 本当なら倒れ伏すところですが、覇王様は【覇気】を弱く放つと仰っていたので、美しいドレスで無様に平伏すことにならなくて良かったですわね。

【反国王派】の皆さんご愁傷様。覇王様に反意ありと示してしまったわね。
 王宮警備隊や【国王派】の、懐疑的な視線を集めていましてよ。

 ……さあ、戦い開始の合図である【覇気】は放たれたわ!


◇◇ 勇者ラリエス ◇◇

 今夜は勇者として仕事をする。【反国王派】の切り崩しだ。
 下座にあたる方へ歩いていると、私の部下でもある諜報部のデータルが近付いてきて、数人の名前を耳打ちする。

「データル、同伴してくれ。そうすれば、今後君の所には離反者が情報を持ってくるだろう。
 私や覇王様と直接会うのは難しい。誰かが窓口になる必要がある」

「了解です。窓口担当として表に立たせていただきます」

 既に下話がしてあるという一団の元に到着すると、勇者であり覇王様の側近である私を、警戒している者とそうでない者の態度は一目で分かった。

「勇者ラリエス様、紹介させてください。ここに集う仲間は、皆優秀な者ばかりです」

データルは笑顔で7人の事務官に視線を向けながら言う。

 私は頭をフル回転し、見知った者が居ないか記憶を探る。
 すると、魔法攻撃講座で懸命に魔力量を上げていた者と、今夜の名簿に目を通したカイヤさんが、真摯に危機管理指導講座を受講し、高得点を取った者がいると教えてくれたことを思い出した。

「皆さんこんばんは。貴方は確か、魔法攻撃講座に参加されていましたよね」
「は、はい勇者様」
「とても真摯に練習されている姿に、私も覇王様も感心していたのですよ」
「えっ、私なんかを?」

 このヘイズ領の文官は、自分から志願して講座に参加していた。
 ヘイズ領の先行きと己の将来を不安に思い、参加していたのだろう。

「貴方は、ワートン領の事務官の方では?」
「えっ、私をご存じなのですか?」

下っ端に近い文官の自分なんかを、何故知っているんだろうと、探るような視線を私に向ける。
 どうやら用心深い性格らしい。

「うちの指導部の女性は容赦ない……いえ、とても厳しいのだが、そんな彼女たちが、ワートン領の赤毛の文官はとても優秀だったと感心していたので、もしかして貴方ではと思ったのです」

「ああ、確かに容赦なしでした。思い出すと背筋が寒くなります」

自分が褒められていたのだと分かったワートン領のマークスは、嬉しそうに肩をすぼめてみせた。
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