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決戦開始
256ー1 覇王、激流を生む(4)ー1
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……あれ? トーブル先輩に婚約者なんていたっけ?
「はじめましてアリア様。今回の試験はトーブル様のご紹介でしたでしょうか?」
ノエル様は何時もの如く口元だけで笑って、アリア嬢に質問した。
どうやらノエル様も、トーブル先輩から何も聞かされていなかったようだ。
年齢は恐らくトーブル先輩よりも上、そして雰囲気は、俺を平民出の第七王子と見下していた、旧サーシム領の元侯爵令嬢シャルミンさんに似ている。
「いいえ、トーブル様のお母さまからですわ。私はまだ、トーブル様とは直接お会いしたことがありませんから。
できればわたくし、覇王軍のお手伝いをしたいと思っています。
ヘイズ領もワートン領も、きちんと覇王軍が動いていれば、領主が責任を問われることは無かったのでしょう?
正しい判断ができる者が居なかったのでしょうから、これからは王族であるトーブル様が指揮を執り、わたくしがお支えしていきますわ」
自信満々に言い切ったアリア嬢は、俺に蔑んだ視線を向け、何故か胸を張った。
「まあ、それではトーブル様のお母さまは、ヘイズ領とワートン領の領主が失脚したのは、覇王軍のせいだと仰ったのですか?」
本当に驚いたという顔で、スフレさんが質問する。
ノエル様はさりげなくマジックバッグから扇を取り出し、口元に当てている。
怒りを隠すための必須アイテムだと聞いたことがある。
「ええ、事実ですもの。私の母は、亡くなったワートン公爵様の従妹でしたの。父はヘイズ侯爵様の従弟で、私はヘイズ領の伯爵家の娘ですわ。
義母様は、父であるワートン公爵や兄を亡くされたのです。被害者なのに公爵家を取り潰すなんて非道、トーブル様がきっと改めてくださいますわ」
あまりに堂々と主張するアリア嬢に、違和感しかない。
王都民なら誰でも知っている領主の怠慢や王命違反を知らないのか、真実は違うのだと誰かに洗脳されたのか、どちらにしても、トーブル先輩の母親はそう主張しているのだろう。
「ノエル様、アリア様の履歴書が見当たらないのですが・・・」
スフレさんが困った顔をして言う。
「確認いたしますが、アリアさんは筆記試験を受けられましたか?」
それはそれは優しい声で、ノエル様は確認する。
……これは相当怒ってるな。
「まあ嫌だわ。私は王族の推薦なのですよ! そんなもの必要ありませんわ」
……だめだ。全然ダメダメだよ。誰だよ学院に入る許可を出したのは!
「失礼いたしました。こちらの不手際のようですわ。本日は、筆記試験を受けて合格した方のみ、面接を行っていますの。
正門を通した者には、学院長が厳しく注意なさるでしょう」
ノエル様はぴしゃりと言って立ち上がると、お帰りくださいとばかりに、ドアの方を右手で指しにっこりと笑った。
念のためドアの前に配置していた警備員が2人、俺の合図で飛んできて、令嬢を図書室から連れ出していく。
いや、だって、「私は王族の推薦なのよ! 私はトーブル様の婚約者よ!」と騒ぎ始めたから仕方ないよな。
「覚えていなさい、この人殺し!」
おまけに覇王である俺に向かって、捨て台詞まで吐いていくもんだから、同じ図書室の中で面接の順番を待っていた者たちまで、険悪な雰囲気になっちゃったよ。
「なんて失礼なんだ!」
「あの常識知らずが王族の推薦?」
「完全に不敬罪ですわ!」
面接を待っていた者たちが怒りの声を上げる。
この場に居る者は、全員が覇王軍や王立高学院特別部隊に所属している者の身内や縁故者だ。
覇王ばかりか、尊敬し応援している身内を悪く言われて腹が立たない訳がない。
「はじめましてアリア様。今回の試験はトーブル様のご紹介でしたでしょうか?」
ノエル様は何時もの如く口元だけで笑って、アリア嬢に質問した。
どうやらノエル様も、トーブル先輩から何も聞かされていなかったようだ。
年齢は恐らくトーブル先輩よりも上、そして雰囲気は、俺を平民出の第七王子と見下していた、旧サーシム領の元侯爵令嬢シャルミンさんに似ている。
「いいえ、トーブル様のお母さまからですわ。私はまだ、トーブル様とは直接お会いしたことがありませんから。
できればわたくし、覇王軍のお手伝いをしたいと思っています。
ヘイズ領もワートン領も、きちんと覇王軍が動いていれば、領主が責任を問われることは無かったのでしょう?
正しい判断ができる者が居なかったのでしょうから、これからは王族であるトーブル様が指揮を執り、わたくしがお支えしていきますわ」
自信満々に言い切ったアリア嬢は、俺に蔑んだ視線を向け、何故か胸を張った。
「まあ、それではトーブル様のお母さまは、ヘイズ領とワートン領の領主が失脚したのは、覇王軍のせいだと仰ったのですか?」
本当に驚いたという顔で、スフレさんが質問する。
ノエル様はさりげなくマジックバッグから扇を取り出し、口元に当てている。
怒りを隠すための必須アイテムだと聞いたことがある。
「ええ、事実ですもの。私の母は、亡くなったワートン公爵様の従妹でしたの。父はヘイズ侯爵様の従弟で、私はヘイズ領の伯爵家の娘ですわ。
義母様は、父であるワートン公爵や兄を亡くされたのです。被害者なのに公爵家を取り潰すなんて非道、トーブル様がきっと改めてくださいますわ」
あまりに堂々と主張するアリア嬢に、違和感しかない。
王都民なら誰でも知っている領主の怠慢や王命違反を知らないのか、真実は違うのだと誰かに洗脳されたのか、どちらにしても、トーブル先輩の母親はそう主張しているのだろう。
「ノエル様、アリア様の履歴書が見当たらないのですが・・・」
スフレさんが困った顔をして言う。
「確認いたしますが、アリアさんは筆記試験を受けられましたか?」
それはそれは優しい声で、ノエル様は確認する。
……これは相当怒ってるな。
「まあ嫌だわ。私は王族の推薦なのですよ! そんなもの必要ありませんわ」
……だめだ。全然ダメダメだよ。誰だよ学院に入る許可を出したのは!
「失礼いたしました。こちらの不手際のようですわ。本日は、筆記試験を受けて合格した方のみ、面接を行っていますの。
正門を通した者には、学院長が厳しく注意なさるでしょう」
ノエル様はぴしゃりと言って立ち上がると、お帰りくださいとばかりに、ドアの方を右手で指しにっこりと笑った。
念のためドアの前に配置していた警備員が2人、俺の合図で飛んできて、令嬢を図書室から連れ出していく。
いや、だって、「私は王族の推薦なのよ! 私はトーブル様の婚約者よ!」と騒ぎ始めたから仕方ないよな。
「覚えていなさい、この人殺し!」
おまけに覇王である俺に向かって、捨て台詞まで吐いていくもんだから、同じ図書室の中で面接の順番を待っていた者たちまで、険悪な雰囲気になっちゃったよ。
「なんて失礼なんだ!」
「あの常識知らずが王族の推薦?」
「完全に不敬罪ですわ!」
面接を待っていた者たちが怒りの声を上げる。
この場に居る者は、全員が覇王軍や王立高学院特別部隊に所属している者の身内や縁故者だ。
覇王ばかりか、尊敬し応援している身内を悪く言われて腹が立たない訳がない。
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