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覇王、時々商人

248ー2 ワートン領の貴族たち(5)ー2

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 カイヤの右腕の隊服は燃え落ち、皮膚は重度の火傷を負っている。
 自慢の髪の右側の一部はチリチリになっていて、右頬も火傷で赤く腫れている。
 左頬を見れば、誰かに叩かれたことが明白な手跡がついている。

 ……許せない!

 怒りで頭が真っ白になりそうになったが、なんとか深呼吸をして頭をフル回転させる。

 ……どうする、どうしたらこの火傷を治せる?

 ……落ち着け! 考えろ! 何か、何か方法があるはずだ。 

 怒りと絶望に支配されそうになる己を叱咤した時、アコル様のお顔が浮かんだ。

「あっ!」と思い出した俺は、マジックバッグの中から、アコル様に頂いた【慈悲の雫】のハイポーションを取り出した。


「これはどういうことだ!」

聞こえてきたのはマギ公爵の怒声だ。

「なんと惨いことを」

マギ公爵の従者が、カイヤの火傷を見て怒りを露わにする。

「カイヤさん大丈夫ですか、しっかり、しっかりしてください」

レイトル王子は泣きそうな声で、だらりと下がっているカイヤの左手を握って声を掛ける。

 カイヤを守るように味方の人垣ができて、俺はカイヤをそっと寝かせた。
 そして迷わず、アコル様に頂いたハイポーションの瓶の栓を抜く。
 火傷の酷い右腕には直接、右頬には俺の手に垂らしたハイポーションを優しく撫でるように使う。

 ……神様、どうかカイヤをお救いください。


 さすがアコル様のハイポーション。
 カイヤの酷い火傷がみるみるうちに治っていく。

「ああぁ、良かった。覇王様のポーションですね」

レイトル王子は大きな息を吐きながら安堵し、カイヤの左手に口付けた。

「レイトル王子、カイヤをお願いします」
「分かった。思いっ切りやってこい」

俺は気を失っているカイヤをレイトル王子に任せ、カイヤを害した奴等に天誅を下すため、ワーワーわめきたてている奴等の方へ足を向ける。


「私は法務大臣マギ公爵だが、これはどういうことだ?
 ワートン領の貴族は、救済活動に来た学生を脅して食料を奪うのか?
 無抵抗な女子学生に、魔法攻撃を放った大罪人は誰だ!」

マギ公爵の凍るような怒声が響くと、ワーワーわめいていた貴族たちの顔色が一瞬で青くなり、口をつぐんで顔をそむけた。

「ご、誤解だマギ公爵、高学院の教授が許可を出したんだ」

レイトル王子の剣を右肩に突き刺したまま、自分は悪くないと醜い男が言い訳を始める。

 ……アイツか。

 そして剣を刺したのが誰なのかも知らない男は、レイトル王子を指さし、「伯爵に対する不敬罪だ! あの男を捕らえてくれ!」と叫ぶ。

「そうです。教授の指示に従わず、貴族である我々に無礼な態度をとったから指導を・・・」

 ……ほう、あれが身の程知らずの子爵か。

 強盗のくせに貴族を名乗るとは国王を欺く反逆行為だ。
 万死に値する罪だが、先ずはカイヤの左頬を叩いた者に天誅を下さねばならない。

「それで、生意気な女学生の左頬を叩いたのは誰です?」

できるだけ魔力を垂れ流さないよう、威圧を放たないよう注意して、俺はこれでもかと口角を上げ笑いながら問う。
 どうしても怒りで声が震えそうになるが、これ以上は抑えられない。

 リベルノ教授とヨーダミーテ教授に視線を向けると、死んだような顔をして、決して俺と視線を合わせようとしない。

「本当に学生の分際で生意気な。兄が覇王の従者だからと身の程を知らないようでしたので、わたくしが教育して・・・」

 俺は最後まで言い訳を聞くほど人間ができてないから、目の前の醜い女の左頬を叩いた。
 意識して手加減はしたが、パシンと音がして、女は夫の方に倒れ込んだ。

「な、な、何をする無礼者!」

「王子のご命令です。ここで死にたくなければ、その醜く歪んだ口を閉じろ!」

 ……あっ、うっかり威圧が・・・
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