464 / 709
覇王、時々商人
246ー1 ワートン領の貴族たち(3)ー1
しおりを挟む
◇◇ 第四王子 レイトル ◇◇
ログドル兄上から、コーチャー山脈に魔獣の討伐に向かうと連絡があった。
兄上は私よりも強い覇王様の信奉者で、覇王様の指示とあらば率先して従い、期待に応えようと精進されている。
サーシム領が落ち着いているなら、お前もコーチャー山脈に来て魔石の採取をしてはどうかという手紙が届き、自分も参加すると決めた。
明日にでも出発しようと、伯父であるサーシム侯爵に報告している最中、とんでもない火急の知らせが冒険者ギルドサーシム支部から届いた。
「報告いたします。覇王軍本部内の冒険者ギルド連携部からの緊急連絡で、元領主代行のモルゲ殿が、数人で覇王様を殺害しようと凶行に及びました!」
ギルマスのゲルトが、大変なことになったと息を切らしながら報告する。
「な、何だと!」
伯父であるサーシム侯爵は椅子から立ち上がると、目を見開き拳を強く握ってわなわなと震わせる。
「あのバカめ!」
私は怒りを抑えられず、この元凶を作ったも同然のサーシム侯爵を睨み付けた。
春の魔獣の大氾濫の時、領主代行をしていたモルゲのあまりに酷い態度や言動を、私は決して許してはならないとサーシム侯爵に強く進言した。
最初は私の意見に賛同してくれていたが、モルゲの伯母であるサーシム侯爵夫人の強い嘆願に負け、領主代行の任を解き、自宅謹慎という軽い処分で済ませてしまった。
「覇王様、ルフナ王子、従弟のトーブル、ワイコリーム公爵子息、マリード侯爵令嬢に対する不敬な態度、何よりも、サーシム領はマジックバッグに救済品をきちんと用意せず、王命にも背いた。
次に覇王様と国王に背けば、サーシム侯爵家の存続は難しいと思いますよ」
あの時、私は目の前の伯父に厳しい言い方で釘を刺した。
この処分が、必ずやサーシム侯爵家を滅ぼすことになるだろうと。
そして、そうなった時は、私や兄上はサーシム侯爵家との縁を切ると断言していた。
「なんということを・・・覇王様に、サーシム領を救ってくださった恩人である覇王様に刃を向けるとは・・・」
信じられないというより、信じたくないという表情の伯父は、そう言って膝からがくりと崩れ落ちた。
……甘い。何故あの無能を信じようと思うのだ!
つい先日、デミル公爵一族が反逆罪で捕らえられたと知らせが届いたばかりだ。
王様は、やっと王らしくなられたようで、領主に対し厳しい処分を下せることを示された。
……ああ、サーシム侯爵家は終わったな。
「それで、覇王様は、覇王様はご無事なのかギルマス?」
「はいレイトル王子。王都の住民や冒険者たちが取り押え事なきを得たようです」
……良かった。覇王様が、モルゲ如きに遅れを取られるはずがない。
「しかし王都民の怒りは凄まじく、モルゲの処刑と一族の爵位剥奪、サーシム侯爵家を許すなと抗議デモを行い、国王代行であるトーマス王子が、大罪人を決して許さないと言明されたので、王都の騒ぎは一旦納まったそうです」
報告に来たギルマスも怒りが抑えられないのか、「私が殺したいくらいです」と低い声で呟いた。
サーシム領の領民も、覇王様に心から感謝している。今回の愚行を知れば、領民の怒りはどれ程だろうか・・・
「サーシム侯爵、私はこれからコーチャー山脈に向かいます。
お約束通り、サーシム領での私の役目は、本日この時を以て全て終了いたします。
覇王様と国王への申し開きは、直接王都へ行ってなさってください。それではお元気で。失礼します」
腹が立って、情けなくて、悔しくて・・・込み上げる怒りが溢れないよう、サーシム侯爵に別れを告げ執務室を出た。
この感情を誰かにぶつけないためにも、早く、1分でも早く此処から立ち去ろう。
ログドル兄上から、コーチャー山脈に魔獣の討伐に向かうと連絡があった。
兄上は私よりも強い覇王様の信奉者で、覇王様の指示とあらば率先して従い、期待に応えようと精進されている。
サーシム領が落ち着いているなら、お前もコーチャー山脈に来て魔石の採取をしてはどうかという手紙が届き、自分も参加すると決めた。
明日にでも出発しようと、伯父であるサーシム侯爵に報告している最中、とんでもない火急の知らせが冒険者ギルドサーシム支部から届いた。
「報告いたします。覇王軍本部内の冒険者ギルド連携部からの緊急連絡で、元領主代行のモルゲ殿が、数人で覇王様を殺害しようと凶行に及びました!」
ギルマスのゲルトが、大変なことになったと息を切らしながら報告する。
「な、何だと!」
伯父であるサーシム侯爵は椅子から立ち上がると、目を見開き拳を強く握ってわなわなと震わせる。
「あのバカめ!」
私は怒りを抑えられず、この元凶を作ったも同然のサーシム侯爵を睨み付けた。
春の魔獣の大氾濫の時、領主代行をしていたモルゲのあまりに酷い態度や言動を、私は決して許してはならないとサーシム侯爵に強く進言した。
最初は私の意見に賛同してくれていたが、モルゲの伯母であるサーシム侯爵夫人の強い嘆願に負け、領主代行の任を解き、自宅謹慎という軽い処分で済ませてしまった。
「覇王様、ルフナ王子、従弟のトーブル、ワイコリーム公爵子息、マリード侯爵令嬢に対する不敬な態度、何よりも、サーシム領はマジックバッグに救済品をきちんと用意せず、王命にも背いた。
次に覇王様と国王に背けば、サーシム侯爵家の存続は難しいと思いますよ」
あの時、私は目の前の伯父に厳しい言い方で釘を刺した。
この処分が、必ずやサーシム侯爵家を滅ぼすことになるだろうと。
そして、そうなった時は、私や兄上はサーシム侯爵家との縁を切ると断言していた。
「なんということを・・・覇王様に、サーシム領を救ってくださった恩人である覇王様に刃を向けるとは・・・」
信じられないというより、信じたくないという表情の伯父は、そう言って膝からがくりと崩れ落ちた。
……甘い。何故あの無能を信じようと思うのだ!
つい先日、デミル公爵一族が反逆罪で捕らえられたと知らせが届いたばかりだ。
王様は、やっと王らしくなられたようで、領主に対し厳しい処分を下せることを示された。
……ああ、サーシム侯爵家は終わったな。
「それで、覇王様は、覇王様はご無事なのかギルマス?」
「はいレイトル王子。王都の住民や冒険者たちが取り押え事なきを得たようです」
……良かった。覇王様が、モルゲ如きに遅れを取られるはずがない。
「しかし王都民の怒りは凄まじく、モルゲの処刑と一族の爵位剥奪、サーシム侯爵家を許すなと抗議デモを行い、国王代行であるトーマス王子が、大罪人を決して許さないと言明されたので、王都の騒ぎは一旦納まったそうです」
報告に来たギルマスも怒りが抑えられないのか、「私が殺したいくらいです」と低い声で呟いた。
サーシム領の領民も、覇王様に心から感謝している。今回の愚行を知れば、領民の怒りはどれ程だろうか・・・
「サーシム侯爵、私はこれからコーチャー山脈に向かいます。
お約束通り、サーシム領での私の役目は、本日この時を以て全て終了いたします。
覇王様と国王への申し開きは、直接王都へ行ってなさってください。それではお元気で。失礼します」
腹が立って、情けなくて、悔しくて・・・込み上げる怒りが溢れないよう、サーシム侯爵に別れを告げ執務室を出た。
この感情を誰かにぶつけないためにも、早く、1分でも早く此処から立ち去ろう。
2
お気に入りに追加
312
あなたにおすすめの小説
優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~
日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。
もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。
そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。
誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか?
そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。
アラフォー料理人が始める異世界スローライフ
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。
わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。
それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。
男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。
いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。
「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です
リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。
でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う)
はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか?
それとも聖女として辛い道を選ぶのか?
※筆者注※
基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。
(たまにシリアスが入ります)
勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗
虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~
日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。
十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。
さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。
異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。
【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜
高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。
フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。
湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。
夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。
異世界転生令嬢、出奔する
猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です)
アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。
高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。
自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。
魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。
この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる!
外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。
別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが
リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!?
※ご都合主義展開
※全7話
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる