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覇王、時々商人

246ー1 ワートン領の貴族たち(3)ー1

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 ◇◇ 第四王子 レイトル ◇◇

 ログドル兄上から、コーチャー山脈に魔獣の討伐に向かうと連絡があった。
 兄上は私よりも強い覇王様の信奉者で、覇王様の指示とあらば率先して従い、期待に応えようと精進されている。

 サーシム領が落ち着いているなら、お前もコーチャー山脈に来て魔石の採取をしてはどうかという手紙が届き、自分も参加すると決めた。
 明日にでも出発しようと、伯父であるサーシム侯爵に報告している最中、とんでもない火急の知らせが冒険者ギルドサーシム支部から届いた。

「報告いたします。覇王軍本部内の冒険者ギルド連携部からの緊急連絡で、元領主代行のモルゲ殿が、数人で覇王様を殺害しようと凶行に及びました!」

ギルマスのゲルトが、大変なことになったと息を切らしながら報告する。

「な、何だと!」

伯父であるサーシム侯爵は椅子から立ち上がると、目を見開き拳を強く握ってわなわなと震わせる。

「あのバカめ!」

私は怒りを抑えられず、この元凶を作ったも同然のサーシム侯爵伯父を睨み付けた。


 春の魔獣の大氾濫の時、領主代行をしていたモルゲのあまりに酷い態度や言動を、私は決して許してはならないとサーシム侯爵伯父に強く進言した。
 最初は私の意見に賛同してくれていたが、モルゲの伯母であるサーシム侯爵夫人の強い嘆願に負け、領主代行の任を解き、自宅謹慎という軽い処分で済ませてしまった。

「覇王様、ルフナ王子、従弟のトーブル、ワイコリーム公爵子息、マリード侯爵令嬢に対する不敬な態度、何よりも、サーシム領はマジックバッグに救済品をきちんと用意せず、王命にも背いた。
 次に覇王様と国王に背けば、サーシム侯爵家の存続は難しいと思いますよ」

 あの時、私は目の前の伯父に厳しい言い方で釘を刺した。

 この処分が、必ずやサーシム侯爵家を滅ぼすことになるだろうと。
 そして、そうなった時は、私や兄上はサーシム侯爵家との縁を切ると断言していた。

「なんということを・・・覇王様に、サーシム領を救ってくださった恩人である覇王様に刃を向けるとは・・・」

信じられないというより、信じたくないという表情の伯父は、そう言って膝からがくりと崩れ落ちた。

 ……甘い。何故あの無能を信じようと思うのだ!

 つい先日、デミル公爵一族が反逆罪で捕らえられたと知らせが届いたばかりだ。
 王様父上は、やっと王らしくなられたようで、領主に対し厳しい処分を下せることを示された。
 
 ……ああ、サーシム侯爵家は終わったな。

「それで、覇王様は、覇王様はご無事なのかギルマス?」

「はいレイトル王子。王都の住民や冒険者たちが取り押え事なきを得たようです」

 ……良かった。覇王様が、モルゲ如きに遅れを取られるはずがない。

「しかし王都民の怒りは凄まじく、モルゲの処刑と一族の爵位剥奪、サーシム侯爵家を許すなと抗議デモを行い、国王代行であるトーマス王子が、大罪人を決して許さないと言明されたので、王都の騒ぎは一旦納まったそうです」

 報告に来たギルマスも怒りが抑えられないのか、「私が殺したいくらいです」と低い声で呟いた。
 サーシム領の領民も、覇王様に心から感謝している。今回の愚行を知れば、領民の怒りはどれ程だろうか・・・

「サーシム侯爵、私はこれからコーチャー山脈に向かいます。
 お約束通り、サーシム領での私の役目は、本日この時を以て全て終了いたします。
 覇王様と国王への申し開きは、直接王都へ行ってなさってください。それではお元気で。失礼します」

腹が立って、情けなくて、悔しくて・・・込み上げる怒りが溢れないよう、サーシム侯爵に別れを告げ執務室を出た。
 この感情を誰かにぶつけないためにも、早く、1分でも早く此処から立ち去ろう。
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