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覇王、時々商人

237ー1 出動準備ー1

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 ワートン領の領都がグレードラゴンと魔獣に襲撃され、トーマス王子から救済に行って欲しいと依頼を受けて直ぐ、俺は【王立高学院特別部隊】を率いる者として教授会を緊急招集した。

 各学部の部長・副部長教授が、緊急招集の鐘の音を聞いて会議室へと走る。
 出動することは決定しているが、学生が準備をする間、教授会を招集するのは今年度からの決定事項だ。

「これでは、まともな講義などできません」と、不満顔で抗議するのは貴族部のヨーダミーテ教授だ。

「全くですヨーダミーテ教授。出動する学生は講義を受けられないし、補講することになれば、我々の負担も大きくなります」

同意して大きく頷くのは、一般教養で数学を教えているリベルノ教授である。

「あら、国の存亡に関わる緊急事態だというのに、学生の命ではなく講義の心配ですの?」

学院長代理である側室フィナンシェ様は、呆れた表情で言いながら、二人の教授に厳しい視線を向ける。
 学院長はデミル領の新領主代行として赴任するため、昨日王都を出発していたので、今日からフィナンシェ様が学院の責任者になっている。
 
「【王立高学院特別部隊】に出動要請を出したのは、現在国王の代理を務められているトーマス王子ですが、貴族部代表教授のお二人は、その指示に従うのは納得できないと仰るのですね」

面倒なやり取りを時間の無駄だと思っている副学院長のマキアート教授は、これ以上の議論は必要ないとばかりに脅しをかける。

「いえ、決してそういう訳では・・・」と、二人の教授は口籠もる。


「救済活動は貴族としての義務であり、生きた学びの場であると思うので、今回はお二人にも同行して頂き、教え子の成長を確認しながら、共に救済活動をしていただいてはどうですか覇王様、学院長、副学院長?」

新しく魔法部部長になったカルタック教授が、にこにこしながら提案する。
 現実を全く理解していない旧態依然たる態度を、変えるチャンスをカルタック教授は与えるようだ。

「まあ、とても素晴らしい提案だわカルタック教授。
【王立高学院特別部隊】には、上級貴族部の学生が多く所属していますし、これまで貴族部の教師は全く【覇王講座】に協力しなか……いえ、協力する機会がありませんでしたわ。

 私は学院長代理として、貴族部の教師にも公平に協力できる機会を与えなければなりませんね。
 教授が救済活動に行けば、講義を受けられない学生も居ませんし、補講の必要もなくなりますわ。良かったですわねヨーダミーテ教授」

少しオーバーに喜びながら、フィナンシェ様はカルタック教授に笑顔を向ける。

「それは良い案です。貴族部のが困らないよう、覇王講座で使用した【危機管理指導講座】の教本を早速お渡ししましょう。
 ワートン領へ向かう道中で目を通していただければ、優秀な皆さんなら、問題なく救済活動を行えるでしょう。そう思うだろうヨサップ教授?」

覇王様を未だに下に見ている態度の貴族部教授を許せない商学部部長のカモン教授は、隣に座っていた同じ商学部のヨサップ教授に笑顔で同意を求める。

「はいカモン教授。貴族部は皆優秀ですから、突然被災地に行っても活躍できると思います。いや本当に優秀ですから」

明らかに嫌味と分かる口振りで、ヨサップ教授は大きく頷いて同意する。
 ヨサップ教授の娘フィーネさんは、現在ドバイン運送でバリバリ働いている。

「いや、しかし、我々には準備ができておりません」と、見るからに顔色が悪くなったリベルノ教授が断ろうとする。

「そうだな、せっかく頂いた機会だが、残念ながら救済へ行くための装備がないな」

これ幸いと安堵したのか、ちっとも残念そうじゃない顔をして、ヨーダミーテ教授も行くのを断ろうとする。


「あら、ちょうど昨日、新メンバー加入に備えて装備一式6人分が、商業ギルドから届いたところですわ。
 必要な物が揃っているなんて、幸運だと思われませんかリベルノ教授?

 今回は装備のレンタル料は頂きませんけれど、無くしたり壊れた場合は弁償していただきますね。
 マジックバッグは……ああ、知り合いのお店からレンタルすれば問題ないですわ」

今回は留守番と決まった【王立高学院特別部隊】隊長のノエル様が、極上の笑顔で引導を渡す付け足す
 今回は魔獣討伐の戦力にもなるマギ公爵令嬢である副隊長ミレーヌ様が、【王立高学院特別部隊】を率いてワートン領へと向かうことになっている。

 王立高学院で働く教授の半数以上は、既にマジックバッグを格安で俺から購入しているか、任務の関係で必要と判断した教授には、無料で貸与してある。
 喉から手が出る程に欲しいと思っているらしい貴族部の教授たちは、マジックバッグがレンタルできると知らなかったようで驚いている。

 もう行くと決まったも同然のようだから、秘書にドバイン運送から店長を呼んできてもらうよう頼んで、俺は覇王軍メンバー数人と一緒に買い出しに行くことにした。

 レンタル料はちょっとだけサービスしようと思っていたけど、俺が留守の間にやって来た店長のランネルさんは、本来なら伯爵家に貸し出す予定だったマジックバッグを、貸すのだからと言って、小金貨5枚上乗せした金額で貸し出したらしい。
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