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高学院二年目

230ー1 アラエボ商会とその後(1)ー1

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 王宮に行ってちょっと疲れた俺は、二日後、もっと疲れている可能性の高いアエラボ商会とモンブラン商会に行くことにした。
 明日は入学式で学院が始まるから、動くなら今日しかない。

 覇王だと身バレしないよう俺は冒険者風の服装で、護衛のラリエスも真新しい冒険者風の服を着て、町の様子を見ながらのんびり歩いていく。
 学院の制服とか覇王軍の隊服を着ていなければ、意外と気付かれることはない。

 昨日貼り出された【覇王便り】に対する王都民の反応も気になるし、王都の経済状況も気になるので、下級地区に在るアエラボ商会から先に向かう。
 
 途中、数軒のパン屋で美味しいパンを多めに買っていく。料金は1割ほど高くなっていた。
 店主によると、魔獣の襲撃に備えて、王都民たちが食材を少しずつ備蓄し始めたことが原因で、小麦や塩や砂糖の値が上がったのだと言う。

 危機管理指導講座を担当している商学部でも、王都の物価が上がることは予想されていたので、2割以内の上昇で済んでいる内は、大きな混乱は起こらないと教授たちは考えている。
 便乗値上げではないと思いたいが、衣服も値上がりしているようだ。


 この2週間は大きな魔獣の氾濫もなく平和だったので、【覇王軍】メンバーは希望者に魔法攻撃を教え、【王立高学院特別部隊】メンバーは、古代魔術具の解明と起動に全力を注いでいた。
 夏季休暇なのに学院に残って働いてくれる皆には、心から感謝している。

 いつ出動するか分からないので、ボンテンクとエイトは午前中、商業ギルドに行って必要な食料や薬草、衣類、毛布等の発注をする。
 午後からは、俺の護衛でもあり【覇王軍第二部隊】の責任者でもあるタルトさんと、消耗した武器や防具の修理や買い足しに向かうことになっている。

 ……いや~、冗談じゃなくて【覇王軍】の資金は底をつきそうになっている。



 商会を立ち上げたのが雨期の前で、前回訪れてから一か月以上が過ぎている。
 商会長だというのに、ちょっと無責任な気がして申し訳ない。

「ここがアエラボ商会ですか? 良い場所ですね。建物も立派だ。おや?」

初めて来たアエラボ商会の建物の前で、ラリエスが感想を言いながら、店から出てきた男たちに目を止め首を捻った。
 どうやら冒険者と商人のようで、商人の方はいかにもって悪人顔で「今に後悔するぞ!」と、店の中に向かって叫びながら出てきた。

 ……どうやら何かトラブルがあったようだ。

 ラリエスは俺を見て軽く頷くと、立ち去っていく男たちの後をつけていく。
 その後ろ姿を見送っていると、何処からともなく荷物を背負った行商人のような身形の男が寄ってきて、ラリエスが何やら指示を出している。

 あれがワイコリーム公爵家の捜査専門部隊か・・・付いてきていると全然気付かなかったよ。

 俺の側近と従者は過保護なのか、レイム公爵家やボンテンクの家からも、実家や学院の警護として数人が派遣されている。
 レイム公爵夫人や側室のフィナンシェ様は、とても親身に俺の身辺に気を配ってくれている。決して婿であるレイム公爵の指示ではないだろう。


 この前王宮に行ったついでに、王宮警備隊の副隊長に元第一王子はどうなったのかと訊いたら、王の裁きが出るまで待機させていた別室から、勝手に逃げて行方不明になっているとのこと。
 見張りをしていたのはレイム領の男爵家の次男で、トイレに行っていた間に逃げ出したらしい。

 ……いやいや、厳重な王宮の警備態勢の中を逃げた?

 噂では、元第一王子のものらしきが、魔獣の大氾濫を起こしていた龍山の麓で見つかったらしいという追加情報まで教えてくれた。
 
 ん? ボンテンクはあの時、俺の家族に害をなした罪人は、我が領の全ての貴族が排除する……とか、骨も残さない……とかって冗談を言っていた気がする。
 んん? 待てよ、そう言えば温室で母さんと妹のメイリが暴力を受けた6日後くらいに、ボンテンクが妙に上機嫌だった記憶が……あぁ・・・よし、忘れよう。


 気を取り直して店のドアを開けると「いらっしゃいませ」と、卒業後すぐに働き始めてくれた、商学部のイステル先輩の元気な声が聞こえた。
 俺を見て一瞬動きが止まったが、他の客も居たので、余計なことは言わずに頭だけを下げた。

 一緒にカウンター内に居た本店長のランネルさんが、直ぐに立ち上がり店の奥に案内してくれる。
 一階にあるドバイン運送本店の奥には、お客様との商談室、運搬人控室、マジックバッグ相談室があり、事務室と会議室は二階にある。

 俺はランネルさんと一緒に階段を上がり、二階の本店長執務室に向かった。
 二階の事務室で働いているのは、商学部ヨサップ教授の娘フィーネさんと、先月冒険者ギルド本店から引き抜いて来たマクウェルさん22歳だ。

 マクウェルさんはワイコリーム領の男爵家次男で、Bランク以上の冒険者にマジックバッグを貸し出す担当者をしており、ワイコリーム公爵が引き抜いてきた。
 冒険者ギルドとの連携もできるので大助かりだ。

 事務室のドアを開けて入室してきた俺を見て、二人は「お疲れ様です商会長」と明るく挨拶をしてくれる。
 ここでは、俺を覇王と呼ぶことを原則禁止しているので、皆は商会長と呼ぶ。

 俺は笑顔で「ご苦労様」と言って、うちの商会で働く従業員用に購入した白磁のマグカップを、マジックバッグから取り出し空いている机の上に置いた。
 モンブラン商会に頼んで、アエラボ商会のロゴというか商会紋を入れて貰ったカップだ。
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