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高学院二年目
228ー2 それぞれの目指す道(2)ー2
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「しかし、デミル領の次の領主はどうするのです?」
困惑している者を横目に、冷静に意見したのは、王の盾になると約束した魔法省大臣マリード侯爵である。
「いや、ちょっと待ってくれ。いったいどうしたんだ?」
話の流れを断ち切るようにストップを掛けたのは、困惑した表情のままのレイム公爵だ。
「そんな大事なことを、勝手に決めることなど・・・」
「勝手に決めることなどできない……とでも言うつもりだったのでしょうかサナへ侯爵?
本来なら、宰相が取り仕切って事前に決めておくべきことだと思いますが?」
サナへ侯爵の言葉を遮るようにして意見したのは、なんとうちのラリエスだった。
公爵家の子息でもあるラリエスとエイトは、今の王宮の在り方について、常々疑問を呈していた。
特にラリエスは、サナへ領の救済活動の時から、サナへ侯爵は信用できないとブツブツ言っていた。
俺が覇王と分かってからも、俺に対し敬意も払わず、進んで協力する姿勢も見せない宰相に、エイトとボンテンクはダメ出しをしていた。
内緒の話だが、リーマス第五王子に至っては、王を支えているサナへ侯爵とレイム公爵こそが、この国をダメにしている元凶だと言っていた。
「ラリエス、それは覇王の側近として口出しすべきことではない」
強い口調ではなく、淡々とした話し方で俺はラリエスを叱る。
「申し訳ありません覇王様。出過ぎた真似をしてしまいました」
ラリエスは立ち上がって俺に深く頭を下げ、サナへ侯爵に向かって軽く頭を下げた。
王の側近と覇王の側近では、どちらが格上なのか、ラリエスは意識して態度に表した。
如何ともしがたい重い雰囲気になり、国王もサナへ侯爵も口をつぐむ。
「覇王様、王様、どうかこの私に、デミル領をお任せください。
王弟であり、覇王様と共に王立高学院で戦ってきた私なら、冒険者ギルドとも良好な関係を築き、民を見殺しにするような領主には、決してならないとお約束いたします」
学院長は立ち上がると、重い空気を打ち破るような自信に満ちた表情で、俺と国王に向かって正式な礼をとり、堂々と宣言した。
「学院長であれば適任でしょう。王族でもあり冒険者からの人望も厚い」
明るい声で直ぐに賛成するのは、副学院長であるマキアート教授だ。
「冒険者ギルドも冒険者も、学院長が領主になって頂けるのであれば、文句もなく大歓迎するでしょう」
ダルトンさんも嬉しそうに笑顔で賛成する。
「まあその件は、覇王として私が口を出すべきことではないが、王立高学院の学生として意見するならば、学院長の覚悟を支持し、心から敬意を表します」
俺はそう言って立ち上がり、胸に手を置き学院長に向かって軽く頭を下げた。
俺が立ち上がると、ラリエス、ボンテンクに続き、高学院の全員が立ち上がり深く頭を下げた。
……よし、ここまできたら、この流れをひっくり返すことは誰にもできないだろう。
「私も賛成です」と、ワイコリーム公爵が立ち上がると、マリード侯爵、ハシム殿、トーマス王子、そしてマギ公爵、第二王子ログドルも立ち上がり賛成する。
領主を決定し任命するのは国王だから、デミル領の領主の件は、この場でこれ以上議論する必要はない。
俺はにっこりといい笑顔で、ラリエスに次に進むよう合図を出した。
「それでは、冒険者ギルドからの支援要請については、次までに具体的に考えて頂き、デミル領の領主税に関する問題は、早急に解決可能として、最後の議題に移りたいと思います」
いつもの優等生の顔に戻ったラリエスが、混乱したままの国王とレイム公爵とサナへ侯爵を置き去りにしたまま、さっさと次の議題に移行させた。
……議長がこちら側だと、無駄な議論に時間を取られることがない。さすがラリエスだ。
「古代魔術具について、責任者である私から現時点の成果を説明します」
マキアート教授は、用意していた魔術具の絵や図の描かれた大判紙をマジックバッグから取り出し、立ち上がって上座に用意されていた掲示板に向かい、全員によく見える位置で軽く頭を下げた。
助手としてマサルーノとシルクーネさんが掲示板に大判紙を貼り付けていく。
学院に残っていた魔法部の学生総出で、昨日までに仕上げた説明図である。
大判紙は2枚あり、向かって右側をマサルーノ、左側をシルクーネさんが担当するようで、移動式掲示板の左右に立ってスタンバイしている。
「先ず、右側の魔術具から説明しよう。
これらは全て、起動可能になった魔術具で、魔獣討伐に特化した攻撃用の魔術具です。
変異種の中には魔法を使うものが居ます。
その魔法は、魔獣にも人間にも有効で、幻覚を見せる攻撃、攻撃音で気を失わせる攻撃、毒をまき散らす攻撃など、確認されているだけでも数種類あります。
それらの攻撃の内いくつかに対応できる魔術具があり、王立高学院の総力を挙げ起動させることに成功しました。
ドラゴン討伐にも有効と思える魔術具も、起動可能になっていますが、試してみないと有効かどうか判断できません」
マキアート教授は胸を張り、素晴らしい成果を堂々と発表していく。
困惑している者を横目に、冷静に意見したのは、王の盾になると約束した魔法省大臣マリード侯爵である。
「いや、ちょっと待ってくれ。いったいどうしたんだ?」
話の流れを断ち切るようにストップを掛けたのは、困惑した表情のままのレイム公爵だ。
「そんな大事なことを、勝手に決めることなど・・・」
「勝手に決めることなどできない……とでも言うつもりだったのでしょうかサナへ侯爵?
本来なら、宰相が取り仕切って事前に決めておくべきことだと思いますが?」
サナへ侯爵の言葉を遮るようにして意見したのは、なんとうちのラリエスだった。
公爵家の子息でもあるラリエスとエイトは、今の王宮の在り方について、常々疑問を呈していた。
特にラリエスは、サナへ領の救済活動の時から、サナへ侯爵は信用できないとブツブツ言っていた。
俺が覇王と分かってからも、俺に対し敬意も払わず、進んで協力する姿勢も見せない宰相に、エイトとボンテンクはダメ出しをしていた。
内緒の話だが、リーマス第五王子に至っては、王を支えているサナへ侯爵とレイム公爵こそが、この国をダメにしている元凶だと言っていた。
「ラリエス、それは覇王の側近として口出しすべきことではない」
強い口調ではなく、淡々とした話し方で俺はラリエスを叱る。
「申し訳ありません覇王様。出過ぎた真似をしてしまいました」
ラリエスは立ち上がって俺に深く頭を下げ、サナへ侯爵に向かって軽く頭を下げた。
王の側近と覇王の側近では、どちらが格上なのか、ラリエスは意識して態度に表した。
如何ともしがたい重い雰囲気になり、国王もサナへ侯爵も口をつぐむ。
「覇王様、王様、どうかこの私に、デミル領をお任せください。
王弟であり、覇王様と共に王立高学院で戦ってきた私なら、冒険者ギルドとも良好な関係を築き、民を見殺しにするような領主には、決してならないとお約束いたします」
学院長は立ち上がると、重い空気を打ち破るような自信に満ちた表情で、俺と国王に向かって正式な礼をとり、堂々と宣言した。
「学院長であれば適任でしょう。王族でもあり冒険者からの人望も厚い」
明るい声で直ぐに賛成するのは、副学院長であるマキアート教授だ。
「冒険者ギルドも冒険者も、学院長が領主になって頂けるのであれば、文句もなく大歓迎するでしょう」
ダルトンさんも嬉しそうに笑顔で賛成する。
「まあその件は、覇王として私が口を出すべきことではないが、王立高学院の学生として意見するならば、学院長の覚悟を支持し、心から敬意を表します」
俺はそう言って立ち上がり、胸に手を置き学院長に向かって軽く頭を下げた。
俺が立ち上がると、ラリエス、ボンテンクに続き、高学院の全員が立ち上がり深く頭を下げた。
……よし、ここまできたら、この流れをひっくり返すことは誰にもできないだろう。
「私も賛成です」と、ワイコリーム公爵が立ち上がると、マリード侯爵、ハシム殿、トーマス王子、そしてマギ公爵、第二王子ログドルも立ち上がり賛成する。
領主を決定し任命するのは国王だから、デミル領の領主の件は、この場でこれ以上議論する必要はない。
俺はにっこりといい笑顔で、ラリエスに次に進むよう合図を出した。
「それでは、冒険者ギルドからの支援要請については、次までに具体的に考えて頂き、デミル領の領主税に関する問題は、早急に解決可能として、最後の議題に移りたいと思います」
いつもの優等生の顔に戻ったラリエスが、混乱したままの国王とレイム公爵とサナへ侯爵を置き去りにしたまま、さっさと次の議題に移行させた。
……議長がこちら側だと、無駄な議論に時間を取られることがない。さすがラリエスだ。
「古代魔術具について、責任者である私から現時点の成果を説明します」
マキアート教授は、用意していた魔術具の絵や図の描かれた大判紙をマジックバッグから取り出し、立ち上がって上座に用意されていた掲示板に向かい、全員によく見える位置で軽く頭を下げた。
助手としてマサルーノとシルクーネさんが掲示板に大判紙を貼り付けていく。
学院に残っていた魔法部の学生総出で、昨日までに仕上げた説明図である。
大判紙は2枚あり、向かって右側をマサルーノ、左側をシルクーネさんが担当するようで、移動式掲示板の左右に立ってスタンバイしている。
「先ず、右側の魔術具から説明しよう。
これらは全て、起動可能になった魔術具で、魔獣討伐に特化した攻撃用の魔術具です。
変異種の中には魔法を使うものが居ます。
その魔法は、魔獣にも人間にも有効で、幻覚を見せる攻撃、攻撃音で気を失わせる攻撃、毒をまき散らす攻撃など、確認されているだけでも数種類あります。
それらの攻撃の内いくつかに対応できる魔術具があり、王立高学院の総力を挙げ起動させることに成功しました。
ドラゴン討伐にも有効と思える魔術具も、起動可能になっていますが、試してみないと有効かどうか判断できません」
マキアート教授は胸を張り、素晴らしい成果を堂々と発表していく。
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