上 下
423 / 709
高学院二年目

225ー2 合格発表の日ー2

しおりを挟む
 人手不足は、王宮だけの問題ではないのだ。
 どう考えても事務方の人員が足らないが、秘密保持の観点から誰でもいいという訳にはいかない。

「そう言えば在学生や学生の親から、【覇王軍】や【王立高学院特別部隊】の仕事を手伝わせて欲しいと、学院長宛に嘆願書がたくさん届いているらしい。
 優秀な学生だったら大歓迎だが、学院長が推薦してこない時点でアウトだ」

俺は完全実力主義を掲げているので、事務の仕事だろうが部隊の仕事だろうが、試験をパスするか主要メンバーが認めなければ受け入れる気はない。
 学院長に泣きついている時点で、試験を受けさせる気にもなれない。

「ああ、それ私も内容を確認しましたが、一般貴族部の学生ばかりで、自分はお茶を淹れるのが得意だとか、字が綺麗に書けるとか、我が家が総力を挙げてお支えしますとか、意味不明なものばかりだった」

俺の側近として内容を確認したラリエスが、見ただけで凄く疲れたと言いながら、勘違いもここまで来ると害にしかならないと心配する。

「でもまあ、今年度から執行部は食堂の席も分けられているし、図書館棟の3階へ上がる階段前には、警備員が常駐して立ち入り制限してくれるから、アコル様に取り入るのは難しいさ」

食堂の席を分けるように提案したルフナ王子が、到着した食堂内を見て満足そうに言う。


 新しい執行部の席は、教師専用席とされていた食堂の中二階になった。
 中二階には、教師の実数の倍のテーブルが設置されており、対立していたヘイズ侯爵派とレイム公爵派の間にパーテーションを置き、区切って使用されていた。

 既にヘイズ侯爵派は存在していないので、元のヘイズ侯爵派が使用していた区画を、執行部と覇王軍本部関係者、覇王の執務室関係者が使用することになった。
 この中二階は、教師の休憩用にも使用されており、食事時間以外はお茶を飲むこともできる。

 執行部席では、女子が3人座って楽しそうに朝食を食べていた。

「それにしても、女性の受験者が多いですわね」と、飛び級で上級貴族部3年に進級したカイヤさん(レイム領・ボンテンク先輩の妹)が驚いたように言う。

「そうみたいねカイヤさん。優秀な後輩なら新聞部に迎えたいわ」と、商学部の卒業資格は取ったけど、普通に2年生に進学したスフレさんも同意する。

「成績優秀な女子に声を掛るため、食べ終わったら、合格成績上位者の名前をチェックしに行くわよ!」

貴族部を飛び級で卒業し、魔法部3年に進学したチェルシーさんの声は、ちょっと楽しそうに弾んでいる。


 空いている席に持ってきた朝食トレイを置くと、今年の合格者の話になった。

「今年の貴族部の合格者は、女性の方が多いようです」と、こっそり合格者名簿を先に確認したルフナ王子が教えてくれる。

「頭の痛さが増しそうだな」と、ラリエスは溜息を吐く。
  
「これまでは、女だから王立高学院を受験する必要などないと考える中級や下級貴族が多かったのですが、もしかしたら覇王様の正妃や側室に……とか、自分の家を陞爵させたいと目論む貴族が欲を出したのですわ」

いつの間に後ろの席にやって来たのか、貴族部を卒業し、魔法部3年になったエイトの姉であるミレーヌ様がフフフと微笑んで、貴族部女子のことはお任せくださいと頼もしいことを言ってくれた。

 なんでも、貴族部の部長教授になったフィナンシェ様(ルフナ王子の母)から、1年生の女子が必ず履修するマナーの講義の手伝いをして欲しいと頼まれているらしい。
 公爵家の息女であるミレーヌ様なら、講義の助手に適任なんだとか。

 魔法部に進級したとはいえ、妖精と契約したミレーヌ様の冒険者ランクは既にBAランクである。
 8月の魔術師試験ではB級一般魔術師の資格も取っているので、魔法部の卒業資格もクリアしている。だから実習時間は出席免除になるらしい。

「それでも、女性に学ぶ機会が与えられたことは喜ぶべきことですわ。
 合格した貴族部の女性たちは、必死で勉強したのでしょうね、皆さん250点を越えていましたわ。
 勉強を頑張りながら【王立高学院特別部隊】に入隊していただきたいですわね」

子爵家令嬢であり、貴族部を飛び級で卒業し、魔法部3年に進級したエリザーテさんは、下級貴族の女性の方が、【王立高学院特別部隊】で活躍してくれる可能性が高いと言う。
 優秀な後輩を早く見つけ出し、指導したいと燃えている。

「アコル様、ボンテンクさんとマサルーノさんとシルクーネさんが卒業したので、新年度執行部役員の補充はどうされますか? どなたか推薦者がいますか?

 新入生は、アコル様と同じように、クラス対抗戦の後で任命されますか?
 それと、代表者はわたくしではなくアコル様の方が良いのではないでしょうか?」

最後に話し掛けてきたのは、貴族部を卒業し魔法部3年に進級されたノエル様だ。

 俺としたら、このまま執行部はノエル様にお任せしたい。
 でも、【王立高学院特別部隊】も率いているので、負担が大きい気がする。さて、どうしたもんだろうか・・・

 ノエル様とミレーヌ様は、それぞれ【王立高学院特別部隊】を率いて救済活動に向かうから、このお二人は外した方がいいだろう。
 かと言って、他のメンバーも重責を担っている。

「我々は救援や救済のため学院を留守にすることが多いので、医療コースに進級したトゥーリスさんに部長をお願いし、副部長としてカイヤさんはどうでしょう?
 もちろんこれは一つの案です。明日にでも執行部会議を行い、今後のことは全員で意見を出し合って決めましょう」

 俺は食べかけたパンを皿の上に戻し、ずっと苦労を掛けているノエル様に、心の中で手を合わせた。  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...