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高学院二年目

221ー2 絆(2)ー2

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 このままではやられると思った私は、両手を前に突き出し、黒いドラゴンの口に向けて、巨大な氷の塊を放った。
 氷の塊は、黒いドラゴンが放とうとした炎を防ぎ、そのまま口に命中した。

 しかし、格子を握っていたはずの手を放してしまった私の体は、一瞬ふわりと浮き、そして落下していく。
 落下しながら、黒いドラゴンがエリスから離れていくのを確認し安堵する。


 人は、死の直前で時間が止まったような感覚になると聞いたことがある。

 私は落下しながら「行け―!」とエリスに大声で命令し、「アコル様に知らせろ!」と念話でトワに指示を出した。
 トワなら、アコル様の居る場所まで瞬間移動できる。

「ラリエスー!」と、エイトの絶叫が聞こえる。
 私は妙に研ぎ澄まされたような感覚になりながら、地面との激突に備えて魔法陣の詠唱に入った。

 ……間に合うか?
 ……いや、間に合わせる!

「風よ踊れ、水を湛えよ。我が身を守れアコル式28!」

アコル様と一緒に考案した魔法陣を頭の中に描いて唱える。
 そしてなんとか空中で体を反転させ、視線を山の落下地点へと向け、魔法陣を発動させた。

 落ちていく体を持ち上げるように、風の渦が体の下に発生する。
 落下速度が緩やかになり、一瞬ふわりと体が持ち上がって、浮遊感が気持ち悪い。

 木々や地面がどんどん迫ってくるが、何故か冷静にその景色を見ている自分に驚く。

 ……良かった。落下地点に岩や体に刺さる危険物はなさそうだ。

 バン、ドンと体が木々に衝突しながら落下していく。
 落下速度はかなり落ちてはいるが、体を覆う風の渦は障害物を取り除いてくれるわけではない。

 地面を視線が捉えたところで、落下地点に大きなウォーターボールが見えた。
 ・・・そこからの記憶はない。



 残念ながら、落下する高さが予想を超えており、自分の魔力量も足らなかったようで、ケガをしてしまった。
 より安全を確保するためには、契約妖精であるトワの魔力が必要だったのだ。

 ……はは、肝心なところでミスったな。

「でも、ありがたいことに手は動く。見たところ足以外に大きなケガはなさそうだ。体中が痛むけど、死ぬようなケガではない。まあ、本当の危機はこれからだが・・・」

 目の中に入ってくる血が邪魔になるので、マジックバッグから止血用の布を取り出し頭に巻いていく。

 眼前では、タイガーとビッグベアーの戦いが始まり、どちらが勝っても戦えるよう攻撃魔法を何にするか考える。
 この足では走れないし、勝った方を倒しても、レッドウルフの群を一人で倒すのは難しいだろう。


 この危機的状況下で冷静に思考できるのは、これまでタイガー、ビッグベアー、レッドウルフとも戦った経験があるからだ。
 どこを狙えばいいか、相手の得意とする攻撃が何かを知っているからこそ生まれる余裕だ。

 どうやら勝者はタイガーになりそうだな。
 タイガーは俊敏に跳躍し、頭上からビッグベアーに攻撃していく。
 額と目から血を流しているビッグベアーは、グー、ガルーと悔しそうに唸って去っていった。

 タイガーも多少ケガを負ってはいるが、手に入れた獲物である私を見て、得意そうに顎を上げる。
 余程腹が空いていたのか、ダラダラと涎を溢しながら、一歩二歩と近付いてくる。

 途中、ちょっと距離を置いて群れで取り囲んでいるレッドウルフに、睨みを利かすようにぐるりと視線を移動させ、邪魔をするなとばかりに「ガウーッ!」とひと吠えした。
 タイガーは上級魔獣で、レッドウルフは中級魔獣だから、無駄な戦いをすることはない。

 タイガーは下位の獲物を攻撃する時、必ず跳躍して上から抑え込む。それはウルフ系の魔獣も同じだ。 
 だから私は、その跳躍を待って攻撃すればいい。

 ……頼むから飛んでくれよ。

 私はそう祈りながら、エアーカッターを放つため意識を右手に集中する。
 思った通りにタイガーは高く跳躍し、私はタイガーの腹を目掛けてエアーカッターを放った。

 そして素早くゴロゴロと転がり、タイガーの着地点から離れる。

 着地した場所に居なかった私を睨みつけ、今度こそ仕留めようと大きな口を開け、噛み殺すため一歩踏み出した。
 その途端、タイガーの腹からは血が噴き出し、私は止めを刺すためアイスランスを放った。

 自分の腹が致命傷を負っていることに気付いていないタイガーの眉間に、氷の槍が突き刺さる。
 ドーンと音を立てて倒れたタイガーを、私は直ぐマジックバッグに収納した。


 本当は血抜きと内臓処理をしたいところだが、次なる危機が迫っている。
 気を緩めることなく、次なる作戦を行使しなければならない。
 なのに、何故か意識が朦朧としてきた。

 頭をケガしたことが原因なのだろうかと首を捻りながら、レッドウルフの群の動きを確認する。
 この分ではもう動けそうにない。ならば、この場所で危険を回避するしかない。

 薄れそうになる意識を懸命に耐えて、マジックバッグから改良型の魔法陣の紙を取り出す。
 本来の自分であれば得意な土魔法だが、のんびりしている時間はない。

 魔法陣の紙を地面に置き、ありったけの魔力を注いでいく。
 地面がずんずんとせり上がり始めたところで、翳む視線の先にレッドウルフの群が走ってくるのが見えた。
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