上 下
411 / 709
高学院二年目

219ー2 闇と光のドラゴンー2

しおりを挟む
 ビッグベアーが突然動きを止め倒れたので、その後ろにいた4メートル級のシルバーウルフとレッドウルフの変異種らしき巨体は、ビッグベアーの体を飛び越えようとジャンプ……しなかった。

 障害物であるビッグベアーの体なんて見えてないかの如く、踏みつけたり跳ね飛ばしながら、走りを止めることはない。
 俺が倒した150もの群だって、蹴散らしながらひたすら走っている。

 ……俺の攻撃も目に入っていなかったのか? 

 走り難いのに、迂回することもなければ、足元を見ることもない。
 怒りの感情も、恐れの感情も、凶暴な本能さえも欠落した魔獣たちは、ただただ前進していく。

「行きます!」と、ボンテンクが俺の後方で声を上げた。

 ハッと我に返った俺は、ボンテンクの攻撃の邪魔にならないよう、急いで現場を離脱する。


 上空を見上げると、ランドルは2頭のグレードラゴンと戦っていた。
 ブラックドラゴンに操られているだろうグレードラゴンの動きは、いつもより鈍い気がする。

 ランドルを挟むように体当たりを仕掛けてくるグレードラゴンだけど、ランドルは余裕でかわしている。
 反撃とばかりにランドルが口から炎を軽く吐くと、驚いたようにグレードラゴンは降下した。

 ブラックドラゴンの姿を探すと、ランドルたちより70メートルくらい上空を旋回している。
 俺が魔獣を倒した瞬間を見ていたはずだが、行動を変えさせようとはしなかった。
 
 ランドルが大きい方のグレードラゴンに向かって、本気の攻撃を開始した。
 逃げ遅れたグレードラゴンは、翼に3つの穴をあけ、ギョェーッ!と耳障りな叫び声を上げながら、クルクル旋回しながら落ちていく。

 どうやって魔獣を操っているのか分からないが、ブラックドラゴンはただ上空をゆっくりと旋回するばかりで、これといった動きをみせない。

 残ったグレードラゴンは突然動きが良くなり、急降下したり急上昇したりしながら、ランドルの攻撃を回避し始めた。

 ……ん? これは自分の意思で動いているんじゃないかな?


 ボン、ゴーッと大きな音がして、俺は視線を地上に戻した。
 
 ボンテンクが始めに使った魔法陣は、魔獣の群を炎の壁でぐるりと囲む大魔法だった。
 精神を支配されている魔獣だったけど、炎の壁に囲まれると動きが止まった。

 猛火を潜り抜けようとする魔獣はおらず、炎の壁の中から様々な魔獣の叫び声が聞こえてきた。

 ……あれ、もしかしてブラックドラゴンの支配がキレた?

「改良型、風の刃乱舞」

ボンテンクがよく通る声で、得意な風の魔法陣を発動した。

 炎の壁が消えていくタイミングで、囲んだ魔獣を逃すことなくウインドカッターが縦横無尽に動き始める。
 全ての風の刃は、舞うように飛びながら上位種や変異種の体を切り刻む。

 ……容赦ないな。でも、強制的に操られ苦しみ抜くよりはましだろう。

 ボンテンクの【風の刃乱舞】のいいところは、焦げてないから毛皮ごと被災者に支援物資として分け易いところと、冒険者ギルドで解体しやすいところだろう。

 素材で儲けようと思うと、毛皮が小さくなるから損だけど問題なし。
 だって、150頭分の素材もあるし。
 でも今回は、後続の群に半分が踏みつけられ蹴散らされたので、値段は下がりそうだ。

 ボンテンクが倒した変異種の中には、未確認の変異種の姿もある。
 毒持ちの可能性を考慮して、コルランドル王国の王都支部に持ち込まなきゃいけない。


 町の防御壁の上から、大きな歓声が上がっているが、まだ上空のドラゴン戦が終わっていない。
 俺とボンテンクは後衛の冒険者たちに、生き残りがないかどうか確認してくれと頼んで、町から少し離れた場所に移動する。

 ランドル対グレードラゴンの戦いと、ブラックドラゴンの動きを注視しながら歩いていると、グレードラゴンが突然逃げ始めた。
 既に翼には2箇所穴が空いており、飛行バランスがおかしくなっている。

「ブラックドラゴンが、逃げろと命じたのでしょうか?」
「いや、ボンテンク、もう洗脳は解けていると思う」

 俺とボンテンクがそんな会話をしていると、ブラックドラゴンが動いた。

「はあ?」と俺とボンテンクの驚きの声が重なる。

 なんと、ブラックドラゴンは逃げ出したグレードラゴンに向かって、炎の攻撃を仕掛けたのだ。
 ランドルに比べると炎の大きさは小さいが、撃ちだす速度はランドルより早く、炎はグレードラゴンの頭部に命中した。

 言葉も出せず呆然とその光景を見ていたら、ブラックドラゴンが俺たちの方に向かって急降下してきた。
 ランドルが慌ててブラックドラゴンの後を追うが、飛行速度はブラックドラゴンの方が早い。

「アコル様!」と、ボンテンクが前に出て、俺を守るための防御魔法を発動する。

 キーキュルキーと、耳が痛くなる声というか音が響いて、俺とボンテンクは慌てて耳を塞いだ。

 サーシム領で音の攻撃を受けた時と同じように頭が痛くなったが、今回は直ぐに耳を塞いだので、倒れたりすることはなかった。

 俺はいつでも攻撃できるようにブラックドラゴンを睨み付け、もっと近くまで迫ったら本気の【覇気】を放とうと身構える。

 がしかし、ブラックドラゴンはランドルの炎の攻撃を避けながら、今度は急上昇して高速で飛び去ってしまった。

 ……アイツ、俺を見て笑った? 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

処理中です...