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高学院二年目

219ー2 闇と光のドラゴンー2

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 ビッグベアーが突然動きを止め倒れたので、その後ろにいた4メートル級のシルバーウルフとレッドウルフの変異種らしき巨体は、ビッグベアーの体を飛び越えようとジャンプ……しなかった。

 障害物であるビッグベアーの体なんて見えてないかの如く、踏みつけたり跳ね飛ばしながら、走りを止めることはない。
 俺が倒した150もの群だって、蹴散らしながらひたすら走っている。

 ……俺の攻撃も目に入っていなかったのか? 

 走り難いのに、迂回することもなければ、足元を見ることもない。
 怒りの感情も、恐れの感情も、凶暴な本能さえも欠落した魔獣たちは、ただただ前進していく。

「行きます!」と、ボンテンクが俺の後方で声を上げた。

 ハッと我に返った俺は、ボンテンクの攻撃の邪魔にならないよう、急いで現場を離脱する。


 上空を見上げると、ランドルは2頭のグレードラゴンと戦っていた。
 ブラックドラゴンに操られているだろうグレードラゴンの動きは、いつもより鈍い気がする。

 ランドルを挟むように体当たりを仕掛けてくるグレードラゴンだけど、ランドルは余裕でかわしている。
 反撃とばかりにランドルが口から炎を軽く吐くと、驚いたようにグレードラゴンは降下した。

 ブラックドラゴンの姿を探すと、ランドルたちより70メートルくらい上空を旋回している。
 俺が魔獣を倒した瞬間を見ていたはずだが、行動を変えさせようとはしなかった。
 
 ランドルが大きい方のグレードラゴンに向かって、本気の攻撃を開始した。
 逃げ遅れたグレードラゴンは、翼に3つの穴をあけ、ギョェーッ!と耳障りな叫び声を上げながら、クルクル旋回しながら落ちていく。

 どうやって魔獣を操っているのか分からないが、ブラックドラゴンはただ上空をゆっくりと旋回するばかりで、これといった動きをみせない。

 残ったグレードラゴンは突然動きが良くなり、急降下したり急上昇したりしながら、ランドルの攻撃を回避し始めた。

 ……ん? これは自分の意思で動いているんじゃないかな?


 ボン、ゴーッと大きな音がして、俺は視線を地上に戻した。
 
 ボンテンクが始めに使った魔法陣は、魔獣の群を炎の壁でぐるりと囲む大魔法だった。
 精神を支配されている魔獣だったけど、炎の壁に囲まれると動きが止まった。

 猛火を潜り抜けようとする魔獣はおらず、炎の壁の中から様々な魔獣の叫び声が聞こえてきた。

 ……あれ、もしかしてブラックドラゴンの支配がキレた?

「改良型、風の刃乱舞」

ボンテンクがよく通る声で、得意な風の魔法陣を発動した。

 炎の壁が消えていくタイミングで、囲んだ魔獣を逃すことなくウインドカッターが縦横無尽に動き始める。
 全ての風の刃は、舞うように飛びながら上位種や変異種の体を切り刻む。

 ……容赦ないな。でも、強制的に操られ苦しみ抜くよりはましだろう。

 ボンテンクの【風の刃乱舞】のいいところは、焦げてないから毛皮ごと被災者に支援物資として分け易いところと、冒険者ギルドで解体しやすいところだろう。

 素材で儲けようと思うと、毛皮が小さくなるから損だけど問題なし。
 だって、150頭分の素材もあるし。
 でも今回は、後続の群に半分が踏みつけられ蹴散らされたので、値段は下がりそうだ。

 ボンテンクが倒した変異種の中には、未確認の変異種の姿もある。
 毒持ちの可能性を考慮して、コルランドル王国の王都支部に持ち込まなきゃいけない。


 町の防御壁の上から、大きな歓声が上がっているが、まだ上空のドラゴン戦が終わっていない。
 俺とボンテンクは後衛の冒険者たちに、生き残りがないかどうか確認してくれと頼んで、町から少し離れた場所に移動する。

 ランドル対グレードラゴンの戦いと、ブラックドラゴンの動きを注視しながら歩いていると、グレードラゴンが突然逃げ始めた。
 既に翼には2箇所穴が空いており、飛行バランスがおかしくなっている。

「ブラックドラゴンが、逃げろと命じたのでしょうか?」
「いや、ボンテンク、もう洗脳は解けていると思う」

 俺とボンテンクがそんな会話をしていると、ブラックドラゴンが動いた。

「はあ?」と俺とボンテンクの驚きの声が重なる。

 なんと、ブラックドラゴンは逃げ出したグレードラゴンに向かって、炎の攻撃を仕掛けたのだ。
 ランドルに比べると炎の大きさは小さいが、撃ちだす速度はランドルより早く、炎はグレードラゴンの頭部に命中した。

 言葉も出せず呆然とその光景を見ていたら、ブラックドラゴンが俺たちの方に向かって急降下してきた。
 ランドルが慌ててブラックドラゴンの後を追うが、飛行速度はブラックドラゴンの方が早い。

「アコル様!」と、ボンテンクが前に出て、俺を守るための防御魔法を発動する。

 キーキュルキーと、耳が痛くなる声というか音が響いて、俺とボンテンクは慌てて耳を塞いだ。

 サーシム領で音の攻撃を受けた時と同じように頭が痛くなったが、今回は直ぐに耳を塞いだので、倒れたりすることはなかった。

 俺はいつでも攻撃できるようにブラックドラゴンを睨み付け、もっと近くまで迫ったら本気の【覇気】を放とうと身構える。

 がしかし、ブラックドラゴンはランドルの炎の攻撃を避けながら、今度は急上昇して高速で飛び去ってしまった。

 ……アイツ、俺を見て笑った? 
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