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高学院二年目
219ー1 闇と光のドラゴンー1
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1時間後、俺とボンテンクは魔獣を迎え撃つため、町をぐるりと囲む壁の外に出て、討伐方法の打ち合わせを始めた。
CBランク以上の冒険者の数は6名と少なかったが、この内2人はコルランドル王国で、覇王講座受講者から魔法攻撃の手解きを受けていた。
どうやらアッサム帝国は、覇王講座で学んだことをしっかりと広めているようで、なんだか嬉しくなった。
命を懸けた戦い……という緊張感は当然あるが、覇王である俺と共に戦えることに感激して、後衛は任せてくださいと気合を入れてくれる。
この町の領主も直ぐに駆け付けてきて、町を囲む壁の上から成り行きを見守っている。
もしも魔獣が町に入りそうになったら、警備隊と連携して警鐘を鳴らし、ひとりでも多くの住民を守るための行動をとる約束だ。
魔獣の群が1キロ手前に到達したと、ランドルが上空から念話で報告してきた。
「ボンテンク、魔獣の群は2つに分かれているようだ。
中級までの魔獣が前列に150、上級魔獣が少し遅れて50だ。
群を操っているブラックドラゴンは、これまでの変異種より頭がいい。
グレードラゴンはランドルに任せたので、俺たちは油断せずに行くぞ!」
「はいアコル様。前の群150はお任せします。後はお任せください。
新しく改良した魔法陣を試してみます。かなり広範囲に作用するので、始めからライム君に協力を頼みます」
ボンテンクはポケットから2枚の紙を取り出し、不敵に笑いながら上級魔獣は任せてくれと頼もしく言う。
新しい思考で広域魔法陣を生み出すのはマサルーノだが、ボンテンクは古代魔法陣の改良が得意だ。
特にトーマス王子が持っている、【上級魔法と覇王の遺言】の魔術書を参考にしていて、トーマス王子より上手く使いこなしている。
「ブラックドラゴンの存在は不気味だが、今は目の前に見えてきたあの群を倒す!」
「はい!」とボンテンクは力強く答えて、俺から距離をとるように下がっていく。
広大な果樹園を踏みつぶしながら、先頭を走っているのはホーンブルの群だ。
大型で角のある魔獣を先頭にしているのが、もしもブラックドラゴンの指示であるとしたら、この魔獣の群はこれまでとは違う動きをする可能性がある。
バキバキと果樹園の木を薙ぎ倒し、狂ったように走り続けるホーンブルの群の数は30、その後ろに続いているのはビッグホーンで、群れの数は40くらいだ。
ビッグホーンの後ろに見えてきたのは、10種類以上の下級と中級魔獣たちである。
下級魔獣まで混じっているということは、食物連鎖など関係なく突き進んできたのか、既に多くの下級魔獣は食料として消費されたということだろうか?
サーシム領のリドミウムの森が氾濫した時は、下級魔獣の姿を見掛けなかった。
だから下級魔獣は増え過ぎた上位魔獣の食料になったり、先に森から逃げ出していたと記憶している。
マジックバッグから双眼鏡を取り出し魔獣の様子を観察すると、ただ狂ったようにがむしゃらに走っているのではなく、本当に狂っているとしか思えない形相と光のない瞳で走っていた。
……人間を襲うぞ!という指示を受けているのではなく、脳が操られていて逆らうことができないのか?
見るからに、途中で水を飲んだり、休憩さえしていないように思える。
視点さえ定まらない瞳で、涎を流しながら苦しみに顔を歪めて走って・・・いや、走らされている。
あまりの気味悪さに、心臓の鼓動が一瞬不規則になった。
『アコル、今回は横一列になってないわよ』
エクレアが俺の肩の上から前方を見て、心配そうに言う。
「そうだねエクレア。でもまあ大丈夫だろう。今回はエクレアの魔力を借りるから。
ランドル、魔獣は全て操られている。グレードラゴンをも操っているブラックドラゴンには、くれぐれも気を付けて」
ランドルに指示を出し、エクレアに最初から全開で行くぞとお願いする。
俺はマジックバッグからミスリルの剣を取り出そうとして、どんどん迫ってくる先頭のホーンブルの群を見て、攻撃の手順を変えることにした。
縦に伸びている魔獣の群を横に広げるため、魔獣の群のど真ん中に向かって、ランドルが放つような巨大なファイアボールを撃ち込んだ。
すると、思惑通りに魔獣の群は、炎が着弾した中央を避けるように左右に広がっていく。
マジックバッグから剣を取り出し、呼吸と精神を整えるため、大きく息を吸って深く吐き出す。
「誓約の魔力を捧げし我に力を! 薙ぎ払え、山斬りの一陣」
金色の魔法陣を発動させ、剣を金色の魔法剣に変えていく。
エクレアは俺の右肩で、剣に向かって魔力を注ぎ威力を上げてくれる。
「山を切り裂く一陣の剣、一刀両断、横斬り!」と叫んで、俺は剣を左から右へと一気に振り抜いた。
俺に斬られた魔獣たちは、何が何だか分からないまま、体が二つに分かれていく。
おかしな感情かも知れないが、これでもう苦しまなくて済むぞと憐れんでしまった。
このまま走り続けさせられたら、きっと限界が来て倒れるか死んでしまうだろう。
エクレアの魔力が追加されたので、いつもの横斬りより威力が強く、150頭の群はほぼ討伐できた感じだ。
直ぐに双眼鏡を取り出し確認すると、横斬りの斬撃が後方まで届いたようで、後ろの群の先頭を走っていた上級魔獣ビッグベアーの首が宙を舞っている。
CBランク以上の冒険者の数は6名と少なかったが、この内2人はコルランドル王国で、覇王講座受講者から魔法攻撃の手解きを受けていた。
どうやらアッサム帝国は、覇王講座で学んだことをしっかりと広めているようで、なんだか嬉しくなった。
命を懸けた戦い……という緊張感は当然あるが、覇王である俺と共に戦えることに感激して、後衛は任せてくださいと気合を入れてくれる。
この町の領主も直ぐに駆け付けてきて、町を囲む壁の上から成り行きを見守っている。
もしも魔獣が町に入りそうになったら、警備隊と連携して警鐘を鳴らし、ひとりでも多くの住民を守るための行動をとる約束だ。
魔獣の群が1キロ手前に到達したと、ランドルが上空から念話で報告してきた。
「ボンテンク、魔獣の群は2つに分かれているようだ。
中級までの魔獣が前列に150、上級魔獣が少し遅れて50だ。
群を操っているブラックドラゴンは、これまでの変異種より頭がいい。
グレードラゴンはランドルに任せたので、俺たちは油断せずに行くぞ!」
「はいアコル様。前の群150はお任せします。後はお任せください。
新しく改良した魔法陣を試してみます。かなり広範囲に作用するので、始めからライム君に協力を頼みます」
ボンテンクはポケットから2枚の紙を取り出し、不敵に笑いながら上級魔獣は任せてくれと頼もしく言う。
新しい思考で広域魔法陣を生み出すのはマサルーノだが、ボンテンクは古代魔法陣の改良が得意だ。
特にトーマス王子が持っている、【上級魔法と覇王の遺言】の魔術書を参考にしていて、トーマス王子より上手く使いこなしている。
「ブラックドラゴンの存在は不気味だが、今は目の前に見えてきたあの群を倒す!」
「はい!」とボンテンクは力強く答えて、俺から距離をとるように下がっていく。
広大な果樹園を踏みつぶしながら、先頭を走っているのはホーンブルの群だ。
大型で角のある魔獣を先頭にしているのが、もしもブラックドラゴンの指示であるとしたら、この魔獣の群はこれまでとは違う動きをする可能性がある。
バキバキと果樹園の木を薙ぎ倒し、狂ったように走り続けるホーンブルの群の数は30、その後ろに続いているのはビッグホーンで、群れの数は40くらいだ。
ビッグホーンの後ろに見えてきたのは、10種類以上の下級と中級魔獣たちである。
下級魔獣まで混じっているということは、食物連鎖など関係なく突き進んできたのか、既に多くの下級魔獣は食料として消費されたということだろうか?
サーシム領のリドミウムの森が氾濫した時は、下級魔獣の姿を見掛けなかった。
だから下級魔獣は増え過ぎた上位魔獣の食料になったり、先に森から逃げ出していたと記憶している。
マジックバッグから双眼鏡を取り出し魔獣の様子を観察すると、ただ狂ったようにがむしゃらに走っているのではなく、本当に狂っているとしか思えない形相と光のない瞳で走っていた。
……人間を襲うぞ!という指示を受けているのではなく、脳が操られていて逆らうことができないのか?
見るからに、途中で水を飲んだり、休憩さえしていないように思える。
視点さえ定まらない瞳で、涎を流しながら苦しみに顔を歪めて走って・・・いや、走らされている。
あまりの気味悪さに、心臓の鼓動が一瞬不規則になった。
『アコル、今回は横一列になってないわよ』
エクレアが俺の肩の上から前方を見て、心配そうに言う。
「そうだねエクレア。でもまあ大丈夫だろう。今回はエクレアの魔力を借りるから。
ランドル、魔獣は全て操られている。グレードラゴンをも操っているブラックドラゴンには、くれぐれも気を付けて」
ランドルに指示を出し、エクレアに最初から全開で行くぞとお願いする。
俺はマジックバッグからミスリルの剣を取り出そうとして、どんどん迫ってくる先頭のホーンブルの群を見て、攻撃の手順を変えることにした。
縦に伸びている魔獣の群を横に広げるため、魔獣の群のど真ん中に向かって、ランドルが放つような巨大なファイアボールを撃ち込んだ。
すると、思惑通りに魔獣の群は、炎が着弾した中央を避けるように左右に広がっていく。
マジックバッグから剣を取り出し、呼吸と精神を整えるため、大きく息を吸って深く吐き出す。
「誓約の魔力を捧げし我に力を! 薙ぎ払え、山斬りの一陣」
金色の魔法陣を発動させ、剣を金色の魔法剣に変えていく。
エクレアは俺の右肩で、剣に向かって魔力を注ぎ威力を上げてくれる。
「山を切り裂く一陣の剣、一刀両断、横斬り!」と叫んで、俺は剣を左から右へと一気に振り抜いた。
俺に斬られた魔獣たちは、何が何だか分からないまま、体が二つに分かれていく。
おかしな感情かも知れないが、これでもう苦しまなくて済むぞと憐れんでしまった。
このまま走り続けさせられたら、きっと限界が来て倒れるか死んでしまうだろう。
エクレアの魔力が追加されたので、いつもの横斬りより威力が強く、150頭の群はほぼ討伐できた感じだ。
直ぐに双眼鏡を取り出し確認すると、横斬りの斬撃が後方まで届いたようで、後ろの群の先頭を走っていた上級魔獣ビッグベアーの首が宙を舞っている。
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