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高学院二年目

217ー2 ブラックドラゴンー2

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 翌朝、宿で朝食をとっていると、金色のドラゴンが来たと聞いたらしいワートン領アホール山支部のギルマスが、困った顔をしてやって来た。

「覇王様、大変です。昨日、新種のドラゴンが出ました!」

他の客には聞こえないよう声を落として、ギルマスは報告する。

 アホール山支部のギルマスは、前のギルマスがケガをして最近交代したばかりで、年齢は30歳と若いギルマスだった。
 ギルマスのランクはASで、この支部では最強の冒険者だと言われている。
 しかも、王立高学院の魔法部を卒業していた。

「新種……ですか?」と、ボンテンクがパンをちぎりながら眉を寄せる。

「はい従者様。胴体は真っ黒で、背びれは禍々しく銀色に輝いており、目が、目が4つあります」

目が4つある変異種目撃の情報があがったら、必ず冒険者ギルド本部と【覇王軍】に連絡しなければならい決まりがあるので、今日、連絡する予定だったとギルマスは言う。

「何か被害が出ましたか?」

「いいえ覇王様、人間に被害は出ていません。
 昨日アホール山に登ったAランクパーティーの話では、その黒いドラゴンが突然空から現れ、耳が痛くなるような音を出したそうです。

 すると討伐しようとしていた中級魔獣たちが、狂ったように吠えたり唸ったりし始め、黒いドラゴンの飛ぶ方向へ移動していったそうです。
 それはまるで、操られているかのようだったと・・・」

 ギルマスは、朝一で黒いドラゴンに遭遇した冒険者たちに招集をかけているので、これからギルドに来て欲しいと頭を下げた。
 俺たちは急いで朝食を食べ、冒険者ギルドに走って向かった。

 アホール山支部に到着すると、多くの冒険者たちが俺たちを出迎えようとギルドの前に整列して待っていた。
 この支部にはボンテンクも何度か来ているので、冒険者たちとは顔なじみだ。
 新種のドラゴン発見という情報に、皆は不安な表情をしている。


「大きさは、覇王様の光のドラゴンの半分くらいでした。
 黒光りする胴体に銀色の背びれ、そして4つある目は赤と黒でした。

 グレードラゴンは翼の数は2枚ですが、アイツには翼が4枚ありました。
 そして・・・まるで子分のように、グレードラゴンを上空に待機させていました」

Aランクパーティー【赤き山神】のリーダーは、自分の体験した一部始終を詳しく語り始めた。
 そして、グレードラゴンを完全に支配しているように見えたと付け加えた。

「ドラゴンの変異種か・・・これは厄介ですね」

ボンテンクは2本の指先で額をグリグリしながら溜息を吐く。

「ブラックドラゴンですか・・・なるほど。
 やはり変異種は、同種族や下位の魔獣を支配下におけるようだ。

 ところで、耳が痛くなるような音を出した時、ブラックドラゴンの瞳に変化はありませんでしたか?
 または、何処から音をだしているか分かりませんでしたか?」

 非常に重要なことなので、ゆっくりでいいから、できるだけ思い出して欲しいと【赤き山神】のメンバー4人に俺は頼んだ。
 4つ目の変異種の謎が少しでも解明されれば、戦いは楽になる。

「確か、音が聞こえ始めた時に、赤い目が光っていた気がします」

一番若い25歳くらいの男が答えると、もう一人のベテランぽい男も俺も見たと証言してくれた。
 音の出所ははっきりしないけど、口以外には考えられないと意見が一致した。

 ボンテンクは、【赤い山神】のメンバーからブラックドラゴンの外見を聞き取り、新種のドラゴンとしてスケッチしていく。
 描き上がったスケッチを見ると、グレードラゴンの上位種とか変異種というより、ブラックドラゴンという個体の変異種だと考えた方がよさそうだった。

 ……そうなると、普通のブラックドラゴンが生息している可能性がある。


 これからグレードラゴンの巣と数を確認する予定だったが、急遽調査内容を追加しなければならない。
 ブラックドラゴンの生息確認と、その巣の発見が加わった。

 ……グレードラゴンを従えるブラックドラゴン・・・油断なんてできないな。

 俺はランドルや妖精たちとも、ブラックドラゴンに関する情報を共有する。
 賢者妖精のロルフには、王宮に戻ってブラックドラゴンに関連する書物がないか確認してもらう。

 ギルマスや冒険者たちには、これからアホール山で魔獣の大氾濫が始まる可能性があるので、十分に注意するよう指示を出す。
 もしも魔獣の氾濫の兆候が見えたら、直ぐに領主や冒険者ギルド本部、覇王軍にも連絡を入れ、住民の避難を最優先に行うよう命じた。

 ランドルに乗って10分、アホール山の西側中腹辺りにグレードラゴンの巣を発見した。
 前回確認したグレードラゴンの数は6頭だったのに、巣には4頭の姿しか見当たらない。

 もう少し標高を上げて飛んでみると、グレードラゴンの巣よりも800メートルも高い場所に、ブラックドラゴンらしき群を発見した。
 目視できるだけでも、その数は10頭を越えていて、地上に7頭、上空には3頭が飛んでいる。

「確かに大きさはランドルの半分ですね。でも、眼下に見えるブラックドラゴンの翼は2枚です。背びれも黒いので変異種だけが銀色で、翼も4枚なのかもしれません」

黒くて小さなブラックドラゴンの、すばしっこい狩りの動きを上空から見ながらボンテンクが推論を言う。

『まるで鳥が水中にいる魚を取っているようだわ』と、俺のマントのポケットから顔を出していたエクレアが、ブラックドラゴンの狩りを見ながら感想を言う。

『グレードラゴンよりも高い場所に巣があるところを見ると、ブラックドラゴンはグレードラゴンよりも強いということです』と、ランドルの守護妖精ユテが教えてくれた。
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