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高学院二年目

216ー2 ティー山脈の魔獣ー2

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 翌朝は生憎の雨だったが、これでティー山脈のホバーロフ王国側の斜面を調査しても、誰も上空を見上げたりしないので、光のドラゴンの存在を気付かれることはないだろう。

 ミル山の噴火は小康状態のようで、中間地点から噴きあがっていた溶岩の流れは、完全に止まっていて胸を撫で下ろした。
 東側の火口からは、白煙が上がっているけど、噴火する気配はない。

「うわー、ホバーロフ王国との国境の大河まで、あとわずかというところで溶岩が止まっています。
 これで川まで堰き止められたりしたら、ニルギリ公国は散々でしたね」

ニルギリ公国のレギル火山に飛来したドラゴンを討伐したボンテンクも、あの溶岩の流れが気になっていたようで、安堵の息を吐いている。
 それでもニルギリ公国の被害は甚大だ。小麦の収穫は65パーセントに減るだろうと、先日バロン第二王子から手紙が届いた。

「ところで、マーガレット商会は無事にアエラボ商会の傘下になったのですかアコル様?」

「ああ、そのこともバロン王子から知らせがきたよ。
 ニルギリ公国は、コルランドル王国から不足する物資を購入する際、金貨の代わりに魔鉱石で支払いをしたいと国王に申し入れたそうだ。

 コルランドル王国内では、魔鉱石は高額で取引されているから、アルファス国王は了承したようだ。
 早速ドバイン運送のマジックバッグは大活躍だし、マーガレット商会が独占していた魔鉱石の取引は、両国がきちんと保証してくれるよボンテンク」

俺がにっこりと笑って説明すると、配当金が楽しみですとボンテンクも嬉しそうに言った。
 既にドバイン運送の売り上げは、当初の予想の倍以上になっている。

 それは、冒険者や魔獣討伐専門部隊の者が大ケガをしたり、亡くなった者が増えたことを示しており、複雑な気持ちにはなるが、売り上げが順調に伸びているので、ケガ人や遺族の生活再生の役には立っている。



 そんなこんなの商売の話をしながらホバーロフ王国側に入って15分、グレードラゴンが2500メートル付近の高さの場所を飛んでいるのが目視できた。
 ホバーロフ王国側の斜面には岩場が多く、2500メートル付近には背の高い木もなかった。

『前に目撃した場所と同じです。あの時は4,5頭空を飛んでいました』と、光のドラゴンの守護妖精ユテが、俺のマントのポケットから顔を出して報告する。
 ドラゴンの守護妖精なのに、ユテは寒い所が苦手らしい。

 空中戦は俺たちの不利になるから、今日は討伐するのではなく、生息調査をするだけに留める。
 戦闘にならないよう、グレードラゴンの住処より、500メートル以上高い場所を飛行する。

「見た感じ、成獣ではないようでした。どうやら、新しい群を形成しているようですね。
 あれらは、龍山から移動したのでしょうか? それとも元々ティー山脈に生息していたのでしょうか?」

「う~ん、俺も少し前まで、グレードラゴンは龍山にしか居ないと思っていたけど、もしも山や森の変化が魔獣に影響しているのなら、ティー山脈で生まれた可能性だってある気がするぞ」

 ボンテンクの問いに、俺も真剣に考える必要がある気がしてきた。
 これまでは討伐することで手一杯だったけど、魔獣の誕生サイクルや寿命、生育環境の違いで魔獣の強さや個体の特徴に違いがあるかなど、調査すべき課題がみえてきた。

 ……やることが多すぎて、時間も人も足りない。なんで魔獣の研究者がいないんだー!

 う~んと唸りながら目を凝らしていると、またもグレードラゴンの巣を発見した。
 気付かれる前にもっと高い所へと移動しようとして、俺はなんだか不安な気持ちになった。

 この群のグレードラゴンと思われる成獣が2頭、下の方から上がってきたのだ。

「ランドル、悪いけどもう少し高く上がってから東に移動して、人の住む町が見える場所まで下りてくれる?」

『いいよアコル。あの2頭からは、飢えた感じはしなかったね』

「まさかグレードラゴンは、町を襲ったのでしょうか?」

 俺の契約妖精ユテが、ボンテンクの契約妖精ライム君に魔力を分けたので、ライム君はランドルの声が聞こえるようになった。
 だからライム君が、俺とランドルの会話を、直ぐにボンテンクに伝えてくれるから、ボンテンクも会話に参加できるようになった。


 眼下に見えてきたのは、ホバーロフ王国の南西に位置する町で、1万人規模の人口だろうか。
 ティー山脈の麓なので、標高は800メートルくらいありそうだ。
 主な産業は、鉄鉱石の採掘と農業だった気がする。

 長閑な田舎のようでも、ホバーロフ王国の中では中規模の町だ。
 確か鉱山で働いているのは犯罪奴隷で、冒険者ギルドもガラの悪い奴が多いと、王都の冒険者ギルド本部から頂いた資料に書いてあった。

「あっ、町外れの建物付近で、ドラゴンが人を襲っています!」

ボンテンクがその現場を指さし、顔を歪めながら叫んだ。
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