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現実と理想

211ー2 魔術師試験と薬草採取ー2

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 ◇◇ 冒険者ギルド龍山支部 薬草担当シルビー ◇◇ 

 私は龍山支部で、薬草買い取り担当をしている薬師のシルビー。
 毎日採取依頼を出しにやって来る薬師や医者の、顔を見るのが苦痛です。

 今年は年始からスノーウルフの変異種が山を下り、つい先日は大規模な魔獣の氾濫が起こりました。
 多くの冒険者がケガをして、薬草採取してくれる冒険者の数も激減しています。

 そもそも薬草採取を専門にしている冒険者はCランクの者が殆どで、危険の少ない500メートル以内の高さで活動していました。
 彼等は薬師と一緒に山に登ることが多く、薬師はEランクくらいの力しかないので、高い場所まで行けないのは仕方ありません。

 それに今は入山規制が出ていて、Cランクは300メートルまで、CBランクは500メートルまで、Bランク以上でも700メートルまでしか登れません。

 希少で絶対に必要な薬草が生息しているのは、700メール以上の高さの場所です。
 そんな高い場所で希少な薬草が採取できるのは、覇王様くらいです。

 何と言っても覇王様は薬草採取の天才で、龍山支部の最高額納入記録をお持ちです。
 いえ、魔獣討伐も天才ですが、薬草採取には薬草の知識が必要なため、覇王様の代わりになる博学な高位冒険者なんてマギ領には居ません。

 覇王様は10歳の頃から龍山支部で活躍されており、私はその頃からの担当です。
 昔から薬草で大金を稼ぐ天才でしたが、高学院に入学されてからは、龍山支部に立ち寄られるのは緊急時かドラゴンが出た時くらいです。


「シルビーさん、熱冷ましの薬草はまだですか?」
「はい、申し訳ありません」
「患者が死にそうなんですが」
「本当にすみません」

 この会話が、毎日何度も繰り返されます。
 マギ領だけではなく、多くの薬種問屋や薬師、医師までもが悲壮感を漂わせて受付に来ます。

 どこもケガ人は倍増し、冒険者用のポーションなんてとっくに底をつきました。
 隣の宿には、ケガが悪化して動けない高ランク冒険者が数人います。
 病院にも薬が無いので、治療することもできないと医師が泣き付いてきます。

 ……私だって泣きたい。
 ……こうなったら、私が山に行くしかありません。

 見た目20代のか弱き女性ですが、これでも私は素材採取冒険者CBランクです。
 Bランク以上の冒険者に護衛してもらえば、覇王様から頂いた地図を頼りに、熱冷ましの薬草くらいは採取できるはずです。

「ギルマス、もう限界です。私に行かせてください!」
「ダメだ! 昨日も400メートルの場所に上位種が出た。危険だ」

この会話も何度目か分かりませんが、今回は引き下がるつもりはありません。
 同じ薬草担当の男性が危機感を募らせ、先日山に行ってケガをしました。だからギルマスは許可を出さないのです。


 午後、私は仮病を使ってギルドを休み、こっそりと山に向かいました。 
 同行してくれたのはCBランク冒険者の2人で、500メートル以内ならという約束で協力してくれました。もちろんギルマスには内緒です。

 久し振りの龍山は、本当に魔獣の数が多くて驚きました。
 300メール地点で湿布の原料になる薬草を採取し、400メールの地点で切り傷に効く薬草を採取しました。

 ……やっぱり熱冷ましと痛み止めの薬草はここじゃ無理ね。

 あと100メートル登れば、痛み止めの薬草があったはず。
 昨年の記憶をたどりながら、一生懸命に薬草を探します。
 
「チッ、まさかのアースドラゴンだ」と、幼馴染みの冒険者の声が・・・

「シルビー、悪いが一人で逃げてくれ。お前が居たら足手まといだ」って、もう一人の冒険者が急かすように指示を出します。

 アースドラゴン? いやいや、CBランクの貴方たちでも無理よ。

「だめ、一緒に逃げて」と、震える声で私はお願いします。

「頼む、早く逃げろ! 男に恥をかかせるな」って、幼馴染みのダイラーが。

 よく見ると、体長4メートル級のアースドラゴンが、私たちの方に向かって移動を開始しました。
 その後方には、他の上位魔獣たちの姿も見えます。

「行け!」とダイラーは叫ぶけど、足が竦んで動けません。

 なんとか足を動かそうとして膝を叩くけど、足元に痛み止めの薬草があるのを発見して、動きが止まってしまいました。

 ……ああ、この薬草があればポーションを作れるのに、残念だわ・・・

 絶望と後悔と申し訳なさでしゃがみ込み、泣きながら薬草に手を伸ばすと、私の体は突然の強風で大きく揺れました。

「うわー!」と驚いた声が前方の2人からも上がります。
 そして大きな影が頭上を横斬り、バッサバッサと巨大な翼を動かすような音が・・・

 見上げるとそこには金色のドラゴンが居て、今まさに足に取り付けられた籠から飛び降りようとする覇王様の御姿が見えました。

 ……こ、これは幻かしら?

「お待たせシルビーさん」と、覇王様はごく普通に右手を上げ、私に声を掛けられました。
 ええぇーっ! 目の前にアースドラゴンがいるのに。

 そこからは、夢を見ているように時間が過ぎていきます。

 アースドラゴンが倒れるまでの時間は1分・・・
 他の上位魔獣たちは、金色のドラゴンに恐怖し、慌てて上に向かって逃げ出していきます。

「光のドラゴンが居るから、暫く魔獣は近付かない。さあ、心置きなく薬草採取しよう。
 ああ、800メートルより上に生息している薬草は、既に採取済みだよ」

にっこりと笑って、覇王様はマジックバッグを私に貸してくださいました。
 同行している2人の冒険者は、覇王様と一緒に行動できるなんてと大喜びです。

 ……ああ、これでたくさんのケガ人が助かります。
 ……私なんかの頼みを聞いてくださり、本当にありがとございます覇王様。
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