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現実と理想

210ー2 未来へと開ける道ー2

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「オオーッ」と皆から歓声が上がる。

 ゴクリと唾を飲み込み、出来上がったらしいポーションを、セイランド教授が代表で魔術具の椀から実験用のビーカーにゆっくりと注いでいく。 

「出来上がるはずのポーションは、熱冷ましの【アデロイナ】ですが、いつもと色が違いますね」と、リコッティー教授は首を傾げる。

 取りあえずポーションの確認は後回しにして、さっと洗った椀の部分に、磨り潰していない方の素材を入れて、再び魔術具を起動してみた。

「えぇーっ! 磨り潰していない方が色も濃く、【アデロイナ】と同じ匂いがします」

出来上がったポーションをビーカーに注ぎながら、リコッティー教授が驚いたように叫んだ。

 薬師の常識では有り得ないことだった。
 当然磨り潰した方が成分は濃く流れ出て、匂いも効能も強いだろうと予想していたのだ。



 翌日から、古代魔術具で作った3種類のポーションの有効性を確かめるため、患者に投与したり、傷口に振り掛けたりする実験が開始された。
 実験に協力してくれたのは、【魔獣討伐専門部隊】の皆さんだ。

 作ったポーションの量は、各ポーションとも大人3人分相当量で、匂いも味もこれまでのポーションと変わらないか、寧ろ濃いと感じられた。

 実験の結果、ケガ治療のポーションは、見た目だけでも有効性が十分に確認できた。
 飲み薬としてのポーションも、無事に熱を下げたり、痛みを抑えることができたが、これからも継続して様子をみる方がいいだろうと、セイランド部長教授が決定した。

「それでも凄いことです。この魔術具と薬草さえ揃えば、一日でたくさんのポーションが作れます」

嬉しそうに感動しているラベンダー准教授は、まだ夢を見ているようだと大喜びだ。

「問題は魔石ですね。ラリエスの魔石でどれだけ魔力が持つのかを知るためにも、どんどんポーションを作ってください」

俺は魔術具で作ったポーションを保存するため、新しいマジックバッグをセイランド部長教授に渡しながら指示を出す。
 今回の素材は、先日龍山で討伐したグレードラゴンの翼である。

 成獣だと固くてマジックバッグには向かないが、今年誕生したグレードラゴンの翼は、丈夫で軽く収納量もアイススネークの変異種の倍はあった。


 次の日になっても、魔術具に描かれていた絵に該当する薬草は分からなかった。
 でも、他のポーションだって作れることが証明され、医療チームの興奮状態は続いている。
 
「今日は、別の魔石を用意しています。
 これはグレードラゴンの魔石なので、魔力量は150を越えているでしょう。

 この魔石なら、【慈悲の雫】の中級ポーションも、もしかしたらハイポーションも作れるかもしれません。薬草は俺が用意しました。」

俺はグレードラゴンの丸い魔石と薬草をテーブルの上に置いて、これから実験をすると告げる。

「ええぇーっ、ドラゴンの魔石!」と、皆は驚いて黒光りする魔石から距離をとる。
 そしてやや遅れて、「ハイポーション?」て確認するように俺を見た。

 もしも全適性持ちの俺が居なくてもハイポーションが作れるとしたら、俺は安心して素材採取に専念できる。
 このメンバーにポーションを作りを任せられたら、俺のできることが増えるだろう。

 高価な薬草の殆どは、魔獣の住む高い山に生息している。
 今の危険な状態の山には、高ランク冒険者しか入れないから、貴重な薬草が不足しているというか全く入手できない。

 特に龍山でしか手に入らない高価な薬草は、薬師と同等な知識がないと採取することは不可能だ。
 国中の医師や薬師たちは、薬草不足で十分な治療が行えないと、王様に窮状を訴えていると聞いた。

 先日、冒険者ギルド龍山支部の薬草買い取りカウンターのお姉さんからも、涙に滲んだ手紙が覇王宛に届いていた。

【 覇王様が御忙しいのは重々承知しておりますが、どうか助けてください。
 薬草採取をしている冒険者はCランクの者が多く、現在350メートルより上には登れません。

 特にケガを治す薬草が足らず、マギ領の冒険者はケガの回復が遅れています。
 今の状態でまた魔獣の氾濫が起これば、もう絶望的です 】

 冒険者ギルド経由で届いたのではなく、個人的に送った手紙だったので、恐らくギルマスやサブギルマスは、覇王は忙しいから頼るなと命令したのだろう。
 それでも、薬草を必要とする薬師や医師が依頼を出し続け、何とかして欲しいとお姉さんに訴えている姿が想像できる。


 さあ、実験を開始しよう。
 どうかハイポーションが作れますようにと全員で祈りながら、俺は材料の薬草を魔術具に入れていく。

 スイッチを入れて3分、これまでとは違う黄緑色というか黄色に近い感じの眩しい光が、魔術具の椀の部分から溢れでて、テーブルの上でキラキラと光の粒が舞っている。

 明らかに前回とは違う現象を見て、ハイポーション完成の期待は高まっていく。
 そして出来上がったポーションを、震える手でビーカーに注ぐのはラベンダー准教授だ。

「ああぁ・・・」と声を発したラベンダー准教授は、再び奇跡を目にしたと言って涙を零した。
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