上 下
388 / 709
現実と理想

208ー1 就職試験の開始ー1

しおりを挟む
 サナへ領とマギ領への救援と救済活動でケガをしたメンバーも、なんとか回復した。
 トゥーリス先輩に使った聖魔法は、骨折まで治せると分かり喜んだが、今のところ骨折が治せるのは俺とトーブル先輩だけだ。

 8月に入り、地方の高学院に攻撃魔法の指導に行っていたメンバーも戻ってきて、珍しく全学生が揃っていた。
 隣国から【覇王講座】を受講しに来ていた者は、無事に講義を終え自国に戻ったので、学院内は暫しの平穏を取り戻している。


 もう地方には救援にも救済にも行かないと王宮で断言したので、領主たちから【覇王講座】への受講申し込みが殺到していた。
 だが、これから学生は学年末試験や卒業試験、そして就職試験に突入するので、【覇王講座】は8月15日の卒業式が終わってから開講する。

 これからも【覇王軍】や【王立高学院特別部隊】に頼っていればいいと、自領のことを真面目に考えてこなかった領主は顔色が悪い。

 ワイコリーム公爵率いる【魔獣討伐専門部隊】に、慌てて攻撃魔法を教えて欲しいと裏から手を回した領主も居たが、ワイコリーム公爵はきっぱりと断った。

【魔獣討伐専門部隊】は半数がケガを負い、亡くなった隊員の数は20人を超えている。そんな余裕なんて無い。
 しかも【魔獣討伐専門部隊】の給料値上げに反対していたたちが、図々しく無料で教えて欲しいと頼んだらしい・・・びっくりだよ。 

「【魔獣討伐専門部隊】は、覇王様の指揮下にある。給料の値上げや補償金の増額が認めらないのなら、地方に行かなくてもいいと指示を受けている」

 超不機嫌な顔で付け加え、死にたくなければ【覇王講座】を自分で受講しろと、図々しい領主に言い放ったそうだ。

 初回の【覇王講座】で領主自身はもちろん、真剣に自領の役人や貴族を参加させなかった領地は、仕方なく受講料を支払う羽目になった。
 また、参加したけどBランク冒険者の攻撃魔法を習得できず、魔力量の増加でなんとか講義を終えた者たちも、再度受講させられるらしい。

 マジックバッグ代金さえ払えば、初回は受講料がタダだったけど、今回はきっちりと受講料を取る。
 そのお金で休暇中の学生に講師を頼み、バイト代を支払う。
 当然のことだが、学院には施設使用料を、教授には講師料を支払う。



 本日、昼食時間に食堂の掲示板に貼り出されたのは、新しく【王立高学院特別部隊】と【覇王軍】に入隊が決まったの一覧だ。

【覇王軍第二部隊】と【王立高学院特別部隊一般部】の就職試験は、本日午後からの予定で、卒業する魔法部と特務部の学生を中心に、俺とラリエスと顧問のハシム殿が面接する。

 命懸けの仕事だから、給料は金貨5枚と高額だ。
【覇王軍第二部隊】については、金貨5枚の内3枚は、常駐を希望した領主に支払わせる。

 魔法省のA級魔法師でも給料は金貨4枚だし、【魔獣討伐専門部隊】の指揮官でも金貨4枚、一般軍の上官見習いだと金貨1枚と小金貨3枚くらいと少ない。

 だから学生たちは、【覇王軍第二部隊】か【王立高学院特別部隊一般部】への就職を熱望する。
 しかも、どちらに就職しても、金貨80枚相当の価値と言われているマジックバッグが貸し与えられる。


 そして迎えた面接では、瞳をギラギラさせた特務部の学生の気合が凄かった。
 彼らは下級貴族か平民だから、家への仕送りをする者が多い。

 冒険者登録をしているから、給料にプラスして魔獣の素材&討伐代金も貰える。
【覇王軍】【覇王軍第二部隊】【王立高学院特別部隊一般部】の任期は2年だが、2年働けば家が買えるって望みを抱いているようだ。

 しかも、覇王直属の部隊に在籍しているだけで、男女ともモテモテである。
 女性は格上の貴族家から縁談がきたり、平民の特務部の男子にまで、下級貴族家から縁談がきているという。

「給料はいいですが、命懸けの仕事です。それは分かっていますね?」と、俺は真面目な顔で質問する。

「はい、もちろんです覇王様。私は多くの人の命を守りたいと思います」と、特務部の学生は同じように誇らし気に胸を張る。


 不安に思ったのは魔法部の学生で、彼等の多くは中級貴族である。
 冒険者との連携や、平民に対して横柄な態度をとらないかという一点において、俺は念入りに質問する。

「冒険者の多くは平民で、言葉遣いも上品じゃないし、乱暴な態度をとる者もいます。
 それに町や村に住む一般の領民たちは、貴族との接点がほとんどありません。
 貴族であることを隠すくらいの覚悟がありますか?」

「えっ? 貴族に相応しい待遇が受けられるんじゃないんですか?」

子爵家の子息であり、ライバンの森から魔獣が氾濫した時に、レイム公爵が応援として連れてきた先輩は、嫌そうな顔をして質問し返した。

「残念ですが、住む家も平民より少しいい程度です。
 それに、冒険者ランクの高い特務部卒業生の指揮下に入る可能性もあります」

顧問のハシム殿は、無表情のまま現実を説明する。

 あらかじめ覇王軍メンバーと、面接を受ける学生について情報を交換していたが、皆がいい顔をしなかった学生は、やはり【覇王軍】メンバーには相応しくないようだ。
 
 いつもはポーカーフェイスのラリエスが、妙ににこにこしているから、かなりご機嫌斜めなんだと分かる。
 にこにこ笑いながら瞳の奥で睨むという凄技は、俺には真似できない。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】天候を操れる程度の能力を持った俺は、国を富ませる事が最優先!~何もかもゼロスタートでも挫けずめげず富ませます!!~

udonlevel2
ファンタジー
幼い頃から心臓の悪かった中村キョウスケは、親から「無駄金使い」とののしられながら病院生活を送っていた。 それでも勉強は好きで本を読んだりニュースを見たりするのも好きな勤勉家でもあった。 唯一の弟とはそれなりに仲が良く、色々な遊びを教えてくれた。 だが、二十歳までしか生きられないだろうと言われていたキョウスケだったが、医療の進歩で三十歳まで生きることができ、家での自宅治療に切り替わったその日――階段から降りようとして両親に突き飛ばされ命を落とす。 ――死んだ日は、土砂降りの様な雨だった。 しかし、次に目が覚めた時は褐色の肌に銀の髪をした5歳くらいの少年で。 自分が転生したことを悟り、砂漠の国シュノベザール王国の第一王子だと言う事を知る。 飢えに苦しむ国民、天候に恵まれないシュノベザール王国は常に飢えていた。だが幸いな事に第一王子として生まれたシュライは【天候を操る程度の能力】を持っていた。 その力は凄まじく、シュライは自国を豊かにするために、時に鬼となる事も持さない覚悟で成人と認められる15歳になると、頼れる弟と宰相と共に内政を始める事となる――。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載中です。 無断朗読・無断使用・無断転載禁止。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...