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現実と理想

202ー2 攻撃開始と怒れる者たちー2

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 王宮には避難用の地下室が大小合わせて20ある。
 ここで働く二千人近い者が素早く非難するため、各部署ごとに避難する場所が決められている。

 そうしておかないと、高位貴族が我先にと避難する可能性が高く、弱者である女性や身分の低い役人は避難場所が無い・・・ということになりかねない。
 もちろん、全員分の地下室がある訳ではなく、戦える男性は2階建てや平屋の建物に避難する。

「このままドラゴンの様子を見ていていいのか?」

「それが最善だと、覇王様から指示が出ています宰相。もしもドラゴンが人や町を襲い始めたら戦闘を開始しますが、王都内での戦闘は被害が甚大になります。
 無暗に攻撃を仕掛けるのは得策ではありません」

ドラゴンの様子が気になって仕方ない様子の宰相に、何度も報告しているドラゴン王都襲来時の対策内容を私は念押しする。

「仮にこれから皆さんが教会まで向かったとして、その途中で王宮にドラゴンが移動したら、王宮を守る者が居なくなります。
 基本的に覇王軍も魔獣討伐専門部隊も上級地区では活動しませんから、ここは我々が守らねばなりません」

騎士団長は冷静に意見する。彼は私同様、覇王様に絶大な信用を置いている。

「ドラゴン相手に功を焦る者はいまい」と、王様はどこか楽観的だ。

「それはそうですが、もしもドラゴンが王宮に少しでも足を踏み入れたら、私は容赦なく攻撃しますよ」と、レイム公爵は戦う気満々でニヤリと笑う。

 ……誰もドラゴンと戦ったことなどないのに、その自信は何処から来るのだろう?


 どうかこのまま何もせず、ドラゴンが王都から離れてくれますようにと心の中で祈っていると、この世のものとも思えないような叫び声?というか鳴き声が、グギギャーッ! と聞こえてきた。

 その大音響は、恐らくグレードラゴンが発したものに違いないと誰もが確信し、座っていることも出来ず、数人が席を立ち城壁の見張り塔へと駆け出した。

 対ドラゴンの指揮を執る私は、当然何が起こったのかを自分の目で確認するため、真っ先に走り始めた。

「誰かが火魔法を放ったようです!」と見張りをしていた部下が報告する。

「攻撃を仕掛けただと!」と、信じられない報告に、私は念を入れて確認する。

「はい大臣、はっきりとは見えませんでしたが、ドラゴンは王宮の方を向いて着地していました。炎の攻撃は斜め後ろから数発放たれたようで、その内の一発が命中したようです!」

しっかりとした口調で、部下は間違いありませんと断言する。
 見張りをしていた他の部下や警備隊の者も、間違いないと口を揃えた。

「いったい誰が勝手なことを!」と、私は怒りが抑えられない。 

 当然のことながらドラゴンは教会の礼拝堂から飛び上がり、攻撃が来たと思われる礼拝堂の側面に向かって、翼を大きく広げ風で攻撃を始めた。

 教会までの距離は2キロ足らず。高い所から見れば、目と鼻の先のように感じる。
 ドラゴンが起こす強風で、礼拝堂の美しい飾り壁は落下し、屋根の瓦も剥がれて飛んでいく。

「なんということだ! 古代建築の秘宝である礼拝堂が・・・」と、建築物に詳しいログドル王子ががくりと膝をつく。

 ドラゴンに目を凝らすと、確かに1頭のドラゴンの翼から煙が僅かに上がっているが、直ぐに消えてしまった。
 もしかした穴が開いたのかもしれないが、飛行に障害はなさそうだ。
 威嚇するように翼を動かし、長い尻尾で礼拝堂を破壊していく。

「王立高学院の教授や学生だろうか?」

「いえ、それは有り得ません宰相。ハシムが向かっているはずですから、勝手な行動を許すはずがない!」

私は怒りの感情を懸命に抑えながら、宰相にそれはないと断言した。


 人々の心の在りどころである礼拝堂が、あっと言う間に倒壊していく。
 隣にあるレンガ造りの古い本教会の建物も、ドラゴンの起こした突風で屋根や壁が吹き飛ばされていく。

 そのレンガや屋根の一部が、教会近くの建物に次々とぶち当たり、道路などにも散乱し被害が広がっていく。
 ドラゴンという生き物の脅威を目の当たりにし、改めて恐怖を覚える。 

 壊れた教会の建物に満足したのか、2頭のドラゴンは少し上昇し、何度かその場で旋回した後、北に向かって移動を開始した。
 直ぐ北にあるのは、この国で一番高い建物であり、この国の象徴でもある王城だ。

 移動し始めたドラゴンを見て、各所の警鐘が再びカンカンカンと危険を知らせて鳴り始める。

 王城を襲うとは限らないが、皆は急いで見張り塔から退避し、作戦本部になっている研究室の直ぐ横にある、避難用の地下室に逃げ込んでいく。

 騎士団長は王様を守るように先導し、戦う気のない大臣たちも続く。
 だが私と腹心の部下は、ドラゴン討伐の指揮を執る必要があるので、見張り塔の階段に身をかがめて監視を続ける。

「あっ! 今度は上級地区の城壁に降りるようです」と、見張り塔に残ってドラゴンの動きを監視していたログドル王子が声を上げる。

 私も隠れている場合ではないと思い直し、見張り塔に戻って状況確認する。
 すると、城壁には上手く着地できなかったようで、八つ当たりをするように城壁の一部を尻尾で破壊し始める。

「くそ! いったい誰が攻撃した!」と、マギ公爵が忌々しそうに呟いた時、2頭のドラゴンは再び上昇し、真っ直ぐこちらへ向かって移動を開始した。
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