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覇王の改革

195ー1 商会主アコル(9)ー1

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 魔獣を林や小さな森から追い出し、待ち伏せるという戦い方は既に経験済みだ。

 マサルーノ先輩は、得意とする広範囲に作用する土魔法特化の魔法陣を使い、魔法陣内に入った魔獣を全て、地面から飛び出す石のように固い土の槍で貫く。

 ……相変わらず見事だ。また魔力量が増えているようだ。

 この凄い魔法陣の構築で、マサルーノ先輩は魔法陣コンテストで最優秀賞をとっている。

 マサルーノ先輩の魔法陣で魔獣の討伐は完了し、倒された魔獣はしっかり回収させてもらった。
 なんとビッグベアーが5頭と、その変異種まで混ざっていた。

 念のために林の中を確認したら、こんな所に居るはずのない7メートル級の巨大アナコンダの変異種に遭遇し、強度を上げたエアーカッターで仕留めておいた。

 ミル山の魔獣にも、厳重注意が必要だと認識を改める必要がある。

 ……魔獣の生態系が、完全に狂っているとしか思えない。

 アナコンダの変異種の皮でマジックバッグを作れば、ニルギリ公国との交易用マジックバッグとして、アエラボ商会で使えそうだ。

 それに骨や牙や歯は、魔力増幅具として使えるかもしれない。
 もう変異種の骨の在庫がないと、冒険者ギルド本部から報告が来ていた気がするので、ラッキーだったと考えよう。
 

 ちょうど素材を回収し終えた時、ランドルの守護妖精ユテが現れ、レギル火山に居たグレードラゴンの討伐が完了したと教えてくれた。

『アコル様、ミル山の噴火に驚いたのか、ホバーロフ王国側のティー山脈の7合目あたりで、グレードラゴンが数頭飛んでいるのが見えました。
 こっちに気付いてなかったみたいだけど、ティー山脈にもグレードラゴンの生息域があるのは間違いないです』

ドラゴン討伐の知らせに加え、ユテは龍山以外にグレードラゴンの巣があることを確認したと、気になる報告を付け加えた。

 ホバーロフ王国は、コルランドル王国ともニルギリ公国とも仲が悪い。
 だから、余程のことがなければ救援要請はこないだろう。

 ティー山脈は龍山並みに高く、山脈だけあって食料となる魔獣も多いから、人を襲うことは……ないと思いたい。

「ユテ、ボンテンクにミルダの町の冒険者ギルトで落ち合うと伝えて」

『了解です。エリスとボンテンクと一緒にミルダの町で待ってまーす』と明るく笑って、ユテはスッと姿を消した。



 夕焼けに染まるミル山の様子をもう一度空から確認し、俺とマサルーノ先輩はミルダの町に戻った。

 先に帰っていたボンテンク、ヤーロン先輩と合流し、ギルマスにニルギリ公国の被害状況を伝え、今後の火山活動に注意するよう指示を出しておく。

 そして、ミル山の東側で魔獣の被害に遭った村の被災者のために、支援品として食用の魔獣を20頭ばかりマジックバッグから取り出した。
 解体した肉とともに、毛皮などの買い取り代金を覇王軍からの支援金として、村の代表者に渡すようお願いもしておく。

 ミルダの町の冒険者や、大勢の町の人に見送られながら、俺とヤーロン先輩はランドルに、ボンテンクとマサルーノ先輩はエリスに乗って、領都マリードに向かって飛び立った



 領都マリードに到着した頃には、すっかり日も暮れ夜空には星が瞬いていた。
 ドラゴンで大騒ぎにならないよう町の少し手前で降りて、2頭のドラゴンをしっかりと労った。

 俺たち4人はランドルとエリスを見送ると、疲れた体に鞭打ち、徒歩で領都マリードの入場門へと向かうことにした。
 歩き始めて直ぐ、俺は3人から二度と魔力が枯渇するような大魔法は使わないで欲しいと懇願されてしまった。

「ところで、ドラゴンは回収できたのかボンテンク?」

俺はボンテンクに、レギル火山で討伐したドラゴンの回収ができたかどうかを笑顔で質問する。

「勿論ですアコル様。エリスが頑張って片翼だけを狙ってくれたので、落下したグレードラゴンを討伐するのは簡単でした。
 改良型巨大エアーカッターの魔法陣の威力を確認できました」

「それは素晴らしいです。ドラゴンの素材は、領都マリードの冒険者ギルドで売りましょう。
 火山灰の被害を考えると、売却価格の一部は、救済に回すことになりそうです」

俺の考えていることなどお見通しですという顔をしたボンテンクは、「それがいいでしょう」と了承してくれる。

「マサルーノ先輩もボンテンクも、覇王軍の指揮官として相応しい活躍でした。今回は覇王軍の取り分は少ないですが、お二人には特別ボーナスを出します」

「ありがとうございます」と、二人は極上の笑顔で応えた。

「もちろんヤーロン先輩にも特別手当を出しますよ。素材の一部もお取りください」

 ヤーロン先輩は、もう少し強度が高くて軽い盾が欲しいと言っていたので、今回討伐した魔獣の素材を提供しよう。

 いや本当に頑張ってくれてる。
 俺が学院に入学した頃と比べたら、考えられない急成長だ。
 俺が覇王として頑張ることができるのは、信じられる頼もしい仲間がいるからだ。
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