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覇王の改革

188ー2 商会主アコル(2)ー2

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 そうだった。比較的安全なマリード領の冒険者は、覇王講座の受講順番が一番最後になっていた。だから重苦しい雰囲気だったんだ。
 俺はボンテンク先輩たちに視線を向け、笑顔で頷いた。

「私も覇王軍メンバーだ」と言いながら、ボンテンクとマサルーノ先輩が、赤色のAランクカードを取り出し皆に見えるよう掲げながら前に出る。

「私は覇王軍メンバーではないが、Aランクだ」と言って、タルトさんも赤色のカードを掲げた。

 ワーッと歓声が上がり、ギルド内の冒険者はヤーロン先輩たちを囲んで、一気に明るい表情になっていく。
 商人仕様の服装で成人さえしていない感じの俺は、ポツンと取り残されている。

「Aランクが3人にBAランクが1人。しかも覇王軍メンバーが3人もいる。野郎ども、これでなんとか凌ぐぞー!」

「オオーッ!」

サブギルマスの掛け声に、冒険者たちが拳を振り上げる。

 奥からギルマスも出てきて、俺たちは執務室に案内されることになった。
 まるでおまけのように一番後ろをついて行く俺は、再びパラパラと降りだした噴石の音を聞き、腕を組んでどうしたものかと考えながら歩く。

 通された執務室の上座の席に、当たり前のように座った俺を見て、ギルマスとサブギルマスが首を捻る。

「そういえば、皆さんは何故ミル山にいらしたのでしょうか?」と、思い出したようにサブギルマスが一番年長者のタルトさんに質問した。

「はい、主が領都マリードに用があり向かっていたのですが、突然ミル山が噴火したので魔獣が気になって様子を見に来たのです」とタルトさんは笑顔で答えた。

「主?」と首を傾げながら、ギルマスはそれらしき存在の俺に視線を向ける。

「挨拶が遅れました。覇王軍を率いているアコルです」と言いながら、俺はブラックカードをマジックバッグから取り出しテーブルの上に置いた。

「ん?」と言いながらブラックカードを見た二人は、何かを考えて首を捻り、「えぇーっ!」と叫びながら立ちあがると、慌ててドアの前まで下がり跪いた。

「し、失礼しました覇王さま」と、恐縮して深く頭を下げる二人。

「いえ、俺は堅苦しいことは望んでませんから、普通でいいですよ。では早速、ミル山の状況を報告してください。俺が指揮を執ります」

「覇王様に指揮を執って頂けるとは、ありがたき幸せ。よろしくお願いします」

ギルマスは本当に嬉しそうにそう言うと、直ぐに執務机の上に置いてあったミル山周辺の地図を、応接セットのテーブルの上で広げた。

 噴火が継続する可能性も考慮し、詳しい状況を知るため、昨日からミル山に入っていた冒険者たちが帰ってくるのを待つことに決めた。


 まだ町の近くで魔獣が目撃されたとの情報はないらしいから、戻ってくる冒険者を待つ間の時間を使って、俺は冒険者や町の住民と一緒に、頭部を噴石から守るための頭巾を作ることにした。

「確か、王立図書館で読んだ火山噴火の資料に、頭部を守る重要性が書いてあったと思う。
 町の住民も参加させ、できるだけ多くの人員で頭巾を作ってくれ。

 完成図はこんな感じで、古着やぼろ布などを間に挟んで衝撃を和らげる。
 冒険者は間に毛皮を挟むのもいいだろう。より丈夫にしたいなら頭頂部を革にするのもありだ」

俺は冒険者や町の顔役、実際に針仕事ができる女性たちの前で、黒板に図を描きながら説明していく。

「覇王様が助けに来てくださったー!」と冒険者たちが叫んで回ったので、俺のことを一目見ようと集まった者も含め、大人数が冒険者ギルド前に集まっていた。

 冒険者ギルドから連絡を受けた布を扱う店の主人が、在庫をかき集めて荷車で持って来てくれた。

 俺はにっこりと微笑み、少し多めの金額を払って全部買い取り、俺たちと冒険者分の30を、女性たちに頼んで急いで作ってもらうことにした。

 覇王軍と一緒に戦いに出る冒険者たちは、自分の持っている毛皮や古着を素材として出し、家族や町の人総出で懸命に作り始める。

 俺もマジックバッグの中から、緩衝材になりそうな毛皮や皮を取り出し、冒険者ギルドも倉庫の中で眠っていた毛皮などを無料で放出してくれた。


 頭巾を作り始めて1時間が経過した頃、ミル山に入っていた冒険者ではなく、予想外の者たちが助けを求めて冒険者ギルドに駆け込んで来た。

 2頭立ての立派な馬車から降りてきたのは、直ぐ隣のニルギリ公国アレクシス領の領主長男と、驚いたことにニルギリ公国第二王子だと名乗る者たちだった。

 当然、俺たちが居ることは伏せられており、対応したのはギルマスと俺の護衛のタルトさんだった。
 もちろん、俺の可愛いエクレアが部屋の様子を念話で教えてくれる。

 ボンテンクとマサルーノ先輩は、サブギルマスからアレクシス領についての情報を聴きだしてくれる。
 ヤーロン先輩は商業ギルドミルダ支部へ行き、30人が三日食べれる分の食料を調達してくれている。

 商業ギルドは、覇王軍から要請があれば、最優先で物資調達に取り組むことが義務付けられているから、きっと直ぐに動いてくれるだろう。
 まあ、覇王が来たってことは、町中の人に知れ渡っているから、皆が協力してくれるだろう。たぶん。  

『アコル、ミル山の魔獣がアレクシスの町を襲っているようだわ。直接話を聞いた方が良さそうよ』と、エクレアが念話で知らせてくれた。

 俺は直ぐに了解し、ボンテンクを連れてギルマスの執務室へと向かった。
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