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覇王と国王
173ー2 王宮の闇(2)ー2
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ふとギルマスとダルトンさんを見ると、だばーっと涙を流していた。
「覇王がお前で……アコルで良かった」と、ダルトンさんが泣きながら礼を言う。
「本当にお前は……ありがとう。冒険者を辞めたいと言い出す者が多くて、ギルマスなのに……何もしてやれなくて、これで、これで引き留めることができる」
ギルマスまで俺の両手を握り締め、プルプル手を震わせながら礼言う。
「いや、覇王様にお前と言うのは・・・」と、幹部が恐縮して頭を下げる。
で、俺は早速サーシム領で倒した得体のしれない変異種を、解体場でマジックバッグから取り出しドン引きされた。
「あり得んな、なんだこの異形は・・・」とギルマスが顔を引きつらせる。
足が馬で胴体がアースドラゴン、首から上が鹿で目が4つ、しかも4本ある角は銀色で鋭く尖っている。その異様振りに解体職人たちも言葉が出ない。
「目が4つある変異種は、どうやら魔法を使うようです」と、俺は重要な情報を伝えて、各ギルドに通達するようギルマスに指示を出した。
マジックバッグに収納してある今回討伐した上位種の皮は、新しいマジックバッグの素材として使うことにし、骨や牙も魔力増幅の指輪や腕輪にするため商業ギルドに引き取りを頼んだ。
高学院に戻った俺は少し早いけど、ラリエス、エイトを連れて城へと向かうことにした。
ボンテンクは、卒業に必要な講義を休めず悔しそうだった。
毎日冒険者ギルドから、当番制で覇王専用馬車の御者を派遣して貰っていたけど、サーシム領の救援に行った時、御者として協力してくれたタルトさんを、全面的に信用して俺の護衛兼御者として正式に雇った。
これで妹のシフォンさんは薬種 命の輝きで働き、兄のタルトさんは覇王の護衛として働くことになった。住まいも店の上だから安心だ。
「午後からの予定でしたが、これから向かっても大丈夫でしょうか?」と、エイトはワクワクした表情で問う。
「せっかくだから、【魔獣討伐専門部隊】に激励に行こうかと思ってるんだエイト」
「それは父も隊員の皆も喜ぶでしょう。確か今日は演習は休みのはずです」と、ラリエスは嬉しそうに笑う。
「ああ、トーマス王子とレイム公爵と一緒にヘイズ領に行った副指揮官が昨夜報告に来て、今日は演習を休んで炊き出しの練習をするって言ってたよラリエス」
連日の魔獣討伐に疲れも見せず、2人とも城に行くのが楽しみな様子で何よりだ。
公爵家の子息であっても、城に行く機会は国王と謁見できる新年や国王の誕生パーティーくらいしかなく、執務棟には行ったことがないと言う。
「今日は制服ではなく私服だから、上手く紛れ込んで、日頃の様子を見るいいチャンスだと思うよ。
特に一般魔法省は副大臣のヘイズ侯爵があれだから、混乱してるだろうね。
どれだけの役人が派閥や自分の保身より、魔獣の氾濫を心配しているのかを確認できると思うと楽しみだ。
まあ、あまり期待はしてないけど」
いや本当に楽しみなんだよ。きっと一握りの人間しか魔獣の氾濫を心配してない。
それが分かっているからこそ、喧嘩を売りに行くんだけどさ。
「う~ん、その確認も大事ですが、私は身の程知らずの役人が、アコル様に無礼な態度をとる方が心配です。ほとんどの役人がアコル様と面識ないですから」
「そうだよなエイト。私も心配だよ。
もしも王妃や第一王子マロウ周辺の取り巻きが、アコル様に無礼な言動や態度をとった時に、自分が冷静でいれるかどうかが」
真剣に心配してる様子のラリエスを見て、俺も心配になってきた。
真面目で融通が効かない俺の側近は、俺に関することになると沸点が低い。
「突然魔法攻撃を仕掛けなきゃいいんじゃない?」
「いや、ダメだろうエイト。二人とも物騒だよ?
俺が覇気で黙らせるから、魔法じゃなくて王宮警備隊に不敬罪で引き渡してよ。いや、それもどうなんだろう?」
俺は腕組みをして、倒れ伏す多くの役人の姿を想像する。
何回かやって来て倒れ伏せば、きっと怖くなるだろうから、それでもいいんじゃないのかなぁ・・・
「甘いですよアコル様。覇気で倒れ伏したら、男女を問わず覇王講座に参加させましょう。
卒業できなければ爵位剥奪、又は失職させましょう。
覇王講座を卒業できない無能は、王宮には必要ありません!」
「そうだなラリエス。もしも覇王講座の受講を拒めば、上司を降爵させるとか、失職が嫌なら罰金として金貨10枚を払わせるくらいは必要です!」
「そ、そうかな・・・?」
俺は2人の厳しい意見に、頼もしいと思うべきか、手加減も必要だと注意すべきかを迷う。
未だに貴族的な考え方がよく分からない。
……ここは2人に任せてみてもいいかな。
午前11時、王宮に到着した俺たち4人(護衛のタルトさんを含む)は、馬車停めからぐるりと回って、新しく【魔獣討伐専門部隊】の演習場になった元魔法省の練習場に向かった。
炊き出し訓練をしていた隊員たちに大歓迎され、俺たちは皆と一緒に炊き出しを食べた。
味は……まあ、これからに期待しよう。
折角だから、セイロン山で採取した果物を差し入れして、今後は冒険者を覇王講座で鍛えて強くし、戦力強化をしていく予定だと告げた。
「それからBランク以上の冒険者が、覇王講座の攻撃魔法試験に合格したら、執務机の倍の容量が収納できる時間経過が少し遅いマジックバッグを、手作りして貸与すると決めた。
また、魔力量が60を越え、覇王講座で学びBランクになった関係者にも同じ特典を付ける。
当然、魔獣の大氾濫で戦うと誓約した者限定だ」
「オオォーッ! 凄い」とか「重い荷物を運ばなくていいんだ」と声を上げ、隊員たちは凄く羨ましそうだが、それをワイコリーム公爵の前で決して口になどしない。
ここに居る者は全て、国から給金を貰っている公僕であり、命を懸ける覚悟を決め、プライドを持って働いているのだ。
だが俺は、冒険者の命を考えたのと同時に、ここに居る仲間の命のことも考えた。
【魔獣討伐専門部隊】は、俺が考案して立ち上げさせた組織だ。
同じ公僕でも、王宮で働く事務官や上級役人の方がかなり高額な給金を貰っている。
俺は仕事の内容で優劣をつける気はないし、どの仕事が偉いかなんて考えたりしない。
貴族であることや高学歴であることを基準にしていることが、悪いとも問題だとも思っていない。
ただ、命の重さという一点で、あまりに不平等だと思う。
死んで当たり前とか、魔獣など討伐できて当然だなんて考えている領主や役人に腹が立つ。
……冗談じゃない! 必ずお前たちを戦場に引きずり出してやる。
「覇王がお前で……アコルで良かった」と、ダルトンさんが泣きながら礼を言う。
「本当にお前は……ありがとう。冒険者を辞めたいと言い出す者が多くて、ギルマスなのに……何もしてやれなくて、これで、これで引き留めることができる」
ギルマスまで俺の両手を握り締め、プルプル手を震わせながら礼言う。
「いや、覇王様にお前と言うのは・・・」と、幹部が恐縮して頭を下げる。
で、俺は早速サーシム領で倒した得体のしれない変異種を、解体場でマジックバッグから取り出しドン引きされた。
「あり得んな、なんだこの異形は・・・」とギルマスが顔を引きつらせる。
足が馬で胴体がアースドラゴン、首から上が鹿で目が4つ、しかも4本ある角は銀色で鋭く尖っている。その異様振りに解体職人たちも言葉が出ない。
「目が4つある変異種は、どうやら魔法を使うようです」と、俺は重要な情報を伝えて、各ギルドに通達するようギルマスに指示を出した。
マジックバッグに収納してある今回討伐した上位種の皮は、新しいマジックバッグの素材として使うことにし、骨や牙も魔力増幅の指輪や腕輪にするため商業ギルドに引き取りを頼んだ。
高学院に戻った俺は少し早いけど、ラリエス、エイトを連れて城へと向かうことにした。
ボンテンクは、卒業に必要な講義を休めず悔しそうだった。
毎日冒険者ギルドから、当番制で覇王専用馬車の御者を派遣して貰っていたけど、サーシム領の救援に行った時、御者として協力してくれたタルトさんを、全面的に信用して俺の護衛兼御者として正式に雇った。
これで妹のシフォンさんは薬種 命の輝きで働き、兄のタルトさんは覇王の護衛として働くことになった。住まいも店の上だから安心だ。
「午後からの予定でしたが、これから向かっても大丈夫でしょうか?」と、エイトはワクワクした表情で問う。
「せっかくだから、【魔獣討伐専門部隊】に激励に行こうかと思ってるんだエイト」
「それは父も隊員の皆も喜ぶでしょう。確か今日は演習は休みのはずです」と、ラリエスは嬉しそうに笑う。
「ああ、トーマス王子とレイム公爵と一緒にヘイズ領に行った副指揮官が昨夜報告に来て、今日は演習を休んで炊き出しの練習をするって言ってたよラリエス」
連日の魔獣討伐に疲れも見せず、2人とも城に行くのが楽しみな様子で何よりだ。
公爵家の子息であっても、城に行く機会は国王と謁見できる新年や国王の誕生パーティーくらいしかなく、執務棟には行ったことがないと言う。
「今日は制服ではなく私服だから、上手く紛れ込んで、日頃の様子を見るいいチャンスだと思うよ。
特に一般魔法省は副大臣のヘイズ侯爵があれだから、混乱してるだろうね。
どれだけの役人が派閥や自分の保身より、魔獣の氾濫を心配しているのかを確認できると思うと楽しみだ。
まあ、あまり期待はしてないけど」
いや本当に楽しみなんだよ。きっと一握りの人間しか魔獣の氾濫を心配してない。
それが分かっているからこそ、喧嘩を売りに行くんだけどさ。
「う~ん、その確認も大事ですが、私は身の程知らずの役人が、アコル様に無礼な態度をとる方が心配です。ほとんどの役人がアコル様と面識ないですから」
「そうだよなエイト。私も心配だよ。
もしも王妃や第一王子マロウ周辺の取り巻きが、アコル様に無礼な言動や態度をとった時に、自分が冷静でいれるかどうかが」
真剣に心配してる様子のラリエスを見て、俺も心配になってきた。
真面目で融通が効かない俺の側近は、俺に関することになると沸点が低い。
「突然魔法攻撃を仕掛けなきゃいいんじゃない?」
「いや、ダメだろうエイト。二人とも物騒だよ?
俺が覇気で黙らせるから、魔法じゃなくて王宮警備隊に不敬罪で引き渡してよ。いや、それもどうなんだろう?」
俺は腕組みをして、倒れ伏す多くの役人の姿を想像する。
何回かやって来て倒れ伏せば、きっと怖くなるだろうから、それでもいいんじゃないのかなぁ・・・
「甘いですよアコル様。覇気で倒れ伏したら、男女を問わず覇王講座に参加させましょう。
卒業できなければ爵位剥奪、又は失職させましょう。
覇王講座を卒業できない無能は、王宮には必要ありません!」
「そうだなラリエス。もしも覇王講座の受講を拒めば、上司を降爵させるとか、失職が嫌なら罰金として金貨10枚を払わせるくらいは必要です!」
「そ、そうかな・・・?」
俺は2人の厳しい意見に、頼もしいと思うべきか、手加減も必要だと注意すべきかを迷う。
未だに貴族的な考え方がよく分からない。
……ここは2人に任せてみてもいいかな。
午前11時、王宮に到着した俺たち4人(護衛のタルトさんを含む)は、馬車停めからぐるりと回って、新しく【魔獣討伐専門部隊】の演習場になった元魔法省の練習場に向かった。
炊き出し訓練をしていた隊員たちに大歓迎され、俺たちは皆と一緒に炊き出しを食べた。
味は……まあ、これからに期待しよう。
折角だから、セイロン山で採取した果物を差し入れして、今後は冒険者を覇王講座で鍛えて強くし、戦力強化をしていく予定だと告げた。
「それからBランク以上の冒険者が、覇王講座の攻撃魔法試験に合格したら、執務机の倍の容量が収納できる時間経過が少し遅いマジックバッグを、手作りして貸与すると決めた。
また、魔力量が60を越え、覇王講座で学びBランクになった関係者にも同じ特典を付ける。
当然、魔獣の大氾濫で戦うと誓約した者限定だ」
「オオォーッ! 凄い」とか「重い荷物を運ばなくていいんだ」と声を上げ、隊員たちは凄く羨ましそうだが、それをワイコリーム公爵の前で決して口になどしない。
ここに居る者は全て、国から給金を貰っている公僕であり、命を懸ける覚悟を決め、プライドを持って働いているのだ。
だが俺は、冒険者の命を考えたのと同時に、ここに居る仲間の命のことも考えた。
【魔獣討伐専門部隊】は、俺が考案して立ち上げさせた組織だ。
同じ公僕でも、王宮で働く事務官や上級役人の方がかなり高額な給金を貰っている。
俺は仕事の内容で優劣をつける気はないし、どの仕事が偉いかなんて考えたりしない。
貴族であることや高学歴であることを基準にしていることが、悪いとも問題だとも思っていない。
ただ、命の重さという一点で、あまりに不平等だと思う。
死んで当たり前とか、魔獣など討伐できて当然だなんて考えている領主や役人に腹が立つ。
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