上 下
319 / 709
覇王と国王

173ー2 王宮の闇(2)ー2

しおりを挟む
 ふとギルマスとダルトンさんを見ると、だばーっと涙を流していた。

「覇王がお前で……アコルで良かった」と、ダルトンさんが泣きながら礼を言う。

「本当にお前は……ありがとう。冒険者を辞めたいと言い出す者が多くて、ギルマスなのに……何もしてやれなくて、これで、これで引き留めることができる」

ギルマスまで俺の両手を握り締め、プルプル手を震わせながら礼言う。

「いや、覇王様にお前と言うのは・・・」と、幹部が恐縮して頭を下げる。


 で、俺は早速サーシム領で倒した得体のしれない変異種を、解体場でマジックバッグから取り出しドン引きされた。

「あり得んな、なんだこの異形は・・・」とギルマスが顔を引きつらせる。

 足が馬で胴体がアースドラゴン、首から上が鹿で目が4つ、しかも4本ある角は銀色で鋭く尖っている。その異様振りに解体職人たちも言葉が出ない。

「目が4つある変異種は、どうやら魔法を使うようです」と、俺は重要な情報を伝えて、各ギルドに通達するようギルマスに指示を出した。

 マジックバッグに収納してある今回討伐した上位種の皮は、新しいマジックバッグの素材として使うことにし、骨や牙も魔力増幅の指輪や腕輪にするため商業ギルドに引き取りを頼んだ。




 高学院に戻った俺は少し早いけど、ラリエス、エイトを連れて城へと向かうことにした。
 ボンテンクは、卒業に必要な講義を休めず悔しそうだった。

 毎日冒険者ギルドから、当番制で覇王専用馬車の御者を派遣して貰っていたけど、サーシム領の救援に行った時、御者として協力してくれたタルトさんを、全面的に信用して俺の護衛兼御者として正式に雇った。

 これで妹のシフォンさんは薬種 命の輝き俺の店で働き、兄のタルトさんは覇王の護衛として働くことになった。住まいも店の上だから安心だ。

「午後からの予定でしたが、これから向かっても大丈夫でしょうか?」と、エイトはワクワクした表情で問う。

「せっかくだから、【魔獣討伐専門部隊】に激励に行こうかと思ってるんだエイト」

「それは父も隊員の皆も喜ぶでしょう。確か今日は演習は休みのはずです」と、ラリエスは嬉しそうに笑う。

「ああ、トーマス王子とレイム公爵と一緒にヘイズ領に行った副指揮官が昨夜報告に来て、今日は演習を休んで炊き出しの練習をするって言ってたよラリエス」

連日の魔獣討伐に疲れも見せず、2人とも城に行くのが楽しみな様子で何よりだ。

 公爵家の子息であっても、城に行く機会は国王と謁見できる新年や国王の誕生パーティーくらいしかなく、執務棟には行ったことがないと言う。

「今日は制服ではなく私服だから、上手く紛れ込んで、日頃の様子を見るいいチャンスだと思うよ。
 特に一般魔法省は副大臣のヘイズ侯爵があれだから、混乱してるだろうね。

 どれだけの役人が派閥や自分の保身より、魔獣の氾濫を心配しているのかを確認できると思うと楽しみだ。
 まあ、あまり期待はしてないけど」

 いや本当に楽しみなんだよ。きっと一握りの人間しか魔獣の氾濫を心配してない。
 それが分かっているからこそ、喧嘩を売りに行くんだけどさ。


「う~ん、その確認も大事ですが、私は身の程知らずの役人が、アコル様に無礼な態度をとる方が心配です。ほとんどの役人がアコル様と面識ないですから」

「そうだよなエイト。私も心配だよ。
 もしも王妃や第一王子マロウ周辺の取り巻きが、アコル様に無礼な言動や態度をとった時に、自分が冷静でいれるかどうかが」

真剣に心配してる様子のラリエスを見て、俺も心配になってきた。
 真面目で融通が効かない俺の側近は、俺に関することになると沸点が低い。

「突然魔法攻撃を仕掛けなきゃいいんじゃない?」

「いや、ダメだろうエイト。二人とも物騒だよ?
 俺が覇気で黙らせるから、魔法じゃなくて王宮警備隊に不敬罪で引き渡してよ。いや、それもどうなんだろう?」

 俺は腕組みをして、倒れ伏す多くの役人の姿を想像する。
 何回かやって来て倒れ伏せば、きっと怖くなるだろうから、それでもいいんじゃないのかなぁ・・・

「甘いですよアコル様。覇気で倒れ伏したら、男女を問わず覇王講座に参加させましょう。
 卒業できなければ爵位剥奪、又は失職させましょう。
 覇王講座を卒業できない無能は、王宮には必要ありません!」

「そうだなラリエス。もしも覇王講座の受講を拒めば、上司を降爵させるとか、失職が嫌なら罰金として金貨10枚を払わせるくらいは必要です!」 

「そ、そうかな・・・?」

 俺は2人の厳しい意見に、頼もしいと思うべきか、手加減も必要だと注意すべきかを迷う。
 未だに貴族的な考え方がよく分からない。

 ……ここは2人に任せてみてもいいかな。



 午前11時、王宮に到着した俺たち4人(護衛のタルトさんを含む)は、馬車停めからぐるりと回って、新しく【魔獣討伐専門部隊】の演習場になった元魔法省の練習場に向かった。

 炊き出し訓練をしていた隊員たちに大歓迎され、俺たちは皆と一緒に炊き出しを食べた。
 味は……まあ、これからに期待しよう。

 折角だから、セイロン山で採取した果物を差し入れして、今後は冒険者を覇王講座で鍛えて強くし、戦力強化をしていく予定だと告げた。

「それからBランク以上の冒険者が、覇王講座の攻撃魔法試験に合格したら、執務机の倍の容量が収納できる時間経過が少し遅いマジックバッグを、手作りして貸与すると決めた。

 また、魔力量が60を越え、覇王講座で学びBランクになった関係者にも同じ特典を付ける。
 当然、魔獣の大氾濫で戦うと誓約した者限定だ」

「オオォーッ! 凄い」とか「重い荷物を運ばなくていいんだ」と声を上げ、隊員たちは凄く羨ましそうだが、それをワイコリーム公爵の前で決して口になどしない。

 ここに居る者は全て、国から給金を貰っている公僕であり、命を懸ける覚悟を決め、プライドを持って働いているのだ。
 だが俺は、冒険者の命を考えたのと同時に、ここに居る仲間の命のことも考えた。

【魔獣討伐専門部隊】は、俺が考案して立ち上げさせた組織だ。
 同じ公僕でも、王宮で働く事務官や上級役人の方がかなり高額な給金を貰っている。

 俺は仕事の内容で優劣をつける気はないし、どの仕事が偉いかなんて考えたりしない。
 貴族であることや高学歴であることを基準にしていることが、悪いとも問題だとも思っていない。

 ただ、命の重さという一点で、あまりに不平等だと思う。
 死んで当たり前とか、魔獣など討伐できて当然だなんて考えている領主や役人に腹が立つ。

 ……冗談じゃない! 必ずお前たちを戦場に引きずり出してやる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

魔眼の守護者 ~用なし令嬢は踊らない~

灯乃
ファンタジー
幼い頃から、スウィングラー辺境伯家の後継者として厳しい教育を受けてきたアレクシア。だがある日、両親の離縁と再婚により、後継者の地位を腹違いの兄に奪われる。彼女は、たったひとりの従者とともに、追い出されるように家を出た。 「……っ、自由だーーーーーーっっ!!」 「そうですね、アレクシアさま。とりあえずあなたは、世間の一般常識を身につけるところからはじめましょうか」 最高の淑女教育と最強の兵士教育を施されたアレクシアと、そんな彼女の従者兼護衛として育てられたウィルフレッド。ふたりにとって、『学校』というのは思いもよらない刺激に満ちた場所のようで……?

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

チート生産魔法使いによる復讐譚 ~国に散々尽くしてきたのに処分されました。今後は敵対国で存分に腕を振るいます~

クロン
ファンタジー
俺は異世界の一般兵であるリーズという少年に転生した。 だが元々の身体の持ち主の心が生きていたので、俺はずっと彼の視点から世界を見続けることしかできなかった。 リーズは俺の転生特典である生産魔術【クラフター】のチートを持っていて、かつ聖人のような人間だった。 だが……その性格を逆手にとられて、同僚や上司に散々利用された。 あげく罠にはめられて精神が壊れて死んでしまった。 そして身体の所有権が俺に移る。 リーズをはめた者たちは盗んだ手柄で昇進し、そいつらのせいで帝国は暴虐非道で最低な存在となった。 よくも俺と一心同体だったリーズをやってくれたな。 お前たちがリーズを絞って得た繁栄は全部ぶっ壊してやるよ。 お前らが歯牙にもかけないような小国の配下になって、クラフターの力を存分に使わせてもらう! 味方の物資を万全にして、更にドーピングや全兵士にプレートアーマーの配布など……。 絶望的な国力差をチート生産魔術で全てを覆すのだ! そして俺を利用した奴らに復讐を遂げる!

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

処理中です...