上 下
318 / 709
覇王と国王

173ー1 王宮の闇(2)ー1

しおりを挟む
◇◇ 国王アルファス ◇◇

 王の前に立ちはだかるとは……なんとも頭が痛い。
 王宮警備隊の副隊長に続き、サナへ侯爵まで私を守るようにスッと前に出て、礼儀知らずのマロウを警戒する。

「父上、魔獣の氾濫はヘイズ侯爵伯父上のせいではありません!
 王都は無事だったのですから、罪に問おうとする者たちの方がおかしい! 私は第一王子として絶対に許せません」

「マロウ、お前は謹慎中だったはず。お前は今後しばらく、領主会議、大臣会議、幹部会議にも出席してはならない! もしも王の命令に従わねば、廃嫡も考慮する!」

思わず声を荒げて、マロウを叱咤する。 
 どうしてマロウはこうも短慮なのだ。隣にいる王妃の入れ知恵だろうが、どう考えたら今回のヘイズ侯爵の行いを無罪にできるのだ?

 これ以上マロウの無能を皆の前でさらすことはでき・・・ん? 無能?

 ああそうだ。これまでの態度も言動も無能だからではないか!
 それを私は認めず、少し怠け者だからとか王妃の教育が間違っているからと言い訳し、現実と向き合っていなかった。

 ……王としても父親としても無能な私には、息子に無能だと……お前では王になれないと言えなかった。

 ……初めて廃嫡という言葉を出した私に、皆は驚くと言うより、やっと言ったのかという表情をしている。


「王妃様、マロウ王子、明日の午後、覇王様が城に来られます。失礼のないようお願いします」

自分勝手なマロウの態度に、怒りを我慢しきれていないサナへ侯爵は、口元をぴくぴくさせながら、宰相として明日のことを伝える。

「フン! 馬鹿らしい。
 本物の王子だなんて証明されてもいない捨て子に、失礼のないようにですってぇ?

 王城の魔鳥を討伐して責任を果たせと命じたのに、あの捨て子は王妃の命令を無視したのよ!
 役立たずの無能のくせに! 気分が悪いわ。行きましょうマロウ。私たちで兄上を助けるのです」

ひどく歪んだ醜い表情で、言いたいことを大声で吐き捨てた王妃は、不機嫌そうに私の前から去っていく。ぞろぞろと供を引き連れて。

 覇王様に対するあまりの暴言に、誰もかれも驚き過ぎて唖然としている。
 残された私は、王妃の放った言葉や態度が酷すぎて、直ぐに反論することも意見することもできなかった。

 ……何故私は、これまで王妃を放置してきたのだろう? 自分を殺そうとした可能性が高く、とても王妃に相応しいとも思えない女を・・・ああぁ。



 ◇ ◇ ◇ 

 王都に戻った俺は、翌朝直ぐに冒険者ギルド王都支部へ向かった。
 本部から偉い幹部も招集し、ミルクナの町の冒険者ギルドで告知したことを、全てのギルドでも適用させると告げた。

 大至急全冒険者ギルドで魔力量検査をし、魔力量が60を超える者と、ギルマスが鍛えて欲しいと望むBランク以上の冒険者に推薦状を持たせれば、王立高学院で覇王講座を無料で受講することができると。

「冒険者のレベルが上がれば、生き残れる確率も上がります。
 攻撃魔法が使える者にはより強い攻撃方法を、攻撃魔法が苦手でも、魔力量が60を超える者には攻撃特化の魔法陣を教えます。

 そして、Bランク以上の冒険者で、覇王講座の攻撃魔法試験に合格できた者には、生ものが一週間腐らない執務机の倍の大きさの容量のマジックバッグを貸与、又はプレゼントします。
 もちろん、その対象者には、ギルマス、サブギルマス、職員も含まれます」

俺の話を真剣に聞いていたギルド本部の役人の瞳が、ギラリと輝きゴクリと唾を飲む音がする。

 俺のマジックバッグの価値を知っている者は、喉から手が出るくらいに欲しい代物らしいから、殆ど貴族家出身の職員たちも、こぞって参加するだろう。

 子爵家以上の貴族なら、商学部や貴族部を卒業していても、魔力量が60を越えている者もいる。

「はあ? 覇王の作った国宝級に近いマジックバッグを貸与する? しかもBランク? 魔力量60を越える者ならごまんと居るぞ!」

信じられないという顔をして、ギルマスが確認するように俺の顔を見る。

「もう、冒険者とか、職員なんて拘っている状況じゃないんです。
 覇王講座で学び試験に合格すれば、ギルマスだろうが職員だろうが、マジックバッグを貸与かプレゼントしますよ。

 総力戦で戦わねば、この国の人間は半分も生き残れないでしょう。
 特に王都でドラゴンと戦える人数は、絶望的と言っても過言ではないんですから」

「・・・・」

まだ現実を理解しきれていなかった本部幹部の4人は、言葉を失った。

「冒険者の命は、領主や貴族にとって信じられないくらいに軽い。
 サーシム領でもヘイズ領でも、魔獣と戦えない警備隊や兵士よりも軽かった。
 懸命に住民のために戦っても、無能扱いされ何の補償もされない。

 だから俺は、もしも魔獣討伐で命を落としても、残された家族が困らないよう、また、大ケガをして働けなくなっても困らないようにマジックバッグを貸与する。

 事前登録した冒険者の家族が、魔獣討伐で死亡したとギルド発行の証明書を持って商業ギルドに持ち込めば、金貨40枚以上で買い取ってくれるよう手配します。

 もちろんギルドには、冒険者が亡くなった場合、必ず登録家族に遺品としてマジックバッグを渡す義務が生じる。各ギルドに徹底させてくれ。

 不正に取引されないよう、血判登録の変更や売買には、覇王、又はギルマス、サブギルマスの許可を得なければならない」

 まあ、最近変異種の素材はたくさん手に入ったし、魔力量の問題も解消された。
 エクレアとユテが居るから、何とかなるだろう。たぶん・・・
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

ゴミスキルから始める異世界英雄譚 ~〖○○〗がインストールされました。つまり無敵です!~

日之影ソラ
ファンタジー
【小説家になろう版はこちら】 https://ncode.syosetu.com/n4763if/ 書物など記録媒体の情報を読み取り、記憶するだけのゴミスキル『インストール』。他に取柄もない雑用係の青年レオルスは、所属するギルドのボスに一か月後のクビを宣告されてしまう。 自身とは違い出世する同期のカインツと共に、最後のダンジョン攻略に挑むレオルスは、世界に名を遺す冒険者になるため、この機会になんとか成果を上げようと奮闘する。しかし、一同を襲った凶悪モンスターを前に、仲間に裏切られ囮にされてしまった。 絶体絶命の窮地、それでも夢を諦めたくないと叫ぶレオルスの前に、美しく可愛い不思議な少女が現れる。 彼女はこう名乗った。 私の名前はライラ。 世界図書館の管理者だ! 今ここに、新たな英雄譚が始まる。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

処理中です...