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覇王と国王

172ー2 王宮の闇(1)ー2

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◇◇ 国王アルファス ◇◇

 サーシム領の魔獣はドラゴンも含めて、【覇王軍】【魔獣討伐専門部隊】と冒険者が協力して討伐できたと、サーシム侯爵から昨日知らせが届いて安堵した。

 ヘイズ領から押し戻された魔獣の大群も、ワイコリーム公爵率いる【魔獣討伐専門部隊】と王立高学院の学生たちによって無事に討伐された。

 城ではマギ公爵を始めとする反ヘイズ侯爵派が、今回の魔獣の押し戻しは、国王への謀反に他ならないと怒り心頭だ。
 皆は当然のように、爵位を剝奪すべきだと会議で意見する。

 もしも王都に大きな被害が出ていたら当然の処分だと思うが、実際は食い止められた。
 なので、領主を辞めさせるだけで、爵位の剝奪は厳しすぎるだろうと私は大臣たちに告げた。

 しかし、ヘイズ侯爵派だと思っていた弟のシーブルまでもが、爵位を剥奪し平民とする処分は妥当だと言い始めた。

「王様はどうやら、魔獣と戦うという現実を何も分かっておられないようだ」

マギ公爵は無表情でそう言うと、勝手に会議室を出ていった。

 たった一回魔獣討伐に参加しただけで、私に対する態度がこうも変わるものなのだろうか?
 これまで私を支えてくれ、私の意見に従ってくれていたマギ公爵が勝手に席を立つなんて・・・

 ヘイズ侯爵派で国防大臣のワートン公爵は、マギ公爵の態度を無責任だと言って不機嫌な顔をする。

 しかし魔法省大臣マリード侯爵も、マギ公爵と同意見だと言って席を立ったので、会議は中断せざるを得なかった。

 再び始まった会議の議題は、ヘイズ領の住民の救済についてで、これも申し合わせたように国防大臣であるワートン公爵が指揮を執るのが妥当だろうと、弟のシーブル、ワートン公爵、デミル公爵以外の者が全て同意した。

 救済を急がねば多くの民が死んでしまうので、大至急救済品を持ってヘイズ領へ行くべきだと、ワイコリーム公爵が力説した。

 今回王都を救った英雄であるワイコリーム公爵の意見に、誰も反論することなどできなかったし、「国務大臣として国防省の実力に期待しています」などと挑発する余裕さえあった。

 一番若い領主として目立たなかったこれまでと違い、明らかに力を付け前に出てきたといえる。

「覇王の側近になると、態度まで大きくなるのだな」と、シーブルが苦い顔をして嫌味を言った。

「フッ、当然でしょう。
 覇王様の恐ろしさを知らない方は吞気なものですね。
 覇王様に見限られたら、この国はお終いなんです。

 だから覇王様にご助力いただくため、私は一生懸命なだけです。
 貴方も何度か死の恐怖を味わえば、私の態度も理解できるでしょう。

 文句があるなら、一般軍大臣としての手腕を皆に示してから仰ってください。
 覇王講座では、一般軍の成績は常に最下位だったと記憶していますが、まさか本番でも……なんてことはないですよね?」

完全に上から目線のワイコリーム公爵は、ニヤリと笑ってシーブルの挑発を受けた。

「たかが公爵の分際で生意気な!」と、シーブルは怒りで拳を震わせながら怒鳴った。

 王弟に向かって放たれた訳ではなく、一般軍大臣に向かって放たれた言葉だが、若い新米領主の辛辣な言葉を聞き、シーブルは理性を忘れてしまったようだ。

「わ、若造のくせに王弟シーブル様に意見するとは無礼な!」と、凄い剣幕でワートン公爵も噛み付いた。

「実力と年齢は関係ないだろう。
 ワイコリーム公爵は国務大臣としても、【魔獣討伐専門部隊】の責任者としても申し分なく実績を上げている。

 確かワートン公爵は、無理してマジックバッグを購入する必要などない……と、先月の会議の時にヘイズ侯爵に助言されていたと記憶している。
 盟友としてヘイズ領を助けるのは当然でしょうな」

最年長のマリード侯爵は、こうなったのお前のせいだ! とは明言せず、遠回しに責任追及する。

 宰相のサナへ侯爵も、領主ではない他部署の大臣たちも、「当然でしょう」「それが良いでしょう」と追随してくる。
 これまでと違い、完全に根回しが済んでいるようだ。

 圧倒的な数の同意で、ヘイズ領の救済は国防大臣が責任を持って行うと決定した。
 ヘイズ侯爵の処分については、レイム公爵が戻ってから決定することになった。

 ……ここまで蚊帳の外だったことは初めてだ。
 ……サナへ侯爵までもが、事前に情報を教えないとは・・・



 次の議題は、魔獣討伐に関わる追加予算についてだったが、財務大臣であるレイム公爵が留守なので何も決められない。

 レイム公爵が帰り次第、至急会議を招集してはどうだろうかと、議長をしているサナへ侯爵が話していると、王宮警備隊の副隊長が、至急の伝令だと言って会議室に入ってきた。

「申し上げます。明日の午後、覇王様が王宮にお見えになるそうです。
 ヘイズ領の救済に向かうワートン公爵以外は、出来るだけ謁見の間に集まるようにと」

覇王様の妖精が王宮に現れ、自分にそう告げたのだと副隊長は頭を下げた。
 
 ……妖精が指示を伝える・・・理解の範疇を越えている。しかし、これが覇王の遣り方なら、従うしかない。

「なんとも、第七王子は貴族の作法も知らないようだ」

弟のシーブルが放った言葉に、会議室の空気が凍り付いた。

 冷気を放っているのはマリード侯爵、ワイコリーム公爵、マギ公爵を含む数人だが、私と違いシーブルは、覇王が怖くないのだろう。

「分かった。そのように準備する」と私はそう答えて、会議を終了させた。


 少しショックを受けながら廊下に出ると、第一王子マロウと面会を拒否していた王妃が、取り巻きの側近や侍女を大勢連れて待ち伏せていた。

 直ぐに王宮警備隊の副隊長が私の前に出て、王妃を睨み付ける。

「王様、信じられない噂を耳にしました。
 この国の王妃である私の兄ヘイズ侯爵を、反逆罪に問うという酷い噂です。

 あれだけ国のため王様のために尽くしてきたヘイズ侯爵を罪に問うなど、あってはならないことです! 偽りの言葉に惑わされてはなりません!」

久し振りに王妃の声を聞いたが、相変わらずヒステリックで、自分の意見を通そうとする。
 政治に口を出すなとあれほど言ったのに、大臣たちの前で騒ぎを起こすとは愚かな。

「政治に口を出すなと命令したはずだ。自分の部屋に帰りなさい」

 落ち込んでいた感情が、ますます落ちていく。抑揚のない声で王妃に命じて、私は移動を再開するが、第一王子マロウが行く手を塞いだ。 
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