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覇王と国王
167ー1 次のステップ(3)ー1
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洞窟の入り口に到着したランドルは、ケガをしないよう俺を丁寧にゆっくりと降ろしてくれた。
毛布の中から出ると、そこはドラゴンが住まうためにあるかのような洞窟で、入り口の高さは8メートル、幅は13メートル、奥行きは……見える範囲で50メートルくらいあるだろう。
ヒンヤリとした空気は、ここだけまだ冬のような気配だ。
壁の所々から水が染み出しており、いくつか水溜まりを作っているので、飲み水は確保できていたようだ。
洞窟の入り口は北西側を向いているので、日中は陽が射すこともないだろう。
薄暗い洞窟内に目が慣れてくると、奥に横たわる巨大なドラゴンの姿がぼんやりと見えてきた。
ラリエスの契約妖精トワが、母ドラゴンを心配して飛んでいく。
ランドルも「キューキュー」と悲しそうに泣いて、助けて欲しいと懇願する視線を俺に向ける。
侵入者の来訪に、母ドラゴンは首を持ち上げ警戒する。
洞窟内の空気に、一瞬殺気のような重さが加わり、さすが光のドラゴンだと感心してしまう。
トワが直ぐに敵ではないと説明してくれたようで、母ドラゴンはゆっくりと警戒を解き、安堵したのかもたげた首を下げていく。
「はじめまして。今代の覇王アコルです。ケガの具合を診てもいいだろうか?」
俺は努めて笑顔を作りながら、軽く覇気を放ってみる。
攻撃するための覇気ではなく、自分と母ドラゴンを包むような感じだ。
母ドラゴンは「キ、キュッ」と鳴き、俺の前に頭を下げ、診察を受け入れてくれた。
……やはり光のドラゴンは知能が高いようだ。
俺は母ドラゴンの鼻先を擦って、マジックバッグから取り出したポーションを見せ、おかしなものじゃないと安心させてから治療に取り掛かる。
母ドラゴンの右翼は、10センチ前後の穴が複数あいており、左翼は先から4分の1のところで折れていた。胴体には大きな傷は見当たらない。
今回はケガをしてから時間が経過しているので、【天の恵み】中級ポーションを始めから使う。
ポーションを翼に振り掛けて2分が経過した頃、開いていた穴がゆっくりと塞がっていく。
「やった! ありがとうございますアコル様」と、母ドラゴンの守護妖精トワが、涙を零しながらお礼を言う。
骨折した部分は、真っ直ぐ伸ばしてからポーションを使う。
一瞬痛そうに「キュッ!」と鳴いたけど、大人しく俺のすることに従ってくれる。
俺は暫くこのまま翼を動かさないよう指示して、様子を見ることにした。
母ドラゴンの後ろに目を遣ると、まるで鳥の巣のような枯草の寝床に、全く起きる気配のない女の子?の守護妖精が眠っていた。
姿かたちはトワと同じだけど、トワより尻尾が短くて、赤黒く変色した翼で自分の体を包み込むようにして眠っている。
トワと同じで頭には黄色い冠を戴いていて、ゆっくりと翼を開いていくと、薄汚れてはっきりしないけど、恐らく七色だと思われる服……というか鱗のような胴体が見えてきた。
「かわいそうに・・・これは痛かっただろう。眠っているのではなく、意識を失っているんだね」
トワの半分くらいしかない大きさの守護妖精は、左翼に小さな穴が数か所開いていて、右手の肘から下が欠損していた。
……これはもう、再生させるのは難しいだろう。
守護妖精の裂傷には、これから作る【慈悲の雫】を使う方がいいだろう。
ここまで衰弱していると【天の恵み】を使うより、【慈悲の雫】のハイポーションで傷を完全に塞ぎ、失った魔力を取り戻す必要がある。
トワに出会った時に思ったけど、どうやらドラゴンの守護妖精は、魔力を失ったままでは力が発揮できないようだ。
俺はここへ来る前、商業ギルド本部に寄って、モカの町から仕入れて貰った薬草を買っていた。
前回作った【慈悲の雫】は、ランドルの治療に全部使ってしまったから、必要なら作れるよう準備してきたのだ。
早速マジックバッグの中から、ポーション作りに必要な道具を取り出し、ゴリゴリと薬草を潰す作業を始める。
そのゴリゴリという音で、意識を失っていた女の子の妖精がぼんやりと目を覚ましたので、俺は自分の魔力を分け与えることにした。
よく分からないけど、50くらいの魔力を分けたところで、女の子の妖精ははっきりと目を覚ました。
俺を見て驚いたけど、トワが自分も助けられたのだと説明してくれたので、女の子の冠が光を取り戻すくらいまで魔力を注いだ。
「ありがとうございました覇王様。どうか私にも名を与えてください」
出来上がったハイポーション【慈悲の雫】で、左翼に開いた穴と、右腕の傷口が完全に塞がったところで、女の子の妖精がキラキラした瞳で俺を見て、起き上がり頭を下げながら言った。
「この子は珍しい全適性持ちで、全適性持ちの人間なんて居ないから、きっと誰もこの子を助けることはできないと思っていた。
だが我は、幸運にも全適性持ちのアコル様と出会った。
我だって6適性持ちの人間と会うことなどないと諦めていたのだ。
でも、奇跡のようにラリエスと出会って契約もした。
やはり光のドラゴンと覇王には、強い結びつきがあるのだろう。
アコル様、ランドル様のためにも、どうか名を与えてください」
トワは先輩として、ランドルの守護妖精である女の子と契約して欲しいと頼んできた。
もともとそのつもりで来たので、俺は直ぐに笑顔で了解する。
「私の名はアコル。特別なプレゼントは用意してないが、ユテと呼んでもいいだろうか?
ユテは、古代語で星という意味だ」
「はいアコル様。私はユテ。プレゼントは先程のポーションで十分です。
命を救っていただいたので、これからも自分の務めを果たすことができます。
本当にありがとうございました。
アコル様とランドル様のお役に立てるよう、一生懸命頑張ります」
魔力を半分くらい取り戻したユテは、頭上の冠をキラキラ金色に輝かせて、俺の回りをクルクルと飛びながら同意してくれた。
昨年ランドルが誕生したのと同時に生まれたユテは、生まれた時から人の言葉を理解できたらしい。
光のドラゴンの守護妖精は、特別な存在だと思って間違いないだろう。
トワによると、全適性持ちの守護妖精は別格で、初代覇王様が契約していたドラゴンの守護妖精も、全適性持ちだった気がするととのこと。
毛布の中から出ると、そこはドラゴンが住まうためにあるかのような洞窟で、入り口の高さは8メートル、幅は13メートル、奥行きは……見える範囲で50メートルくらいあるだろう。
ヒンヤリとした空気は、ここだけまだ冬のような気配だ。
壁の所々から水が染み出しており、いくつか水溜まりを作っているので、飲み水は確保できていたようだ。
洞窟の入り口は北西側を向いているので、日中は陽が射すこともないだろう。
薄暗い洞窟内に目が慣れてくると、奥に横たわる巨大なドラゴンの姿がぼんやりと見えてきた。
ラリエスの契約妖精トワが、母ドラゴンを心配して飛んでいく。
ランドルも「キューキュー」と悲しそうに泣いて、助けて欲しいと懇願する視線を俺に向ける。
侵入者の来訪に、母ドラゴンは首を持ち上げ警戒する。
洞窟内の空気に、一瞬殺気のような重さが加わり、さすが光のドラゴンだと感心してしまう。
トワが直ぐに敵ではないと説明してくれたようで、母ドラゴンはゆっくりと警戒を解き、安堵したのかもたげた首を下げていく。
「はじめまして。今代の覇王アコルです。ケガの具合を診てもいいだろうか?」
俺は努めて笑顔を作りながら、軽く覇気を放ってみる。
攻撃するための覇気ではなく、自分と母ドラゴンを包むような感じだ。
母ドラゴンは「キ、キュッ」と鳴き、俺の前に頭を下げ、診察を受け入れてくれた。
……やはり光のドラゴンは知能が高いようだ。
俺は母ドラゴンの鼻先を擦って、マジックバッグから取り出したポーションを見せ、おかしなものじゃないと安心させてから治療に取り掛かる。
母ドラゴンの右翼は、10センチ前後の穴が複数あいており、左翼は先から4分の1のところで折れていた。胴体には大きな傷は見当たらない。
今回はケガをしてから時間が経過しているので、【天の恵み】中級ポーションを始めから使う。
ポーションを翼に振り掛けて2分が経過した頃、開いていた穴がゆっくりと塞がっていく。
「やった! ありがとうございますアコル様」と、母ドラゴンの守護妖精トワが、涙を零しながらお礼を言う。
骨折した部分は、真っ直ぐ伸ばしてからポーションを使う。
一瞬痛そうに「キュッ!」と鳴いたけど、大人しく俺のすることに従ってくれる。
俺は暫くこのまま翼を動かさないよう指示して、様子を見ることにした。
母ドラゴンの後ろに目を遣ると、まるで鳥の巣のような枯草の寝床に、全く起きる気配のない女の子?の守護妖精が眠っていた。
姿かたちはトワと同じだけど、トワより尻尾が短くて、赤黒く変色した翼で自分の体を包み込むようにして眠っている。
トワと同じで頭には黄色い冠を戴いていて、ゆっくりと翼を開いていくと、薄汚れてはっきりしないけど、恐らく七色だと思われる服……というか鱗のような胴体が見えてきた。
「かわいそうに・・・これは痛かっただろう。眠っているのではなく、意識を失っているんだね」
トワの半分くらいしかない大きさの守護妖精は、左翼に小さな穴が数か所開いていて、右手の肘から下が欠損していた。
……これはもう、再生させるのは難しいだろう。
守護妖精の裂傷には、これから作る【慈悲の雫】を使う方がいいだろう。
ここまで衰弱していると【天の恵み】を使うより、【慈悲の雫】のハイポーションで傷を完全に塞ぎ、失った魔力を取り戻す必要がある。
トワに出会った時に思ったけど、どうやらドラゴンの守護妖精は、魔力を失ったままでは力が発揮できないようだ。
俺はここへ来る前、商業ギルド本部に寄って、モカの町から仕入れて貰った薬草を買っていた。
前回作った【慈悲の雫】は、ランドルの治療に全部使ってしまったから、必要なら作れるよう準備してきたのだ。
早速マジックバッグの中から、ポーション作りに必要な道具を取り出し、ゴリゴリと薬草を潰す作業を始める。
そのゴリゴリという音で、意識を失っていた女の子の妖精がぼんやりと目を覚ましたので、俺は自分の魔力を分け与えることにした。
よく分からないけど、50くらいの魔力を分けたところで、女の子の妖精ははっきりと目を覚ました。
俺を見て驚いたけど、トワが自分も助けられたのだと説明してくれたので、女の子の冠が光を取り戻すくらいまで魔力を注いだ。
「ありがとうございました覇王様。どうか私にも名を与えてください」
出来上がったハイポーション【慈悲の雫】で、左翼に開いた穴と、右腕の傷口が完全に塞がったところで、女の子の妖精がキラキラした瞳で俺を見て、起き上がり頭を下げながら言った。
「この子は珍しい全適性持ちで、全適性持ちの人間なんて居ないから、きっと誰もこの子を助けることはできないと思っていた。
だが我は、幸運にも全適性持ちのアコル様と出会った。
我だって6適性持ちの人間と会うことなどないと諦めていたのだ。
でも、奇跡のようにラリエスと出会って契約もした。
やはり光のドラゴンと覇王には、強い結びつきがあるのだろう。
アコル様、ランドル様のためにも、どうか名を与えてください」
トワは先輩として、ランドルの守護妖精である女の子と契約して欲しいと頼んできた。
もともとそのつもりで来たので、俺は直ぐに笑顔で了解する。
「私の名はアコル。特別なプレゼントは用意してないが、ユテと呼んでもいいだろうか?
ユテは、古代語で星という意味だ」
「はいアコル様。私はユテ。プレゼントは先程のポーションで十分です。
命を救っていただいたので、これからも自分の務めを果たすことができます。
本当にありがとうございました。
アコル様とランドル様のお役に立てるよう、一生懸命頑張ります」
魔力を半分くらい取り戻したユテは、頭上の冠をキラキラ金色に輝かせて、俺の回りをクルクルと飛びながら同意してくれた。
昨年ランドルが誕生したのと同時に生まれたユテは、生まれた時から人の言葉を理解できたらしい。
光のドラゴンの守護妖精は、特別な存在だと思って間違いないだろう。
トワによると、全適性持ちの守護妖精は別格で、初代覇王様が契約していたドラゴンの守護妖精も、全適性持ちだった気がするととのこと。
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