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戦いの始まり

164ー1 王都の危機(5)ー1

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 強行軍で馬車を走らせた結果、昼前にはライバンの森に到着できそうだ。

「200頭の魔獣が襲撃してきたら、流石の【魔獣討伐専門部隊】と【王立高学院特別部隊】でも、王都への侵入は防げないだろう」

ブラックカード持ちの赤のダイキリさんは、冷静に自分の意見を言う。

 仲間のブラックカード持ち二人と一緒に、【魔獣討伐専門部隊】の訓練で魔獣との戦い方を指導してくれていたダイキリさんは、かなり強くなってはいるが人数的に考えると、100頭が限界だろうと冷静な判断をする。

「200頭全てが襲えば無理でも、何度かに分かれて押し戻されていて、王都の手前で戦っていたら希望はあると思います。
【覇王軍】だけではなく【王立高学院特別部隊】も厳しい特訓を受けていますから」

かなり顔色の悪いダイキリさんに向かって、ボンテンクはプラス思考で希望はあると言う。

「今の王都には、【魔獣討伐専門部隊】と【覇王軍を含む王立高学院特別部隊】、そして冒険者以外に魔獣を討伐できる者は居ない。
 それでも王都の危機だ。王宮で働く貴族たちが責務を果たし、王や民を守るため真剣に城や王都を守って戦っている可能性もある」

「そんな貴族がいたら、サナへ領やサーシム領のように苦労はしませんよトーマス王子。
 それに、いったい誰が戦えと命令するんですか?」

少しは鍛えられた様子のトーマス王子に向かって、俺の真面目な側近は、全くもって容赦がない。

 一緒に覇王専用馬車に乗っているトーマス王子は、反論しようとして口を開いたが、直ぐに閉じて悔しそうに唇を咬む。

 ラリエスは、国王にそんな命令ができるはずがないと言ったも同然だった。
 つい先程、サーシム領主は国王の命令を何一つ守っていなかったと、ボンテンクが説明したばかりだ。

 ……空気が重い。トーマス王子は、現実が見えてない。

 ……俺もラリエスもボンテンクも、国王を含めた王宮の上層部を信用していないし、期待もしていないからなぁ・・・

 ……ヘイズ領の死者数が、2千人を超えている可能性があるという俺の言葉だって、トーマス王子は信じてなさそうだったし。



「覇王様、前から馬車が来ます! あれは役人用の馬車だと思います」

御者をしているタルトさんが、スピードを落として声を掛けてきた。
 道の端に馬車を停め、やって来た馬車を止めて状況を確認する。

「申し訳ありませんアコル様。我々はエイト君の指示に従わず、レイム公爵の指揮を望んで……ケガをしてしまいました」

驚いたことに、馬車から降りて謝罪したのは魔法部の先輩だった。
 他にもケガをした学生が4人馬車に乗っていて、レイム公爵から救援要請を受けた昨日からのことを、俺の質問に答える形で説明してくれた。

「ほう、マギ公爵とレイム公爵が・・・成程。
 どう思いますトーマス王子? ちゃんと魔獣と対戦したこともない公爵が来て、突然指揮を執るという事態を」

俺は怒っているとも笑っているともつかない表情で、トーマス王子に質問した。

「それは・・・ワイコリーム公爵もエイト君も迷惑だったでしょう。
 規模は全く違いますが、私が龍山で組んでいたパーティーの中に、突然伯父上たちが参加してきて、指揮を執ると言われたら、それは仲間の命を危険に晒すことになります」

トーマス王子ははっきりした口調で、迷惑な行動だと言い切った。

 トーマス王子は初めて組んだ冒険者パーティーで、始めの数日間、いいところを見せようと独りよがりに攻撃し魔獣を討伐していた。
 それを誰も咎めなかったので、多くの素材を無駄にしていると気付かなかった。

 ブラックカード持ちの赤のダイキリさんは護衛役に徹し、リーダーであるBランク冒険者は、自分たちの遣り方を学ぶ気がない王子に、文句を言わなかった。

 しかしある日、危険だから前に出るなと、初めてリーダーが強く注意した。
 でもトーマス王子は、大丈夫だと言って指示に従わなかった。そのせいで連携が崩れて、仲間がケガを負ってしまった。

 そこからパーティーのリーダーは、トーマス王子を新人冒険者として扱い、個人の勝手な行動が仲間の命を奪うことになると叱り、厳しく指導し始めた。

 リーダーの指示に従うことの重要性と連携の重要性を、トーマス王子はようやく理解し、リーダーの声をきちんと聞いて行動するようになったと、苦笑しながら再会した馬車の中で語っていた。

「果たして、マギ公爵とレイム公爵が学んでくれたかどうか……」

俺はフーッと息を吐き、それでも経験を積むことの重要性を分かっているから、二人の公爵を叱らないでおこうと決めた。

「でもまあ、既に200頭の魔獣を討伐したんだろう?
 ここは良くやったと褒めてやらなきゃ覇王様。

 3回に分かれて襲撃してくれて助かったな。
 どうする? 王都に直接戻るか? それとも激励に向かうのか?」

先程まで絶望的だと悲壮感を漂わせていた赤のダイキリさんが、討伐を完了したんなら王都に戻るかと訊いてきた。

 本当に討伐が完了したのなら、皆も引き上げてくるだろう。
 俺は引き留めていた学生の馬車を王都に戻し、どうしようかと思案する。ヘイズ領の被災者も気になる。


「じゃあ、私がトワに頼んで様子を見てみます」とラリエスが、安堵した表情で提案してくれる。

 直ぐにトワが現れて、金色の冠を輝かせながらラリエスのリクエストに応えて、空高く飛び上がっていく。

「ん~、あっ、見えました。全員ぼろぼろで満身創痍って感じですが、いい笑顔で楽しそうに食事してます。
 ん? えっ! あれは・・・た、大変ですアコル様! 魔獣の群が、大群が皆の方に向かっています!」

トワが上空から見ている景色を同じように視覚に捉えられるラリエスが、楽しそうだと報告していたのに、突然焦ったように叫び声を上げた。

「なんだと! ラリエス君、数は? 数はどのくらいだ?」

「はいボンテンク先輩、数は100頭くらいで、変異種が2……いえ3頭います!」
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