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戦いの始まり
158ー1 王立高学院特別部隊の真髄(3)ー1
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「本当に生きた心地がしませんでした。
私たちが戻った時、アコル様とラリエス君は意識を失い倒れていて、光のドラゴンがまるでお二人を護るように寄り添っていたのですから」
ボンテンクが寿命が縮まったと言いながら説明を始めると、他の【覇王軍】メンバーも全くだと言いながら大きく頷く。
全身傷だらけになって倒れていた俺とラリエスを発見したのは、ホーンブルの群を討伐して戻ってきたボンテンク率いる【覇王軍】と冒険者達だった。
俺とラリエスは急いで背負われ、南門の外に待機させていた覇王軍の馬車に乗せられ、ケガの手当のためモスナート教授率いる医療班の元に連れてこられて現在に至る。
「油断した・・・」
状況説明をしようと椅子から立ち上がった俺は、一言だけ話したところで眩暈を感じ地面に片膝をついた。
「大丈夫ですかアコル様!」
集まっていた【王立高学院特別部隊】のメンバーが、慌てて声を掛けながら俺を支えようとしてくれる。
「心配は要らない。魔力切れだ」
俺は薄笑いしながら、ボンテンクに抱えられ椅子に座って、フーッと大きく息を吐いた。
モスナート教授は、そんな俺に覚えた聖魔法を施しながら小言を言う。
「無茶が過ぎます覇王様。傷は小さいモノばかりですが、魔力切れで倒れるなんて、もう少し自重してください」
モスナート教授の手から緑色の光のようなものが放出され、血の出ていた傷口が塞がっていく。
トーブル先輩は、まだ目覚めず俺の隣に寝かされているラリエスに、覚えたばかりの聖魔法を施している。
モスナート教授もトーブル先輩も、肩に相棒の妖精を載せている。
「あの変異種の狙いは俺やラリエスではなく、光のドラゴンであるランドルだった。
アイツは、姿を現すと同時に走り出し、真っ直ぐランドルを囲っている壁を目指していた。
変異種やドラゴンを倒せる唯一の存在である光のドラゴンが、弱って死にかけていると知っていて、アイツは襲撃してきたんだ。
俺が様子見で放った攻撃は、硬い鱗に覆われた胴体に通用せず、次の攻撃を仕掛けようとしたところで、アイツは音を使った魔法で攻撃してきた」
まだ少し耳鳴りの残る頭を振りながら、得体のしれない変異種と対峙した時の様子を話していく。
「あの鳴き声は魔法だったのですか!?」
ボンテンクを含む【覇王軍】メンバーが驚いたように声を上げ、自分たちも同じ攻撃を受けて大変だったと話し始めた。
攻撃を受けた時のホーンブルの群や自分たちの状況を詳しく語り、マントの魔法陣を発動して難を逃れたのだと付け加えた。
「マントの魔法陣が無かったら、今頃は死んでいたかもしれません」と、現場で指揮を執ったゲイルが言えば、他のメンバーも間一髪だったと同意して頷く。
「変異種が幻術や魔法を使う例があると知っていたが、完全に油断した。
変異種のヤツは、ランドルを囲っていた壁に辿り着くと、あの凶悪な角で壁を壊し始め、それを止めようとした俺たちに、角を使って崩した壁の瓦礫を飛ばしてきた。このケガはその時のものだ」
どんどん自分の傷が塞がっていく様子を見ながら、俺は淡々と変異種との戦いの様子を説明していく。
酷い頭痛や眩暈と戦いながら、まだ飛び立つことができないランドルを失うことは絶対に出来ないと、壁を壊していた変異種の後ろ脚を攻撃して斬った。
胴体と違い足は鱗に覆われていなかったので、思っていたより簡単だった。
ラリエスも剣でもう片方の後ろ脚の腱を斬ったけど、変異種に蹴り飛ばされてしまった。
変異種はバランスを崩しながらも俺を睨み付け、再びあの音の攻撃を仕掛けてきた。
再度の攻撃で頭は割れるように痛んだが、俺は自分の持てる最大限の魔力を込めて【覇気】を放った。
俺の【覇気】を受けた変異種は、一瞬で体が硬直したようになり、ドーンと地響きをたてながら倒れた。
止めを刺さねばと思ったが、平衡感覚がなくなった俺も倒れてしまい、直ぐには起き上がれず焦っていたら、崩れた壁の中からランドルが出てきた。
止めを刺したのはランドルだった。
ランドルは倒れていた変異種の首に噛み付き、そしてへし折った。
遠のきそうな意識をなんとか繋いで、俺は変異種をマジックバッグに収納し、ランドルに「ありがとう、よくやった」と礼を言ったところで意識を失ったようだ。以後の記憶がない。
その後、ボンテンク一行が戻って来るまで、ランドルは俺とラリエスを護るように、直ぐ側で寝そべっていたらしい。
ボンテンクたちが戻って来ると、ランドルは「キューキュー」と鳴き、俺の体を鼻先で押してボンテンクに差し出すようにしたらしい。
そしてエクレアとラリエスの契約妖精のトワが現れ、早く二人を治療してくれと頼んだそうだ。
初めてトワを見たメンバーは驚いたらしいが、トワは自分をラリエスの契約妖精で、光のドラゴンを守護する妖精なのだと説明し、心配そうにラリエスの体の上を飛び回っていたという。
ルフナ王子がランドルを心配して、南門の外に残ろうかと提案したらしいけど、ランドルは自力で空へと飛びあがってみせ、妖精のトワが心配いらないと伝えたから、全員で俺とラリエスの治療をするため移動したのだとか。
俺はつい先程目を覚まし、皆に心配させてしまったことを謝った。
「それにしても、魔法を使う変異種は厄介だな」と、俺を背負って馬車に乗せてくれた冒険者ギルドのギルマスが重く呟いた。
「音だけ遮断できる防御魔法なんて無いよな?」とゲイルも腕組みして考え込む。
「ある意味グレードラゴンより厄介かもしれない」とトゥーリス先輩も同意する。
「しかも知恵まで回るからな」とボンテンクは溜息を吐いた。
……やはり変異種は油断できない。いい教訓になった。
私たちが戻った時、アコル様とラリエス君は意識を失い倒れていて、光のドラゴンがまるでお二人を護るように寄り添っていたのですから」
ボンテンクが寿命が縮まったと言いながら説明を始めると、他の【覇王軍】メンバーも全くだと言いながら大きく頷く。
全身傷だらけになって倒れていた俺とラリエスを発見したのは、ホーンブルの群を討伐して戻ってきたボンテンク率いる【覇王軍】と冒険者達だった。
俺とラリエスは急いで背負われ、南門の外に待機させていた覇王軍の馬車に乗せられ、ケガの手当のためモスナート教授率いる医療班の元に連れてこられて現在に至る。
「油断した・・・」
状況説明をしようと椅子から立ち上がった俺は、一言だけ話したところで眩暈を感じ地面に片膝をついた。
「大丈夫ですかアコル様!」
集まっていた【王立高学院特別部隊】のメンバーが、慌てて声を掛けながら俺を支えようとしてくれる。
「心配は要らない。魔力切れだ」
俺は薄笑いしながら、ボンテンクに抱えられ椅子に座って、フーッと大きく息を吐いた。
モスナート教授は、そんな俺に覚えた聖魔法を施しながら小言を言う。
「無茶が過ぎます覇王様。傷は小さいモノばかりですが、魔力切れで倒れるなんて、もう少し自重してください」
モスナート教授の手から緑色の光のようなものが放出され、血の出ていた傷口が塞がっていく。
トーブル先輩は、まだ目覚めず俺の隣に寝かされているラリエスに、覚えたばかりの聖魔法を施している。
モスナート教授もトーブル先輩も、肩に相棒の妖精を載せている。
「あの変異種の狙いは俺やラリエスではなく、光のドラゴンであるランドルだった。
アイツは、姿を現すと同時に走り出し、真っ直ぐランドルを囲っている壁を目指していた。
変異種やドラゴンを倒せる唯一の存在である光のドラゴンが、弱って死にかけていると知っていて、アイツは襲撃してきたんだ。
俺が様子見で放った攻撃は、硬い鱗に覆われた胴体に通用せず、次の攻撃を仕掛けようとしたところで、アイツは音を使った魔法で攻撃してきた」
まだ少し耳鳴りの残る頭を振りながら、得体のしれない変異種と対峙した時の様子を話していく。
「あの鳴き声は魔法だったのですか!?」
ボンテンクを含む【覇王軍】メンバーが驚いたように声を上げ、自分たちも同じ攻撃を受けて大変だったと話し始めた。
攻撃を受けた時のホーンブルの群や自分たちの状況を詳しく語り、マントの魔法陣を発動して難を逃れたのだと付け加えた。
「マントの魔法陣が無かったら、今頃は死んでいたかもしれません」と、現場で指揮を執ったゲイルが言えば、他のメンバーも間一髪だったと同意して頷く。
「変異種が幻術や魔法を使う例があると知っていたが、完全に油断した。
変異種のヤツは、ランドルを囲っていた壁に辿り着くと、あの凶悪な角で壁を壊し始め、それを止めようとした俺たちに、角を使って崩した壁の瓦礫を飛ばしてきた。このケガはその時のものだ」
どんどん自分の傷が塞がっていく様子を見ながら、俺は淡々と変異種との戦いの様子を説明していく。
酷い頭痛や眩暈と戦いながら、まだ飛び立つことができないランドルを失うことは絶対に出来ないと、壁を壊していた変異種の後ろ脚を攻撃して斬った。
胴体と違い足は鱗に覆われていなかったので、思っていたより簡単だった。
ラリエスも剣でもう片方の後ろ脚の腱を斬ったけど、変異種に蹴り飛ばされてしまった。
変異種はバランスを崩しながらも俺を睨み付け、再びあの音の攻撃を仕掛けてきた。
再度の攻撃で頭は割れるように痛んだが、俺は自分の持てる最大限の魔力を込めて【覇気】を放った。
俺の【覇気】を受けた変異種は、一瞬で体が硬直したようになり、ドーンと地響きをたてながら倒れた。
止めを刺さねばと思ったが、平衡感覚がなくなった俺も倒れてしまい、直ぐには起き上がれず焦っていたら、崩れた壁の中からランドルが出てきた。
止めを刺したのはランドルだった。
ランドルは倒れていた変異種の首に噛み付き、そしてへし折った。
遠のきそうな意識をなんとか繋いで、俺は変異種をマジックバッグに収納し、ランドルに「ありがとう、よくやった」と礼を言ったところで意識を失ったようだ。以後の記憶がない。
その後、ボンテンク一行が戻って来るまで、ランドルは俺とラリエスを護るように、直ぐ側で寝そべっていたらしい。
ボンテンクたちが戻って来ると、ランドルは「キューキュー」と鳴き、俺の体を鼻先で押してボンテンクに差し出すようにしたらしい。
そしてエクレアとラリエスの契約妖精のトワが現れ、早く二人を治療してくれと頼んだそうだ。
初めてトワを見たメンバーは驚いたらしいが、トワは自分をラリエスの契約妖精で、光のドラゴンを守護する妖精なのだと説明し、心配そうにラリエスの体の上を飛び回っていたという。
ルフナ王子がランドルを心配して、南門の外に残ろうかと提案したらしいけど、ランドルは自力で空へと飛びあがってみせ、妖精のトワが心配いらないと伝えたから、全員で俺とラリエスの治療をするため移動したのだとか。
俺はつい先程目を覚まし、皆に心配させてしまったことを謝った。
「それにしても、魔法を使う変異種は厄介だな」と、俺を背負って馬車に乗せてくれた冒険者ギルドのギルマスが重く呟いた。
「音だけ遮断できる防御魔法なんて無いよな?」とゲイルも腕組みして考え込む。
「ある意味グレードラゴンより厄介かもしれない」とトゥーリス先輩も同意する。
「しかも知恵まで回るからな」とボンテンクは溜息を吐いた。
……やはり変異種は油断できない。いい教訓になった。
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